中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

米ビッグテックのCEOはインド人。なぜ中国人は米ビッグテックのCEOになれないのか

米国主要テック企業のCEOにインド人が就任するケースが増えている。しかし、ほぼ同じ人数がいる中国人がCEOに就任するケースは少ない。これはなぜなのか。中国人の成功のイメージは多元化をしているからだとニュージーランドヘラルド中文網が報じた。

 

アジア人が増えるシリコンバレーのテック企業

シリコンバレーで、次々とインド人のCEOが誕生している。主要なテック企業だけでも、マイクロソフト、アルファベット、アドビ、IBMツイッターのCEOがインド人だ。

シリコンバレーのテック企業はすでに多様化が進んでいる。WIREDの記事(https://www.wired.com/story/five-years-tech-diversity-reports-little-progress/)によると、主要テック企業の人種別構成は、白人とアジア人が拮抗をしている。特にフェイスブックは2019年にアジア人52%、白人40%となっており、アジア人が最も多い人種となっている。

このアジア人の中身は、インド、中国から米国に留学をしそのまま就職したケースが最も多く、いわゆるアジア系米国人も含まれる。

f:id:tamakino:20220128093138p:plain

▲米ビッグテックのCEOにインド人が就任するケースが増えている。マイクロソフト、アルファベット、アドビ、IBMツイッターのCEOがインド人になっている。

 

倍率50倍。世界で最難関の大学はインド工科大学

シリコンバレーの中国人とインド人の人数はほぼ同数程度と言われているが、インド人はなぜCEOになるような人が続々と登場しているのに、中国人からは現れないだろうか。

その理由は、大学入学の厳しさの違いが大きい。インド工科大学は、毎年50万人もが入学希望をだして、入学できるのはわずか2%程度。世界で最も入学するのが難しい大学だと言われている。

中国の清華大学北京大学も難関だが、高考(共通試験)という制度があり、その得点順に希望する大学を選んでいく方式であり、合格ラインの点数はおおよそわかるため、最初から無理な受験生が入学申請をすることはほとんどない。

この違いにより、学生の野心に違いが出てくる。インド工科大学の学生は厳しい受験競争を勝ち抜いてきたという意識があり、卒業したら成功をしたいと誰もが考える。一方、中国でも競争を勝ち抜いてきたことは同じだが、学生にその意識が薄い。これが野心に違いが出る原因のひとつとなっている。

f:id:tamakino:20220128093141p:plain

▲主要テック企業の従業員も多様化が進んでいる。多くの企業で4割程度がアジア人になり、白人は5割程度になっている。

 

7割が海外に行くインド、15%が海外に行く中国

インド工科大学の卒業生の70%は、海外の大学院に進学をするか海外の企業に就職をする。インドにはまだじゅうぶんなテック企業の職がないからだ。その大部分が米国に行くことになる。

一方、中国の大学の卒業生は、留学するのは清華大学で17%、北京大学で15%でしかない。大部分は中国で進学をするか就職をするかを選ぶ。中国ではテック企業の待遇もよくなり、海外に出ていく必要がなくなっている。

 

野心が多元化をする中国人

米国に渡った中国人も野心を持っている。しかし、その野心は多元化をしている。ニュージーランドヘラルド記者の知り合いで、シリコンバレーのテック企業で働くあるエンジニアは「出世はしたくない」という。「マネージャーは普通の人がやる仕事ではありません。私の上司は、夜の3時でもメールを読み、席に座っている時はずっとメールの返事を書いています。私があの仕事をしたら、体と心の健康を維持することはできないでしょう」。

この多元的な成功という考え方は、中国人だけでなく、シリコンバレーの白人にも広がっている。ある白人のエンジニアは、すでに70歳を超えているのに、毎日古い日本車で通勤をしてきて、コードを書いている。そういう仕事が好きなのだ。好きなことを一生続けられる。それこそが人生の成功だと考える人が増えている。

記者の知り合いは言う。「スティーブ・ジョブズが意識を変えました。彼はビジネスでも成功していますが、家族とすごす時間も大切にした。ああいう風になりたいと思います」。

シリコンバレーの報酬は高い。富豪になりたいというのでもなければ、一介のエンジニアでもじゅうぶんに快適な生活を送ることができる。であるなら、それ以上のお金を望むよりは、人生の充実を望むようになるのは自然なことだ。

 

起業野心を持つ中国人は、中国に帰国をして起業する

もちろん、それでも起業をして成功したいと考える野心を持つ中国人もいる。しかし、その多くが中国に帰国をして起業をしようと考える。グーグルのTensorFlowのリードエンジニアだったLiu Chen(仮名)は、グーグルを辞職して、中国に帰国する道を選んだ。すでに、百度、テンセント、アリババ、バイトダンスなどの主要中国テック企業はサンフランシスコ湾地区にオフィスを開設し、グーグルやアップル、フェイスブックなどと競争をして中国人人材を獲得しようとしている。

このような帰国組成功者は中国にたくさんいる。百度の李彦宏、拼多多の黄、ANKERの陽萌、小紅書の毛文超など、中国テック業界でも帰国組の起業成功組が目立つようになってきている。

インド人は、インドのテック産業がまだ成熟をしていないため、米国で成功をしようとして強い野心をもつ。それが米国企業のCEOになるという成果に結びついている。中国人の野心は多元化をしていて、必ずしも米国企業での出世だけが成功ではなくなっている。それが主要テック企業の人数に反映をしているのだと考えられる。

 

既存企業で出世をするよりも起業に向かう中国人

中国人の起業熱は高い。米国市場に上場したばかりのデリバリー「ドアダッシュ」の創業者4人のうち3人は中国系だ。また、越境EC「コンテキストロジック」の創業者の一人が中国系の晟だ。オンライン不動産の「オープンドア」の創業者も中国系のエリック・ウーだ。自動運転技術のNuroの創業者も中国系の朱佳俊だ。

以前から、中国人による米国での起業は珍しくない。ヤフー創業者のジェリー・ヤンYouTube創業者のスティーブ・チェンNVIDIA創業者のジェン・スン・ファンなど、中国系の創業者は多い。

インド人は、既存企業の中で力を発揮しCEOに就任をする、中国人は新しい企業で力を発揮するという違いがあるようだ。

いずれにしても、シリコンバレーの人種的多様化は進んでいる。これがシリコンバレーの強さとなっている。