中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

アリババが新小売戦略を放棄か?新小売スーパー「盒馬鮮生」、新小売百貨店「銀泰百貨」に売却報道

アリババが新小売戦略を放棄するかもしれない。新小売系事業の「盒馬鮮生」「銀泰百貨」「RTマート」が売却されるのではないかという報道が出ている。アリババは、ECを中心にした成長戦略を構想しているようだと互聯網品牌官が報じた。

 

アリババが新小売戦略を放棄か?

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が、業態の改革で苦しんでいる。アリババは昨年「1+6+N」の新体制に移行をした。1はホールディングカンパニー、6は主要事業部、Nはその他の事業に子会社化をし、それぞれで株式公開を目指すというものだった。つまり、アリババは上場企業の集合体になることを目指す。

その中で、最も上場に早くたどり着けると見られていたのが、6つの子会社のひとつであり物流を担当する菜鳥物流(ツァイニャオ)と、Nのひとつであるフーマだった。ところが、昨年2023年9月の報道によると、フーマ自身は企業価値を60億ドルから100億ドルの範囲で評価をしていたが、上場計画を進めてみると、投資家たちの評価はわずか40億ドルというものだったという。これが上場計画の大きなつまづきとなり、上場計画は停止せざるを得なくなり、アリババの2023年9月期の四半期報告書にも正式に「フーマの上場は暫時停止をし、より投資家に利益をもたらせることができる体制を模索している」と記述されるようになった。

さらに、アリババは新たに投資会社を設立して、フーマや銀泰百貨などの株式を移管する計画だ。投資会社に移管をするということは、売却も視野に入れるということだ。フーマや銀泰百貨は、アリババの新小売戦略を体現した事業。アリババが新小売戦略を捨てることになるのかと注目されている。

▲2016年からアリババの新小売戦略の中心的な存在であったフーマフレッシュも売却の報道が出ている。

 

店頭価格とオンライン価格を変える苦しさ

フーマの何が問題なのか。フーマフレッシュは、店舗でもオンラインでも購入することができ、受け取り方法も店頭、30分宅配のいずれでも選ぶことができる。消費者が購入方法と受け取り方法を自由に組み合わせることで、ユーザー体験を向上させ、なおかついつでも注文できることから購入機会を広げるという発想のものだ。現在、オンライン注文率は65%程度になっている。

ところがこれがひとつの矛盾を起こしてしまった。オンライン注文率が高いのに、実体店スーパーと同じような店舗を用意するのは無駄であり、オンライン注文では宅配をしなければならず、オンライン注文が増えれば増えるほど高コスト体質になっていってしまうのだ。

そこで、フーマは、オンライン価格と店頭価格を乖離させ始めている。例えば、レッドブル250ml缶は、オンラインでは5.9元で販売されているが、店頭では3.9元で販売されている。李子漆のビーフン335gはオンラインでは11.9元で販売されているが、店頭では9.9元で販売をされている。

つまり、店頭価格を安くして、店頭での購入比率を上げようとしているのだ。しかし、消費者から見れば、便利なオンライン注文は高くつき、安い店頭購入は面倒というユーザー体験の低下につながっている。

 

足し算でしか成長ができない現業

このことが、投資家の評価にもつながっている。フーマは「オンラインとオフラインの融合」を目指したビジネスモデルであり、一定の成果をあげたが、まだ完全に融合するところまでいっていない。オフラインとオンラインの両対応をしているモデルに止まっている。そのため、オンラインの比重が高まるとオフライン用の店舗コストが足枷となり、オフラインの比重が高まると他のスーパーとの差別化ができなくなる。どこに最適バランスがあるのかを模索している最中だとも言える。

また、フーマは配送地域を店舗から周囲3kmに設定しており、オンライン販売でありながら商圏が限定されているのも大きな課題のひとつだ。純粋なECであれば、商圏という考え方はなくなり、国内すべてに対応するだけでなく、越境ECで海外にまで進出していけるため、商圏は事実上の限界はない。

つまり、フーマが売上を増やそうとすれば、コストをかけて店舗を増やすしかない。ECは掛け算で成長していけるが、フーマは足し算でしか成長していくことができない。ここが投資家たちの評価が低かった原因になっていると言われる。

 

ジャック・マーのEC回帰宣言

さらに、昨年2023年、引退はしたものの大株主としてアリババに大きな影響力を持っている馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、アリババ社内で「タオバオに戻ろう、ユーザーに戻ろう、ネットに戻ろう」という方針を示した。これは、広い意味では初心に戻るという意味だが、同時に中核事業に集中しようという意味でもある。アリババの中核事業と言えば、今も昔もEC「タオバオ」なのだ。

フーマと銀泰百貨の新小売系の事業は、アリババの中核事業に対するシナジー効果が小さい。デリバリー企業「ウーラマ」も新小売系事業のひとつだが、売却の検討はされていない。それはタオバオで販売した商品を、市内短時間配送することで、タオバオとのシナジー効果が得られるからだ。

フーマと銀泰百貨の業績は決して悪いわけではない。しかし、中核事業とシナジー効果の得られない事業を切り離して、コンパクトで強い企業体にしようというのがアリババの考えていることのようだ。しかも、両者とも業績は悪くないのだから、売り時とも言える。

▲カウンタースタッフがライブコマースを行い、店頭でもオンラインでも買い物ができる新小売百貨店「銀泰百貨」も売却の報道がされている。

 

アリババの新小売戦略はピリオドを打つ

このような売却は企業として当然考えられる選択肢のひとつだが、多くの人はひとつの時代が終わったことを感じている。それは2016年にジャック・マーが「純粋なECはすでに死んでいる。オフライン小売とオンライン小売は深く融合し、すべての小売業は新小売になっていく」と高らかに宣言し、2017年にはフーマ事業を始め、銀泰百貨を買収し新小売百貨店に大改造していった。

その新小売戦略を放棄することになる。アリババはAIを活用して、タオバオを中心に成長をしていく道を選んだようだ。