中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

米国留学の現実。就労ビザはくじ引きで決まる。滞在の見通しが立たない中での米国生活

中国人にとって、米国留学をし、米国企業で働き経験を積んでから帰国をするというのがひとつの成功コースになっている。そのため、米国留学を希望する学生は多いが、米国は中国人留学生の数を抑制しようとしている。その中で、中国人留学生は厳しい現実に直面していると外灘教育が報じた。

 

米国留学がますます難しくなる中国人学生

中国の大学生にとって、米国に留学をし、米国の企業に勤め、スキルを高めてから中国に帰り、高報酬の職を得る、起業するというのがひとつの成功ルートになっている。しかし、米中の関係が悪化をし、米国は中国人に対するビザの発給基準を厳しくしている。

2020年9月には、米国は「国家安全のため」として1000名ほどの中国人大学生のビザを取り消した。特殊技能を持つ外国人に発給されるH-1Bビザも、先着順ではなく抽選となり、発給枠も定められ、中国人の米国留学がますます難しくなっている。

Alicephil(仮名)は、中国の大学を卒業後、米国留学をし、4年間は米国で働きたいと思い、1000通の履歴書を出し、100回の面接を受け、中国系企業で営業職をしている。そのAlicephilが米国に留学をする中国人の生活について語った。

▲米国に留学をして、仕事を探そうとしているAlicephil。就労ビザは抽選であるため、1年後米国にいられるかどうかはわからない。

 

労働条件に苦しむ留学生たち

私は米国にきて3年になりますが、この3年の間、さまざまなことを見聞きしました。ニューヨークで仕事を見つけることはとても難しく、多くの友人がスタートアップ企業に職を求めます。しかし、スタートアップ企業はまともな給与が出ないことも多く、突然なくなってしまうこともあります。

私の友人がスタートアップ企業の面接を受けた時、創業者は「10万ドルの年収」を保証しました。しかし、給料日になると創業者は態度を変え、「会社に資金がない。現在資金調達をしている」と言います。そのままずるずると半年が過ぎてしまい、その友人は生活に困窮をしてしまいました。

別の友人は、ニューヨークのアニメ制作のスタートアップ企業に就職しました。H-1Bビザを取得するには、受け入れ企業を先に決める必要があるため、時給20ドルで、UI設計、ゲーム設計などの仕事をしています。しかし、ニューヨーク市の平均時給は35ドルで、最低賃金は15ドルなのです。

運よくH-1Bビザを取得することができましたが、このビザの保有者の最低賃金は28ドルと定められています。そのことを責任者に告げ、時給を上げてもらう交渉をすると、責任者は応じてくれましたが、その代わり、残業代は支給しないと言われました。アニメ制作では、ほぼ毎日のように残業があります。

 

偽装結婚のメッカ、ニューヨーク・フラッシング地区

私がまだ中国にいた時、米国に留学をするのであれば、いちばんいい方法は米国人と結婚することだと言われました。実際に、マッチングアプリを使って米国人男性を探し、結婚することで米国留学を実現しようとしている友人もいました。

ニューヨーク市クイーンズ区のフラッシング地区には中国人が多く住んでいて、偽装結婚の手引きをしている人もいます。ある2歳の子どもがいる中国人女性が、夫を交通事故で亡くし、中国では暮らしが立たなくなったため、米国に観光ビザでやってきて、そのままフラッシングに行って、偽装結婚をし、現在ではネイルサロンを開いているという話も聞いたことがあります。

そういう偽装結婚のビジネスがフラッシングでは行われているのです。

ニューヨーク市クイーンズ区のフラッシング地区は中国人街となっていて、中国人が多く住んでいる。

 

留学はできても就職先は少ない

3年前、私は自分に挑戦する気持ちで米国にきました。つらいこともたくさんあるということは覚悟をしていました。しかし、ここまでつらいとは思いませんでした。

米国に留学をして、統計学を学ぶことにしました。その中でも計量経済学を選びました。STEM教育(科学、技術、工学、数学)の領域に属する分野で、卒業後1年は無条件で就労ビザが与えられるため、仕事に就きやすく、仕事を得られば、ビザは自動的に2年間延長されます。専門学校の1年と合わせて、最大で4年間は米国にいることができるのです。

▲Alicephilが最初に米国で住んだ部屋。家財道具はマットとスマートフォンだけの生活だった。

卒業後、スタートアップ企業に就職

2018年8月の終わりにニューヨークにきて勉強をし、2019年10月に卒業をして、就職活動を始めました。

ネットを使って、毎日20通は履歴書を提出し、自宅からリモート面接を受ける毎日です。大企業はまったく反応がなく、小規模の企業も面接に応じてくれるところは多くはありません。

1ヶ月半で、私はある教育プラットフォームを運営するスタートアップ企業に就職が決まりました。ニューヨーク支部は開設されたばかりで、責任者は香港人でした。

 

同情はしても、左遷、解雇はする

しかし、その直後、武漢で新型コロナの感染が拡大をしました。私は武漢出身であるため、家族や友人がどうなっているのかとても心配になりました。

ある時、上司とリモート会議をしている最中に、父親からWeChatのメッセージがきて、仕事に行くというのです。当時は感染が猛威をふるっていて、死者も多数出ていたというニュースがあったため、父親に外に出るのはやめてくれと伝えましたが、父親は無視をして仕事に行ってしまいました。私は心配で泣き出してしまったのです。

上司にして見れば、リモート会議中に突然私が泣き出したため、心配をしてくれました。そして、私が武漢出身であることを知って慰めてくれたのです。

しかし、しばらくすると私は別の部署に異動になりました。上司は会議中に突然泣き出すような従業員には問題があると考えたようです。とても冷たいと思いましたが、仕方ありません。

そして、異動をしてしばらくして、異動先での仕事ぶりに問題があるとして解雇をされました。こうして、私は人生で最初の仕事を3ヶ月で失くしました。

 

ニューヨークでもコロナ禍にあう

私は就職活動を再び始めましたが、その頃になって、ニューヨークにも感染が拡大をしました。多くの企業の求人活動が止まってしまいました。

お金もなくなってしまい、私は両親に金銭的に頼るしかなくなりました。考えた末、就職活動をしても求人そのものがないため、ビジネス英語とプログラムを学び、スキルアップに専念することにしました。

それから半年、ようやく感染状況が落ち着き、就職活動を再開しました。しかし、その時点であと数週間でビザが切れる状態になっていました。そのため、華人が経営する企業の営業職となりました。

 

労働条件を守らないブラック企業

この企業は、フラッシング地区の中国人街の中にあります。この企業は美団(メイトワン)のようなフードデリバリーを運営していて、顧客は中国人留学生が中心です。私の仕事は飲食店に飛び込み営業をして、プラットフォームに加入してもらうことを勧誘することです。

会社の言うことはコロコロと変わりました。人事担当者は実習期間の月給は2000ドルで、実習期間が終わるとその間の成績に応じて3000ドルから4000ドルに昇給すると言うことでしたが、実際に実習期間に支払われたのは200ドルでしかありませんでした。

当時私はニュージャージに住んでいたため、通勤をするのに3時間かかります。そのため入社するときに実習が終わればニュージャージーの支店に異動すると言う約束もしていましたが、それもいつまで経っても応じてくれません。

ニューヨーク市もコロナ禍により、飲食店の多くが閉店をした。

 

就労ビザは抽選方式

そして、4月がやってきます。4月にはH-1Bビザの抽選が行われるのです。私は弁護士を探して、500ドルの手数料でビザの抽選の申込手続きを行いました。

2021年4月の抽選には過去最高の30万人が申請をしました。しかし、当選をするのは8万人ほどです。

7月になって移民局から連絡がありました。私は2回の抽選のいずれにも外れてしまったという内容でした。

 

留学をすることの意味とは?

STEM教育を修めたことによるビザは後1年足らずで切れます。私にできることは納得のいく仕事を探して、来年4月のH-1Bビザの抽選に再度申請することしかありません。

学生時代憧れていた米国で暮らしてはいますが、米国にいることに本当に価値はあるのだろうかと考え始めています。コロナ禍という特殊な事情があったとは言え、米国にいても生活費を稼いでいるだけで、自分が成長をしているという感覚がありません。

しかし、それでも私はH-1Bビザの抽選に申請をし、落選をしたら何か方法を考えて、米国にい続ける道を探すと思います。