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テンセントWeChatにEC機能。ミニプログラムに続き、小売業を変革するか?

テンセントのSNS「WeChat」にEC機能が搭載された。商品さえ用意できれば、誰でも簡単にオンラインショップが開店できる「小商店」だ。物流、在庫、決済などのバックオフィスツールはすべて提供されるため、個人でもショップが開店できる。ミニプログラムに続いて、小売業を大きく変えていく機能になる可能性があると彭湃新聞が報じた。

 

アリババの領土に侵入したWeChat小商店

中国のテック企業の2巨頭であるテンセントとアリババには、明確な国境のようなものがある。テンセントはECを持っていない。SNS「QQ」「WeChat」を核にし、ゲームやストリーミング、スマホ決済に進出をしてきた。ECは京東、拼多多などに出資をし、支援をするにとどまっている。

一方、アリババはSNSを持っていない。EC「淘宝」(タオバオ)を中心にして、スマホ決済などに進出をしてきている。

ところが、テンセントが本格的なECの機能をWeChatに搭載した。両社の勢力地図に大きな変化が起こるかもしれないと話題になっている。

 

EC領域に起きている「ソーシャルEC」と「ライブコマース」という大きな変化

ECの領域では近年大きな変化が起きている。それはソーシャルECの登場とライブコマースの成長だ。

ソーシャルECは「拼多多」(ピンドードー)、「雲集」(ユインジー)などが相次いで米ナスダック市場に上場するなど勢いがある。拼多多はSNSでまとめ買いの仲間を募って購入する方式、雲集は会員になると自分のオンライン店舗を持ち、販売もできるというもの。さらに、コロナ禍により営業ができなくなった個人商店が、ライブ配信を利用して、店舗の商品を売るライブコマースが広がっている。

「ソーシャルEC」「個人店舗」「ライブコマース」が、大きなトピックとなり、タオバオや京東など大手のECも、対応した機能を公開している。

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▲テンセントが始めたソーシャルEC「小拼拼」。購入者を募って、まとめ買いをすると安くなる仕組みで、SNS「WeChat」との連携もスムース。ソーシャルEC「拼多多」とよく似たコンセプトになっている。

 

WeChatにソーシャルEC、ミニ店舗機能搭載

テンセントが始めるWeChatのEC機能は2つ。ひとつは「小拼拼」(シャオアピンピン)。SNS「WeChat」を利用して、同じ商品を購入する仲間を募り、まとめ買いをするソーシャルECで、明らかに拼多多とよく似ている。

もうひとつの「微信小商店」(シャオシャンディエン、微信はWeChatの中国名)だ。これは、個人であっても、商品さえ用意すれば簡単にオンラインショップが開けるというもので、雲集を意識していると言われる。

小商店をオープンの際、テンセントの担当者はこう宣言した。「これからは、下町で小さな食料品店を開いている60歳の女性から、自分のブランドを確立したい20代のデザイナーまで、身分証明などがあるだけで、月間アクティブユーザーが12億人もいるWeChat生態圏の中でショップを開くことができるのです」。

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▲WeChatが提供する「小商店」。商品さえ用意できれば、すぐにショップが開店できる。店舗ミニプログラムのひな形も用意され、決済、在庫管理、販売管理、物流管理などのシステムも提供される。現在、手数料などはすべて無料になっている。

 

個人でもWeChatの中にショップを簡単に開店できる

簡単に言えば、大きな消費者チャネルとして成長してきたWeChatミニプログラムの小売店用ひな形が用意してあって、そこに売りたい商品の情報を登録していくことで、自分の店舗のミニプログラムを作成できるというものだ。

WeChatミニプログラムは、SNS「WeChat」の中からアクセスできるアプリ、ウェブアプリのようなもの。ネイティブアプリに比べて、「インストール不要」「アカウント登録不要」(WeChatアカウントが流用される)「決済方法登録不要」(WeChatペイが利用される)という利点があるため、初めてそのショップを利用する時でも、すぐに利用ができるため、新規顧客の獲得ツールとして、さまざまな企業に活用されている。

このミニプログラムを利用して、WeChat内に自分の店舗を持つことができるというものだ。

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▲小商店の店舗側管理画面。物流、決済、在庫の管理システムやマーケティング分析ツールなども無償提供されている。競争力のある商品さえ用意できれば、路面店よりも開店しやすい。

 

小商店はライブコマースにも対応

さらに大きいのが、ライブ配信に対応していることで、ライブコマースが簡単にできる。単なるライブ配信ではなく、視聴者が購入操作をすると、購入処理ができるようになっている。

また、商品管理、販売管理、決済、物流管理などの仕組みも整っており、利用者は自分で商品さえ用意できれば、すぐに店舗運営が始められる。

現在、企業は同時に50店舗まで、個人商店主は5店舗まで、個人は1店舗を開店することができる。商品点数は現在のところ1500点まで出品できる。

また、現在のところ、開店手数料、販売手数料などは必要なく、無料で開店できることも話題になっている。

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▲WeChat小商店で日用雑貨を販売するショップ。ライブコマースが可能になっており、個人でも商品さえ揃えばショップを手軽に開店できる。

 

ミニプログラムに続き、小売業を大きく変えることになるか?

テンセントは2005年に拍拍網というCtoC型のECをスタートさせて、失敗した経験がある。アリババのタオバオの前に敗れたのだ。それ以来、自社でECを運営するのではなく、EC企業に投資をし、テンセントはそれを支援することで、アリババ包囲網を構築してきた。

今回の小商店も、自社でECを運営するというよりは、ECを運営したい企業や個人に運営のための環境を提供するというものになっている。「ソーシャルEC」「個人店舗」「ライブコマース」といった近年話題の機能を網羅しており、何より、WeChatミニプログラムは、毎日4億人の人が利用し、WeChatミニプログラム経由の流通総額は累計8000億元(約12.3兆円)を突破している。これらのことから、小商店の数は短期間で増加すると見られており、今後のECの勢力図を大きく書き換える台風の目となる可能性もある。