テンセントとアップルの間でアップル税をめぐって対立が続いている。どちらも譲歩をする姿勢はなく、最悪の場合、中国の国民的アプリ「WeChat」が配信停止になる可能性まで出てきていると極客公園が報じた。
再び対立するアップル税問題
再び、騰訊(タンシュン、テンセント)とアップルの間で、アップル税をめぐる対立が起きている。テンセントは、アップル側がどうしてもアップル税を取るというのであれば、自社のスーパーアプリ「微信」(ウェイシン、WeChat)をアップストアから削除するとも発言しており、そうなると市民のほぼ全員が使うアプリであることから、iPhoneのセールスにも影響しかねない事態になっている。
2017年にも起きた投げ銭のアップル税問題
テンセントとアップルの間では、2017年にもアップル税問題が起きている。アップルは、アップストアで配信をしたアプリで課金をする場合、アップルのアプリ内購入(In-App Purchase、IAP)を通じて行うように規約で定めている。通常は有料アプリの販売代金だが、アプリの課金方式が多様化する中で、アプリを配信する側からさまざまな不満が起きていた。なぜなら、アップルはIAPを通じて行われる課金の30%を手数料として徴収をするからだ。
2017年の問題では、WeChatの中の投げ銭が問題になった。WeChatにはスマートフォン決済「WeChatペイ」が内蔵されており、SNS機能を通じて、個人間で金銭を送金することができる。これにより、WeChat内で文章や映像などのコンテンツを発表し、それを評価した人がお金を送るという投げ銭が生まれ、コンテンツの発表で生計を立てるクリエイターも生まれてきていた。
しかし、アップルは、この投げ銭もIAPを通じて行うべきであり、30%の手数料を徴収するとしたのだ。これが「アップル税」として不満の対象となった。なぜなら、Androidではアプリの配信は必ずしもグーグルプレイを通さなくても可能になっており、その場合はアップル税のようなものは生まれない。配信者は100円の投げ銭があれば100円を受け取ることができる。しかし、iPhoneからの投げ銭はアップルが30%の手数料を取る。
この問題は、WeChatが一時、投げ銭機能をオフにするなど対立が続いたが、アップル側が譲歩をし、投げ銭に関しては手数料を取らないように規約を改定したため収まった。
今回のアップル税問題はゲーム課金
今回のアップル税問題は、WeChatのミニゲームだ。WeChatには、ミニプログラムと呼ばれる仕組みがある。ミニプログラムの実態はWeChat専用のウェブアプリだが、WeChatの中からいつでも呼び出すことができ、無数のミニプログラムが公開をされている。当初は、モバイルオーダーなどの実用的なミニプログラムが多かったが、2020年以降、ミニゲームが増加をしている。絵合わせの要領でタイルを取り除いていく「羊了個羊」、果物をぶつけて合成していく「大西瓜」など、カジュアルゲームで大ヒットが生まれている。
ミニプログラムのゲーム利用者は10億人を超え、240以上のゲームが四半期で課金・広告収入が1000万元(約2億円)を超えている。開発業者の7割程度は30人以下の小さな企業で、30%のアップル税は死活問題にもなっている。
WeChatミニプログラムのゲームの収益は、2024年上半期で166.03億元(約3300億円)にもなっており、アップル税はテンセントの収益にも影響を及ぼしている。
アップル税を回避したテンセント
テンセント側は独自の対策をとった。課金をする時、アップルのIAPを通さず、支払い用のリンクを発行し、利用者はこのリンクをタップすると、WeChatペイで支払いをすることができる。つまり、アップルの課金システムを回避する方法をとった。これはアップルから見れば、規約違反であり、抜け穴を使われたことになる。
当然ながら、テンセントに対して、この課金回避法を停止するように指導をすることになる。さもなければ、アップストアでの配信を停止すると警告をした。
アプリストアのアップル独占問題
この問題の根底にあるのは、iPhoneのアプリがアップルのアップストア以外からは配信ができない体制になっていることだ。Androidのように自由に配信ができる体制になっていれば、アプリ開発企業は、手数料や利用者数などを勘案して、最適なアプリストアから配信をすることができる。一方、iPhoneはアプリストアがアップル公式に限定されていることにより、安全性が高まり、利用者は安心をしてアプリを使えるようになっていることもまた事実だ。
EUは、デジタル市場法(Digital Market Act、DMA)を2023年5月から施行をしている。EUはこの法律に基づいてアップルの審査を開始し、公式アップストア以外での配信を認め、IAPを使うことを強制しないようにする要求をしている。アップルも協力をし、第三者の配信と独自の課金手法を認める方向に進んだ。
中国以外は手数料率が見直しされている
中国でもEUと同様の体制に移行することを求められ始めている。ファーウェイは独自のOS「Harmoney OS」で、独自のアプリストアを運営している。ここでの手数料は20%とアップルよりも低率で、WeChatについては一切の手数料を徴収していない。つまり、自社にとって利益のあるアプリについては優遇をしていることになる。これは、地域の活性化になる企業を誘致する場合にさまざまな税制優遇などの措置を取るのと同じで、ビジネス的な判断をしている。一方で、零細配信企業からは公平性に欠くという不満も出ている。
中国の配信企業から不満が出ている背後には、中国だけが高い手数料率がかけられていることもある。米国やEU、韓国では手数料率やサイドローディング(アップストア以外からの配信)の見直しがされているのに、米国、EUに続く大きな市場である中国では、当初の30%が据え置きのままにきている。これをEU並みにしてほしいという思惑もあるようだ。
公式以外のアプリストアを認めるのか、手数料率はいくらにすべきで、どの課金にかけるべきなのか。正解はない。確かなのは、アップルが15年間運営してきたアップストアの規約に、多くの人が不満を持ち始めているということだ。