中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国でも地位を獲得している日本料理。なのに、なぜ日本企業の撤退が続くのか

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今回は、中国の日本料理についてご紹介します。

 

農水省の資料によると、2021年の段階で、海外に日本食レストランは15.9万軒あります。このうち、アジア圏が10万900軒であり、中国には5万軒の日本食の飲食店があると言われています。



▲日本料理店は中国に5万軒あると言われている。最も日本料理が広まっている国であるとも言える。

 

みなさんも吉野家すき家などの牛丼チェーン、元気寿司、スシローなどの寿司チェーン、一風堂などのラーメンチェーンが中国に進出をしていることはご存知だと思います。また、くら寿司が夏までに上海に1号店を出店し、10年で100店舗にする計画を明らかにしています。さらに、丸亀製麺は2012年に中国に進出をし、50店舗ほどにまで拡大しましたが、現在は店舗数がゼロとなり事実上の撤退をしていました。その丸亀製麺も、再度中国に進出をし、数百店舗規模を目指すとしています。

日本の飲食チェーンの中国進出の動きが活発になってきました。

 

しかし、日本料理は中国の中で一定の地位を獲得していますが、その多くが日本企業ではなく中国企業です。日本料理チェーンのトップ企業は、3000店舗を展開している「N多寿司」(https://www.nduoshousi.com/)ですが、江蘇省無錫市に本社がある中国企業です。

メニューも日本の寿司店とはかなり違います。巻き寿司と軍艦巻きが中心で、さらには唐揚げ、たこ焼き、チキンカツなどのメニューもあります。握り寿司もエビやカニの天ぷら、うなぎ、玉子が中心で、私たちが寿司と感じるメニューはカニあしのにぎりぐらいしかありません。なま物がほとんどないのです。鮮度を保つ技術と、すし飯を握る技術の難易度が高いからではないかと思います。

これを「寿司に対する冒涜だ」と怒ってみても意味がありません。私たちだって、町中華は中国料理からは相当のアレンジをしていますし、パスタやピザ、ハンバーガーなども本場の人から見れば苦笑されるほど日本風にアレンジされています。N多寿司も日本の寿司をベースにしながら、中国人の舌に合うようにアレンジがしてあるのです。

日本でも、海外の飲食チェーンが入ってくる時に「本場の味そのまま」というのは、最初は話題になるにしても、結局うまくいかない例が多いようです。幼少期に獲得した食習慣というの強く、異文化の食事はたまに食べるのであればともかく、毎日のように食べるほどまでにはならないようです。

中国はその傾向が強く、ほとんどの人が中華料理以外はあまり食べません。中華料理といっても、メニューの幅は広く、薄味のものもあれば、味の濃いもの、辛いものまでさまざまあり、バラエティに関しては世界有数の料理のひとつです。ちゃんと料理を選べば、毎日食べても飽きません。よく、中国に旅行した日本人が「毎日、中華料理で辟易した」ということを言いますが、私たちが中華料理の幅の広さを知らないために、結局、毎日、油っぽくて味の濃い、私たちの想像力の中の中華料理を選んでしまっているからです。

また、中国人は食べ物のおいしさを香りで感じ取る傾向がありますが、私たち日本人は彩りや形から感じ取る傾向があります。その点で、中華料理は彩りも茶色っぽいものが多く、素材の形がわからなくなるほど切り刻んでしまうため、日本人にとっては食欲をそそりません。

 

この文化の違いは、日本の飲食チェーンが中国に進出する時に最も考えなければならない点になります。いくら日本食がおいしくても、そのままで中国人がおいしいと感じてくれるかどうかは別の話で、中華料理に寄せたアレンジをする必要があります。

この点で最も上手い例は、ケンタッキーフライドチキン(KFC)です。フライドチキンは中華とは味はまったく異なりますが、調理の技法としては中国の田舎炸鳥と基本的に同じです。鶏肉に溶き卵を絡めて、衣をつけて、油であげる料理です。そこでKFCは、中国に進出した時に、フライドチキンを「アメリカ式田舎鳥」というネーミングで宣伝をしました。

中国人にもなじみがある料理でも、食べてみると、自分たちが知っている田舎炸鳥とはだいぶ違う。面白いとファンを増やしていったのです。

また、海外の料理が進出をした場合、中国では自動的に高級料理になります。どうしても、地場の素材だけでまかなうことができず、食材などを輸入しなければならないため、価格が高くなるからです。地元のサプライチェーンを確立して、コストを下げるまでには時間がかかります。この高級であるというイメージも、うまく活用したいところです。

ある中年の方に聞いた話ですが、「子どもの頃はKFCには誕生日にしか連れていってもらえなかった」そうです。今では価格もこなれ、学生でも気軽に行くファストフードになっていますが、昔は価格が高い高級なレストランだったのです。そのイメージは今でも残っていて、KFCに行く時は少しテンションがあがるそうです。後ほど触れますが、日本の吉野家にもこういった高級のイメージが残っています。このイメージをどう活用するかも大きなポイントになります。

 

日本の飲食チェーンが中国進出をした場合、どうしても「私たちの味は中国の人にも受け入れられるはず」「本場の日本の味を届けたい」と考え、日本の味そのままに進出してしまいがちです。

このような進出の仕方をすると、初動は好調なことが多くなります。価格が高くても、本場の日本の味がやってきたということで、一度は行ってみようと考える人が多いからです。この初動の成功により、ますます「私たちの味は中国でも成功できる」と自信を深めてしまいますが、消費者が一巡をしてしまうと、客数が落ち始めて苦しむというパターンになっています。

一方、中国企業がこの隙間をねらっています。日本料理を銘打っているものの、先ほどのN多寿司のように、日本料理から相当に中国風のアレンジを加え、現地の食材を活用して低価格設定で、中国風日本食チェーンとして定着をしてしまうのです。

 

その典型例が吉野家です。吉野家は現在730店舗を中国に展開していて、日本企業の日本料理飲食チェーンとしてトップの位置にいますが、業績は悪化をし続けています。吉野家ホールディングズは決算説明会資料で、ここ3年ほどの中国の既存店売上前年比を公開しています。それによると、コロナ禍の2020年は77.6%と大きく落ち込み、2021年には116.5%と回復をしましたが、コロナ禍が明けた2022年には再び72.4%と大きな落ち込みを見せています。

しかし、1992年に中国に進出した時には非常に高く評価され、中国で成功した日本企業として紹介されることもありました。しばらくの間は、中国人の日本人に対するイメージとは「無印良品の日用品が置いてある部屋に住み、ユニクロの服を着て、吉野家の牛丼を食べにいく」だったこともあります。

1992年に吉野家北京市の王府井に初出店をした時は大成功でした。王府井は、東京の銀座にあたる場所で、現在は国際的なラグジュアリーブランドのブティックも並んでいます。価格は牛丼一杯が6.5元でした。都市部の平均年収が2109元という時代です。現在は10万6837元であるので、50倍になっています。6.5元の牛丼を50倍したら325元(約6300円)になります。牛丼はものすごく贅沢で高級な食べ物だったのです。これが週末になると1日で2000杯も売れました。

1997年には味千ラーメンが、2004年にはcoco壱番屋、2008年にはすき家、2011年にははなまるうどん、2012年には丸亀製麺が進出をします。いずれも進出直後には大きな話題となり、大盛況でした。しかし、その多くが撤退をし、残っている味千、吉野家も業績不振に苦しんでいます。

その間に、日本料理を学んだ中国企業が登場して、日本料理の市場を握ってしまいました。一体、日本企業はなぜ最初に受けたのでしょうか。そして、なぜその後、ジリ貧になっていくのでしょうか。また、どうして日本料理の中国企業は成長できるのでしょうか。

今回は、中国での日本料理市場についてご紹介します。

 

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