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経営難に直面するシェアリング自転車。ofoの理想と現実

中国の「最後の1km」の移動を変えたシェアリング自転車。そのパイオニアであるofoが経営難に直面している。しかし、企業として死んだわけではない。資金援助の申し出はいくつもあるが、戴威CEOがそれを頑なに拒んでいるのだ。その理由は、経営権が失われて、ofoの理想を実現できなくなることを恐れているからだと科技重器が報じた。

 

経営難に直面するユニコーン企業

シェアリング自転車のパイオニアだったofoが経営難に直面している。リストラを行い、滴滴出行への身売り話も不調に終わり、これ以上の手がなくなり、倒産の可能性も出る中でぎりぎりで踏みとどまっている。

2016年に登場したシェアリング自転車には、2017年には170億元(約2800億円)以上の投資資金が流入し、市場には70社以上が参入した。しかし、この投資資金の90%はofoとMobikeに対するものだった。

しかし、シェアリング自転車は大量の自転車を市場に投入する必要があり、さらにofoとMobikeを中心にする競争も激しく、なかなか黒字化ができないままでいた。そのため、次々と投資資金を集め、ofoとMobikeはユニコーン企業となったが、2018年になっていよいよ追加の投資資金が集まらなくなってきた。

ofoには金沙江創業投資基金、アリババ、滴滴出行などが資金提供を申し出たが、ofoの戴威(ダイ・ウェイ)CEOは、創業メンバーの経営権が奪われることを恐れ、それを拒否し続けてきた。しかし、運転資金は次第に少なくなり、とうとう利用者から預かったデポジット料金の返還も滞る事態になっている。

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▲歩道に並ぶofoの自転車。黄色いことから小黄車と呼ばれる。シェアリング自転車そのものは、市民にとってもはやなくてはならないものになっている。

 

自転車で、自分を取り巻く世界を理解する

2013年6月、戴威は北京大学の光華管理学院を卒業した。修士課程に進むことが決定していたが、進学を1年遅らせて、戴威は、辺境とも言える青海大通県の東峡鎮に行き、小さな学校の教師を1年間することにした。小さな村から山の中に通勤するのに、戴威はマウンテンバイクを持ち込み、それで山道を走って学校に通った。美しい青海の山々を眺めて自転車を漕ぎながら、戴威はこう考えた。「自転車というのは、世界を理解するのにいちばんいい方法だ」。

つまり、戴威の発想の元にあるのは移動手段ではなかった。世界を理解するために自転車に乗るということだ。歩く速度では遅すぎて、激変する現代では多くのことを理解できない。自動車では速すぎて、理解のスピードが追いつかない。ちょうどいい速度の自転車に乗り、風景からさまざまなことを発見し、理解する。自分を取り巻く世界を理解するために、自転車を使うという発想だ。

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▲ofoをユニコーン企業の成長させた戴威CEO。中国で最も若い億万長者になった。ofoは経営が厳しくなっているが、戴威CEOは経営権を渡さず、自分の理想を実現する苦しい道を選んでいる。

 

シェアリングエコノミーに触発されofoを起業

この経験から、北京に戻った戴威は、同級生だった3人を誘って、ツーリング自転車を製造して販売するスタートアップを始めた。しかし、まったくうまくいかなかった。

かつての中国は誰もが自転車に乗る国で、大通りは朝夕自転車で埋めつくされていた。しかし、それは自転車が好きだったわけではない。庶民は、自転車しか移動手段がなかったのだ。それが、地下鉄が建設され、庶民でも次第に自動車が持てるようになると、自転車は「貧しい中国」の象徴となり、誰も乗らなくなっていたのだ。

戴威が悩んでいる時、米国でウーバーやAir BnBのようなシェアリングエコノミーが興ってきた。これを見て、戴威はショックを受け、2015年6月、「最後の1km問題を解決する」手段として、シェアリング自転車のビジネスをスタートさせることにした。

 

北京大学内で、自転車を集めビジネスを始める

まず北京大学の構内で、シェアリング自転車のサービスをスタートさせた。北京大学生は、いつでもどこでも自転車で学内を移動できる。そういうサービスだった。

しかし、大量の自転車をどこから持ってくるのか。戴威は賢い方法をとった。大学の中を回ってみると、明らかに使ってない放置されている自転車が置いてある。これを公募して寄付してもらったのだ。寄付をしてくれた人は、無料でシェアリング自転車が利用できる権利を与えた。寄付をする方からすると、壊れて乗れない自転車を持っているより、それを寄付して、シェアリング自転車を無料で使えた方がいい。この方法で、自転車は瞬く間に2000台が集まり、北京大学内でのシェアリング自転車サービスが始まった。

このサービスは、北京大学の創業コンテンストで表彰されることになった。

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スマホアプリで、ナンバーを入れ、解錠番号を入手する。支払いはそのままスマホ決済。中国のシェアリング経済を牽引したofoは今、経営危機に直面している。

 

2年足らずでユニコーン企業へ

このサービスは大好評で、瞬く間に投資資金が集まり始めた。2016年1月には、投資会社の金沙江創業投資基金から突然呼び出され、1500万元(約2億4000万円)の投資の申し出があった。戴威は、最初は投資会社の名前を騙った詐欺だと思ったほど、突然の申し出だったという。これがAラウンド資金となり、ofoは本格的にシェアリング自転車のサービスを展開していくことになる。

それからの成長はあっという間の出来事だった。2017年7月には、ofoの黄色い自転車が中国のどの都市でも、どの街角で見られるようになり、ofoの企業価値は30億ドル(約3400億円)となり、ユニコーン企業になった。戴威は26歳にして「中国で最も輝いている90年代生まれ」と呼ばれるようになり、個人資産も35億元(約570億円)を突破した。

 

合併がビジネス的には正解、しかしofoの世界観が壊れる

しかし、2017年後半になって状況が変わってきた。投資元の金沙江創業投資基金は、ofoとライバルのMobikeの合併を構想し始めたのだ。シェアリング自転車は1日5000万回利用されている。しかし、ofoとMobikeの2社が競い合っているため、利用者は不便を強いられていた。ofoの会員が、目の前にMobikeがあっても利用できない。金沙江創業投資基金は、もしofoとMobikeが合併をすれば、1日1億回から2億回の利用が見込まれると考えていた。売上は、年で300億元(約4900億円)から600億元(約9800億円)になると試算される。

ofoとMobikeの競争は膠着状態になっていて、これ以上の競争は双方にとって消耗戦になるしかない。合併することは互いにとって有利なことだし、双方に資金を出している投資家にとっては投資効率がさらに上がることになる。

しかし、ofo、Mobikeともに、企業としてのビジョンや目的が違っている。双方のCEOは合併に頑なに反対をしている。特に若い戴威は、合併をしてしまうと、MobikeのCEOで企業経営の経験が豊富な王暁峰にいいように手玉に取られてしまい、自分たちの理想の「自転車に乗って世界を理解する」世界観が潰されてしまうのではないかと恐れていた。

実際、滴滴出行がofoに戦略投資をした時は、すぐに滴滴出行の人間が、ofoの経営陣に派遣され、戴威のofoに対する影響力は急速に弱まってしまった。 

 

競争の激化、強引な海外進出が痛手に

2018年になって、ofoの経営がいよいよ難しくなっていった。その原因は、Mobikeとの競争のために利用料を安くしたり、無料にするキャンペーンを次々と打たなければならず、黒字化が難しくなっていたこと。もうひとつは、次第にofoが自分たちの会社ではなくなっていくことに危機感を覚えた戴威が、積極的な海外進出をしたことだ。

このため、ofoの資金は3.5億元(約57億円)まで減っていたが、利用者が支払ったデポジット総額は30億元(約490億円)にもなっていた。このデポジットは、利用者が退会をする時に返却をしなければならない。

2018年1月、あるメディアがofoの資金は6億元も不足している。毎月、4億元から5億元の運営コストがかかるので、1ヶ月このままだったら持たなくなるという報道を行った。同時に、ofoと決裂をした滴滴出行が破産をしたシェアリング自転車企業を買い取って、滴滴出行のシェアリング自転車サービスを開始した。

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▲経済成長以前の中国は自転車王国だった。しかし、それは一般庶民は自転車しか買えないからだった。この豊かな時代に自転車に乗る意味をofoは問おうとしている。

 

自転車資産を抵当にする崖っぷち融資

メディアに足を引っ張られ、滴滴出行からは戦いを挑まれた戴威だが、彼はめげなかった。ある意味、禁じ手を使って、アリババから17億元(約280億円)の融資を引き出した。1000万台の自転車を抵当に入れて融資を受けたのだ。つまり、もし融資が返済できない場合は、ofoの自転車がアリババのものになる。ofoはなくなり、アリババに吸収されてしまうことになる。

この崖っぷち融資を受けて、戴威は3つの策を打ち出した。ひとつは海外展開の縮小。二つ目がリストラ。海外部門は全員リストラ。国内部門も50%リストラという大幅縮小だ。3つ目がB2Bビジネスだ。法人と月極め、年極めで利用契約を結ぶ。

  

理想のためにいちばん辛い道を選ぶofo

多くの評論家が、ofoの最も理想的な道は、買収されることだと言う。アリババや滴滴出行という資金力のある企業に買収をされれば、運転資金の問題は解決されるし、その企業の他のサービスと組み合わせることで、黒字化の道も見えてくる。戴威もすでに若き億万長者になっているので、この苦しい状態から抜け出して、買収で得られる利益を手に、また新たなビジネスを始めることができる。ofoをビジネスとしてみた場合は、いち早く買収話をまとめることが、シェアリング自転車利用者を含めた全員がハッピーになれる道なのだ。

しかし、戴威とその仲間たちは頑なに買収の道を拒み、独自運営をなんとか続けようと苦しみもがいている。戴威は言う。「投資資金には感謝している。投資資金があったから、ofoはこれだけ早く成長することができた。しかし、投資家は創業者の理想と決心というものを理解すべきだ」。

戴威は理想を捨てない。21世紀前半で最も輝かしいスタートアップ神話と言われたofoの物語は、今やドロドロのお金と欲望にまみれた昼メロドラマになりつつある。それでも戴威は、理想を捨てない。戴威とofoの物語の結末は、まだ見えてこない。