中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

香港のちょっといかした生活テクノロジー3選。一味違う香港の発想

超過密都市「香港」。その香港では、生活の利便性を高めるためにテクノロジーが利用されている。その工夫はきめ細かく、香港には学ぶべきことが多いと港儞知粤語が報じた。

 

周囲の騒音に合わせて音量を調節する視覚障害者交通信号

どの国でも、横断歩道の歩行者用信号は、視覚障害者のために音が出る仕組みを持っている。しかし、近隣の商店や住宅地などからは苦情が出ることもある。

香港の歩行者用信号でも、青、青点滅、赤に合わせて、リズムの異なる電子音が鳴る仕組みになっているが、周囲の環境音に応じて自動的に音量が調整される工夫がされている。そのため、賑やかな雑踏では聞き取れる音量となり、静かな夜間などは音が小さくなり、周囲への騒音を減らすことができる。


www.youtube.com

▲香港の視覚障害者用歩行者信号。耳障りな電子音だが、周囲の環境音の大きさに合わせて、音量が自動調整されるため、近隣からの苦情は少ない。赤の状態でも電子音が鳴り続けるが、視覚障害用信号があることを知らせるために重要。

 

ボックスが振動して信号の状態を伝える

さらに、最新式のユニットには、信号下に設置されたボックスが電子音に合わせて振動をする。視覚に障害があり、さらに聴覚にも不安がある人は、このボックスに手を触れておくことで、安全に横断歩道を渡ることができる。

また、この振動ボックスの底面には立体的な矢印がついていて、これに触れることで横断歩道の方向がわかる。複雑な横断歩道でも、振動と矢印に触れて確認することで、どの横断歩道が青になっているのかがわかる仕組みになっている。

▲信号機に設置された視覚障害者用の振動ボックス。手を触れておくと、振動することで歩行者用信号の状態を教えてくれる。

▲歩行者用信号の振動ボックスの底面には、矢印型の立体物がついており、横断歩道の方向を知ることができるようになっている。


交通カードを利用して青の時間を延長

高齢者や障害者のために、青の点灯時間を延長するボックスも設置され始めている。このボックスを使って、青の点灯時間を延長するには、香港の交通カードである「八達通」(オクトパスカード)をタッチする必要がある。

オクトパスカードは、持ち主が高齢者、障害者である場合、公共交通料金を割引にするための情報を持っているため、そのような割引対象者がタッチをすると青の点灯時間が延長される。もちろん、料金は徴収されないし、個人情報が取得されることもない。それ以外の人がオクトパスカードをタッチしても、青の点灯時間は延長されず、みだりに青を延長して、交通の妨げになることを防いでいる。

▲青の時間を延長するためにはオクトパスカードをタッチする。高齢者、障害者のオクトパスカードにのみ反応をするため、みだりに青信号を延長して、交通の妨げになることがない。

 

交通補助金は交通カードにチャージ

香港は、交通カードであるオクトパスカードを最大限に活用している。日本の交通カードと基本的な仕組みは同じだが、活用の幅が広い。例えば、香港政府は、2020年1月から、毎月の公共交通支出が400香港ドル(約6700円)を超えると、超えた分の1/3を補助する政策を始めている。また、コロナ禍からの経済回復を支援するために、2022年5月からは200香港ドルを超えた分の1/3を補助することになった。

その受け取り方は非常に簡単だ。毎月16日に、前月分の補助金が降りるので、地下鉄駅などにある専用の補助金機にオクトパスカードをタッチするだけだ。これで補助金分がチャージをされる。また、アプリと連動をさせている人は、どこにいてもアプリから受け取りをすることができる。

▲交通補助金、消費補助金などは、専用の機械にオクトパスカードをタッチすると、自動的にチャージされる。

 

コロナ支援金も交通カードにチャージ

このオクトパスカードは、コロナ後の経済回復の消費補助金にも活用されている。2022年は8月に2000香港ドル、10月に2000香港ドル、12月に1000香港ドルと3回に分けて配布された。受け取り方は、交通費の補助金と同じように、専用の補助金機にタッチするだけだ。

ただし、受け取りをするためには前回の補助金を一定程度使っていなければならない。例えば、12月の補助金を受け取るためには、それまでに4000香港ドル以上をオクトパスカードで使っている必要がある。税金の支払い、個人送金など経済回復に寄与しない消費は計算から除外をされる。

このように配布時期を複数に分け、一定額以上使っていないと、次回以降の補助金が受け取れない仕組みにして、補助金を確実に個人消費に回し、経済回復に寄与する仕組みにしている。

▲香港の交通カード「八達通」(オクトパスカード)。日本の交通カードと基本的には同じ仕組みだが、補助金の受け取りなどにも活用されている。

 

海水を利用する香港のトイレ

香港の生活テクノロジーで壮大なのが、トレイの水だ。香港は飲料水に乏しい都市であるために、節水テクノロジーが進んでる。トイレに使う水は、海水を汲み上げて利用している。この仕組みは1950年に構築された。年間3.2億立方米の飲料水を節約し、総使用量の2割に相当しているという。

香港水務署は、2015年に海水送水網を拡張し、現在は8.5割の住宅が、海水でトイレを流している。海水を使うと、飲料水が節約できるだけでなく、利用料金も政策的に安く設定されているため、上下水道料金も節約ができる。また、飲料水よりも供給のエネルギーを使わないため、炭素排出量を減らすことにも貢献している。

しかし、問題は塩による水管の腐食だ。このため、香港水務署は水管の品質基準を定め、海水に強い設備を使用することを求めている。

香港のテクノロジーは、目立たないところできめ細かく対応しているものが多い。この発想が、香港という超過密都市の生活を支えている。

▲黄色がトイレ用に海水が供給されている地域。8.5割の家庭が海水トイレを利用し、飲料水を節約している。

▲海水を海から汲み上げ、貯水庫から各家庭にトイレ用水として配水している。