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難題だった中華料理の標準化。現場調理+計量精算でチェーン展開を可能にした「小女当家」

中華料理は品目数も多く、調理の標準化が難しく、大規模チェーンに成長することが難しい。この難題を、小女当家は現場調理+計量精算という手法で乗り越えた。現在29店舗展開で、展開速度が加速していると紅餐網が報じた。

 

全国区をねらい始めた中華ファストフード

中国のファストフードは、KFC(ケンタッキーフライドチキン)、マクドナルド、バーガーキングなどが大手になっている。しかし、このような西洋式ファストフードに対して、中華のファストフードも増えている。元々は、地域の個人飲食店から出発をした麺屋、定食屋などが多く、その地域では有名であっても、全国規模になることはなかった。しかし、コロナ禍以降、全国規模をねらう中華ファストフードチェーンが登場してきている。

▲深圳市に進出をした小女当家。現場調理というユーザー体験、計量精算という合理性が深圳の人たちの好みにマッチして行列ができるほどの人気になっている。

 

標準化が難しい中華料理チェーン

中華料理をファストフード化することは簡単ではない。ひとつは料理の種類が多すぎることだ。ハンバーガーのような西洋のファストフードは、実は料理の種類としては1つでしかない。そこにチーズを入れたり、肉パティを2枚にしたりしてバリエーションを出している。フィッシュバーガーなどを入れても、根幹の料理種類としては数種類に収まる。このため、調理法も標準化がしやすい。

一方で、中華料理は焼く、蒸す、煮るなど技法がいくつもあり、それぞれに食材が異なるため、調理を標準化することが難しい。

このため、ファストフード化できる中華は、麺専門店、火鍋専門店、点心専門店など、専門化した中華に限られていた。これは専門店とも言えるが、中華料理店としては一部の料理しか扱わないということでもある。

さまざまな工夫をすることにより、中華をファストフード化することができても、料理によって、使われる食材、調理方法が大きく異なるため、コストが大きく違ってくる。そのため、料理によって個別に価格設定をしなければならない。これを計算して支払いをしてもらうのもファストフードには向かない。注文票をつくり、スタッフが合計金額を請求し、支払いをしてもらわなければならない。ファストフードのように注文時に同時に会計を済ませるということがやりづらい。また、消費者も会計時まで正確な料金がわかりづらいという問題もある。

また、中華は熱量も味のひとつになっている。その場で中華鍋で調理をし、アツアツのまま提供するというのが中華料理だ。セントラルキッチン化を進め、店舗厨房での作業の標準化を進めると、温かい料理は出せても、アツアツの料理は出せなくなる。

 

チェーン化を可能にした「小女当家」

これを変えたのが、中華ファストチェーン「小女当家」(シャオニューダンジャー)だ。

小女当家は、2011年、江西省南昌市の壇子口で開店した飲食店が始まりだ。2012年には、南昌市紅谷灘にオープンキッチンを採用した支店を出し、健康を気にする人が増えたことから化学調味料を使わないことを宣言した。さらに、2013年には南昌市明徳路に支店を出し、ファストフードスタイルにした。人気店となったが、南昌市のローカルチェーンであり、南昌市以外の人にはあまり知られていなかった。

ところが、2017年に深圳市の創維ビル、2018年に中科ビルに出店をし、深圳のテック企業に勤める人たちから支持をされ、全国的にも名前を知られるようになった。

▲料理はご飯+スープ+皿という構成で、皿には自分の好きな料理を何種類でもとることができる。

 

現場調理+計量精算が標準化を可能にした

深圳で人気となった理由は主に2つある。

ひとつはオープンキッチンで調理をするということだ。キッチンには多数のシェフがいて、中華鍋を振っている。食材の状態から料理になるまですべての過程を現場で行う。これが健康に敏感な人にとっては安心感につながる。それだけでなく、中華シェフは店舗の演出要素のひとつにもなっている。中華料理のいい匂いが店内に充満し、中華鍋から時々炎があがる。それを見ながら、バイキング方式で好きな料理を自分の皿にとっていく。その顧客体験が、小女当家の大きな要素のひとつになっている。

もうひとつは合理性だ。料理は、ご飯+スープが基本で、おかずになる料理は好きなものをバイキング方式で取っていく。そして、精算はグラムいくらなのだ。異なる料理でもグラムあたりの価格が同じになるようにコスト調整されている。秤で計量して、自動的に料金が出るので、スマホ決済などで精算をする。

この現場調理+計量精算という方式は、標準化になじまない中華料理の標準化を追求した結果だ。標準化をすれば価格は安くなり、顧客体験はよくなるが、その一方で、味や中華料理独特の体験は失われる。この矛盾する中華の標準化を追求した結果だ。

このスタイルは、真功夫、72街などの中華ファストフード大手も模倣を始めている。

▲どの料理をとっても、重さで代金が決まる。複数の料理を持っても、合計の重さで価格が決まる。この合理性により、チェーン展開が可能になった。

▲シェフは常に料理をつくり続けている。この熱量、音、香りが優れたユーザー体験になっている。

▲シェフが中にいて、常に料理をつくり続けている。来店客は好きなものをバイキング方式で自分の皿にとっていく。

 

人材確保が最大の課題

しかし、小女当家のスタイルには課題もある。ひとつはシェフという人手に頼っているということだ。旗艦店では13名ほどのシェフが常駐をする必要があり、現場に出るには調理経験者が最低でも2週間ほどのトレーニングを受ける必要がある。この人材確保が最大のネックになっている。

そのため、新店舗ではAI調理ロボットも導入をしている。自動炒めロボット、自動蒸しロボットを導入し、一部の調理を自動化した。シェフの業務負担を減らすことで、必要スタッフ数を抑え、出店速度を高めようという試みだ。小女当家は現在29店舗の展開で、広西省、広東省などを中心にしている。