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丸亀製麺が中国に再挑戦。日式ファストフードはなぜ次々と敗退をしたのか

丸亀製麺が中国市場に再挑戦をする。しかし、2000年前後から数々の日式ファストフードチェーンが中国に進出をし、成功していると言えるチェーンは皆無だ。なぜ日式は敗退をし続けるのか。進化の速度が遅すぎるからだと新消費が報じた。

 

丸亀製麺が中国市場に再挑戦

日本の丸亀製麺が中国に再挑戦をする。丸亀製麺は2012年に中国に進出をし、約45店舗を展開したが、現在の店舗数はゼロとなっている。再度進出をして、2023年内に旗艦店を出店し、2028年前に数百店舗規模に拡大し、1000店舗を目指すという。

しかし、道は険しい。なぜなら、多くの日式ファストフードが2000年前後からに中国に進出し、その多くが撤退をすることになっているからだ。

▲2012年に上海に進出した丸亀製麺。現場製麺という手法が受け、当初は行列ができるほど成功した。

 

初戦は大成功だった丸亀製麺

丸亀製麺の2012年の進出は初戦は大成功だった。2012年に上海市の都市型ショッピングモール「日月光中心広場」の地下2階にオープンし、翌年には香港、台湾にも出店した。

当初は盛況で、連日行列ができるほど人気となった。その最大の理由は「現場製麺」だ。

経済発展が進む当時の中国では、店舗で料理をつくるのではなく、セントラルキッチンで調理をし、店舗では温める、盛り付けるなどの簡単な調理で配膳するという方式に移行をしている最中だった。それは合理的であり、低価格や衛生への効果をもたらしたが、レトルト調理技術や輸送技術、保管技術などの問題から、味という最も重要な品質が落ちることになった。特に餃子、包子などの粉物の食感はセントラルキッチン方式では大きく損なわれる。多くの中国人が、ファストフードのセントラルキッチン方式に不満を持ち始めていた。

その中で、丸亀製麺は、店舗でうどんをつくる。中国の個人飲食店では餃子や小籠包の皮は店舗でつくり、すぐに食べるという鮮度が重要視され、丸亀製麺のうどんも製麺してすぐに食べる鮮度が命であり、中国人消費者の心を捉えることができた。

丸亀製麺は2015年までに100店舗に増やし、5年から7年で1000店舗規模にすると宣言をした。

丸亀製麺の店内。当時は具を自分で選んで会計するというバイキング方式も珍しく、合理的だと歓迎された。また、中国人になじみのある粉物食品であることも受け入れられやすいポイントになった。

 

吉野家も初戦は大成功

日式ファストフードはどこも初戦は大成功をする。1992年、吉野家北京市王府井に初出店をした。牛丼一杯6.5元という通常の昼食の2倍から3倍ほどの高価でありながら、人気となり、週末には1日で2000杯が売れるほどだった。

1997年には味千ラーメンが深圳市に初出店した。その後、2004年にはカレーライスの「coco壱番屋」、2008年位は牛丼の「すき家」、2011年にはうどんの「はなまるうどん」など、次々と日式ファストフードが中国に上陸をした。いずれも初戦は好評で、中国でも日式ファストフードが定着をするかに見えた。

しかし、2010年代末からいずれのチェーンも閉店が続き、撤退が始まり、残っている味千ラーメンも5四半期連続で減収、吉野家も赤字転落になるなど業績不振に苦しんでいる。

▲1997年に深圳に進出した味千も歓迎された。中国人に日式ラーメンという新しいジャンルの食品を認知させた。

 

問題は日本の味ではなく、日本の運営方法

なぜ、日式ファストフードは衰退をしてしまうのか。「日式」という商品に問題があったのではなく、「日式」運営が問題だった。

日式ファストフードが拡大をする中で、中国のラーメンである麺屋チェーンが拡大をしている。2012年に創業した「和府撈面」は、河南地方特有の茹でてすくいあげる麺で、つくり方は丸亀製麺によく似ている。具が並べられており、セルフでとって会計するというのも丸亀製麺のやり方であり、「和府」という名前も日本を連想させ、日系元素を店内にも取り入れている麺屋だ。

当初は成長が遅く、2019年になっても200店舗規模だったが、コロナ禍の中でサッと食べてサッと帰れる飲食店が人気となり、2021年に400店舗を突破するという成長ぶりを示している。

この他、中国では地方の独特の麺料理のチェーン化が流行となり、日式ラーメンだけでなく、日式ファストフードを完全に駆逐してしまった。

▲2012年に創業した中国の「和府撈面」。麺は中華麺だが、それ以外は丸亀製麺に何から何までそっくり。しかし、丸亀製麺は業績が悪化する一方で、和府撈面は400店舗まで拡大をしている。

 

大きな違いは、進化のスピード

中国チェーンと日式チェーンの最も大きな違いは、新製品の投入頻度だ。はなまるうどんは11年間中国で運営する間に18種類の新製品しか投入していない。しかし、中国系ファストフードでは年間10程度の新製品を投入するのが常識になっている。

これにより、来店客はいつきても食べたことがないメニューがあるために、新鮮さを感じることができ、リピート客を養成することができるようになる。

そして、重要なのは、中国の消費者たちは常に変化をし続けているということだ。丸亀製麺が中国に出店した2012年頃、経済成長まっただ中の中国の消費者たちが求めたものは新鮮味だった。食べたことがないものを食べてみたい。多少高くても、いろいろなものを食べてみたい。そういう気持ちから、物珍しい日式料理の人気が高まった。

しかし、2010年代後半になると、消費者たちは健康的でコストパフォーマンスの優れたメニューを好むようになった。わずか数年で、消費者の嗜好が変わっていく中国市場では、常に新製品を投入し、市場の動向をつかみ、適応していくことが求められる。

しかし、日式チェーンの多くが、商品に自信を持ち「うちの味は中国でも認められるはず」という信念にこだわりすぎ、新製品の投入を怠ってしまった。これにより、消費者の嗜好とずれていき、業績不振となっている。

 

高価格帯であることが武器にもなれば弱さにもなる

さらに、日式チェーンの多くは、中国のファストフードの相場から見ると高い価格設定になっている。高級ファストフードに分類される価格帯になっている。当初はそれがブランド価値を高めることにプラスに働いた。吉野家は「1899年に日本橋の魚河岸で開店した100年企業」という事実をうまくアピールし、高級ファストフードとして認識をされた。学生やサラリーマンが、何かいいことがあった時に、自分へのご褒美として食べにいく店になっていった。

しかし、新製品の投入がなく、市場の嗜好とずれ始めると、高価格であることが客離れの速さにつながった。これにより、日式ファストフードは急速に衰退をしていった。

▲1992年に北京に進出した吉野家は、1899年に創業した100年ブランドであることを強調した。価格も相場からは高いため、高級ファストフードとして認識され、自分のご褒美に食べにいく場所になった。

 

日式で定着をしているのはサイゼリヤ

非常にもったいない話だ。中国の30代以下は、程度の差はあるものの日本アニメを見るのが普通のことになっている。その中に登場する日本にしかないファストフードには強い関心を持っている。日本に旅行にきた時に、わざわざ吉野家や回転寿司、ラーメン屋に行く人も少ない。

日式ファストフードで、唯一定着しているのが450店舗を展開するサイゼリヤだ。サイゼリヤはイタリアンレストランであり、消費者から「日式」と理解されているかどうかは微妙だ。しかし、価格が中国の中では標準的でコストパフォーマンスがよく、次々と新メニューが投入されることから、リピート客を確保できている。日式ファストフードで定着をしているのが、日本料理ではなくイタリア料理であるというのは非常に皮肉な話だ。

サイゼリヤは価格が安く、メニューも豊富。新メニューも次々と投入され進化をしていく。中国で成功した日式ファストフードはイタリア料理という皮肉なことになっている。