経済成長が続く東南アジア市場で、ハイアールの家電が存在感を増している。5年前はわずかなシェアしかなかったが、現在ではどの製品でもトップ3に入るシェアを得ている。「中国式」が経済成長する国に合っていたからだと呉暁波チャンネルが報じた。
経済成長の中心になっている東南アジア
コロナ後の経済成長の中心地は、言うまでもなく東南アジアだ。IMFによる2022年のGDP成長率を見ても、日本、韓国そして中国までもが3.0%以下の成長となったが、東南アジア各国はタイを除いて5%以上の高度成長をした。
中国の家電メーカーは、今、東南アジアが主戦場になっている。2021年12月、中老鉄道(中国ラオス鉄道)が開通した。中国の昆明からタイ国境に接するラオスの首都ビエンチャンまでを結ぶ国際鉄道だ。旅客は最高速度160km、貨物も最高速度120kmで結ばれる。これにより、中国と東南アジアの人流と物流が大幅に増えることになった。
東南アジアで躍進するハイアール
中国の大手家電メーカー「海尓」(ハイアール)は、東南アジアに進出をしているが、そこにはすでに日本と韓国の家電メーカーが入っており、ハイアールは東南アジア市場に適合しながら、日韓メーカーのシェアを奪っていく必要があった。
2017年、ハイアールは日韓メーカーに歯が立たず、タイの市場ではわずかなシェアしか獲得することができなかった。統計上は「その他」に分類されてしまう程度のシェアだ。しかし、2022年にはどのジャンルでもトップ3に入るほどにまで躍進をしている。
タイの家電市場は、2022年は全体が15%ほど下落をした。コロナ禍による経済的な痛みが大きく、買い控えが起きているからだ。しかし、ハイアールは販売額を20%ほど増加させた。
躍進の理由:大量の製品を投入し、変化速度をあげる
ハイアールの躍進の理由は4つある。
ひとつは豊富な製品ラインナップだ。ハイアールがタイ市場に投入した冷蔵庫は、2017年は40程度のSKU(Stock Keeping Unit、品目数)だったが、2022年には100を超えている。
2つ目は製品の置き換わりが速いということだ。冷蔵庫では、毎年、20から30のSKUが新型に置き換えられていく。これにより、市場の反応を見て、ニーズを取り入れた冷蔵庫を素早く市場に投入できるようになる。一方、日本企業や韓国企業は1つのモデルをマイナーチェンジのみで10年は変えない。製品の進化スピードで、日韓の家電メーカーを上回ることができた。
躍進の理由:素早い現地化
3つ目は、速い進化スピードで、急速に現地化が進んだ。たとえば、タイでは暑いために、氷の需要が高い。飲料の多くに氷を入れ、そのまま氷を食べる人も多い。そのため、ハイアールではすべての冷蔵庫に、クラッシュアイスがつくれる自動製氷器をつけた。これがタイの消費者に受けた。
また、暑い気候のため食品が腐りやすい。そこで、冷蔵庫室内を分割し、果物、野菜、肉、氷、乾物など種類別に保存できるようにした。果物が腐ってしまっても、果物だけ捨てれば、他の食品に影響しない。一方、日韓の冷蔵庫は多くが、冷凍と冷蔵だけを分けている一般的な冷蔵庫を販売し続けた。
この分室型の冷蔵庫はヒット商品となり、日韓メーカーにも模倣されるようになっている。
同様のことがエアコンでも起きている。タイは暑いためにエアコンを使う時間が長くなる。つまりは汚れやすくなり、湿度も高いためにカビも発生しやすい。最低でも年1度は分解清掃をすべきだが、その工賃は決して安くない。
そこでハイアールでは、自動清掃機能をほぼすべてのエアコンに搭載をした。日韓メーカーの場合は、自動清掃機能はハイエンド機のみに搭載されている。
躍進の理由:製造の現地化
4つ目は、製造も完全現地化をしたことだ。エントリー機からハイエンド機までのすべてをタイで生産をしている。これにより、試行錯誤のサイクルが短くなった。日韓メーカーも現地生産を行なっているが、エントリー機の生産が中心で、ハイエンド機に関しては他国で生産をして輸入するというスタイルだ。ハイエンド機の進化、現地化が遅くなり、価格も高くなる。
中国式働き方を自然に波及させる
このようなPDCAを回しながら、現地のニーズに適合していく仕事は簡単ではない。一方、タイの現地スタッフは仏教徒が多く、祝日が多く、残業をするという習慣がない。仕事が途中であっても定時になると帰宅をするという働き方だ。
日韓メーカーを追いかけるハイアールはこれでは仕事にならない。ハイアールは中国人スタッフが、猛烈に働くことで、日韓メーカーを追い上げた。中国人スタッフは残業、休日出勤が当たり前で、その代わり、成果が上がると給与は大きく増える。
中国人スタッフがそのような働き方をしていると、現地スタッフからも中国式働き方をする人が出てくる。そして、成果があがると給与を中国人スタッフを変わらずに大きく増やしていく。現地スタッフの全員に中国式の働き方をさせることは不可能だが、まず中国人スタッフが中国式を見せて、それに共感する現地スタッフを少しずつ増やしていった。
また、中国式は新しいことを始める時に、60%の準備ができると走り始めてしまう。たとえば、新製品を家電販売店に投入する場合でも、まずは置いてしまい、販売店の意見を聞きながら、柔軟に販売方式を変えていく。日韓メーカーは100%の準備をしてから動き始め、動いてしまうとその方式を頑なに変えない傾向があるため、中国式が功を奏した。
経済成長中の国では中国式働き方が合う
中国企業が日韓企業と最も大きく異なるのは、社内にチャンスが多く存在するということだ。成果を出せばどんどん給料は上がっていき、ヒットを出せば給料数ヶ月分に相当するボーナスが臨時支給される。
一方、日韓メーカーは、中国企業から見ると官僚的で、成果を出してもすぐに給与が増えるということはなく、数年後に社内の地位があがり、そこでようやく給与が増える。このやり方は現地スタッフのモチベーション向上にあまり寄与をしない。経済成長をしている国では、将来の不安はあまりなく、多くの人がもらった給与を貯蓄せずに消費をしてしまう。貯蓄をしても、経済成長率の方が高いために目減りをしてしまうからだ。そのため、数年後の昇給よりも、明日のボーナスを求めている。
中国は20年以上にわたって経済成長をしてきて、成長過程にある働き方が、現在の中国企業の標準になっている。その働き方が、東南アジアという成長市場でうまく機能をしている。