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半年で5800億年の巨額赤字。営業を再開しても、業績回復と上場廃止というかつてない危機がのしかかる滴滴

滴滴が創業以来の危機に見舞われている。2021年6月からの事実上の営業停止処分となり、306億元もの巨額赤字を出した。さらに、ニューヨーク市場からは上場廃止をしなければならなくなったが、その巨額資金をどうやって手当てをするのかという難問がのしかかっていると創始人観察が報じた。

 

巨額赤字306億元。かつてない滴滴の危機的状況

中国のライドシェア市場の80%のシェアを持ち、2021年6月に米ニューヨーク市場に上場を果たした滴滴(ディディ)が窮地に立たされている。

上場3日後に、国家インターネット情報弁公室は、「国家のデータ安全と公共の利益を守るため」という理由で、滴滴アプリの安全審査を始めた。さらにその2日後に、審査の結果、個人情報を違法に収集していたとして、滴滴アプリの配信許可を凍結した。ミニプログラムも同様で、これで滴滴は営業停止処分とほぼ同じ状態になった。

12月になって、アプリの配信停止は解除され、営業が再開できるようになったが、この半年間で306億元(約5800億円)もの巨額赤字が発生した。さらに、滴滴はニューヨーク市場から上場廃止をしなければならず、創業以来の危機に立たされている。

▲滴滴の創業者、程維(チャン・ウェイ)。滴滴は過去にいくどもの危機を乗り越えて成長をしてきたが、今回の危機ばかりはそう簡単に乗り越えることはできないと見られている。

 

トリッキーな手法で米国上場する中国企業

そもそも、中国のネット企業が海外に上場をすることはできない。ネット企業は商務部の「外商投資産業指導目録」の禁止類に指定されており、外国人が株主になることはできないからだ。

しかし、2000年前後から生まれたネット企業は、海外の潤沢な投資機関の投資を必要としていた。そこで、VIEスキーム(Variable Interest Entity、変動持分事業体)を使って海外証券市場に上場し、投資資金を集めるということが行われた。

これは簡単に言えば、海外に架空のシェルカンパニーを設立し、このシェルカンパニーと国内の事業会社の間に親子会社同然とする契約を結ぶ。資本関係ではなく、契約関係で結ばれるので、商務部の外資参入規制にひっからない。そして、このシェルカンパニーの方を海外の証券取引所に上場させるという方法だ。

何か怪しげな手法のように感じる人もいるかもしれないが、米国の法律では合法であり、中国の法律では想定外であるため違法とも合法とも言えないグレーゾーンになる。これにより、アリババはニューヨークに、百度、京東、ビリビリなどはナスダックに上場を果たしている。

 

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香港に重複上場し、上場廃止リスクに対応する

しかし、近年、中国政府は外資参入規制を厳格運用するようになり、VIEスキームによる海外上場を問題視するようになっている。

理由のひとつは、国内で収集された個人データが海外に流出する危険を考えた情報の安全保障の問題だ。データ持ち出しについても、EUGDPREU一般データ保護規則)並みの規制を整備し始めていて、アップルは中国人専用のiCloudデータセンターを貴州省に建設して、中国市民のデータを国外送信しないで済む環境を構築している。

もうひとつの理由が利益の海外移転だ。海外に株主がいるということは、中国国内のビジネスで儲けたお金が海外の株主に移転されることになる。安定成長時代になり、共同富裕政策を進める中国としては、これも抑えたい。

そのため、海外に上場する企業は、いつ中国政府から上場廃止の圧力がかけられるかもわからないため、アリババ、百度、ビリビリなどは、海外市場に上場しながら、同時に香港にも上場するという重複上場を行なっている。

▲アップルが貴州省に建設した中国専用のデータセンター。中国がデータの国外持ち出し規制を厳しくする中で、アップルは中国専用のiCloudデータセンターを建設した。

 

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賭けに出て失敗をした滴滴

滴滴は、このような状況をわかっていなかったわけではなく、わかった上で賭けに出たとも言われる。なぜなら、滴滴は6月10日にSEC(米国証券取引委員会)に上場申請をし、6月30日は上場が認められている。わずか20日で審査が行われたことになる。異例の早さだ。

さらに、滴滴の上場はニューヨーク市場にとって、アリババ以来の中国企業の大型上場になるという話題性もあったが、滴滴はひっそりと上場申請をした。通常は、メディアなどに上場計画があることをリークし、市場の雰囲気づくりをしていくものだ。その方が株式に人気が出て、上場がうまくいく。しかし、滴滴の場合はそのようなことをせず、「こっそり」という表現が似つかわしいほど静かな上場だった。

一部には、滴滴は次のステップに進むため、大きな事業計画を持っており、その資金を得るために上場を焦ったのではないかという人もいる。また、10年以上もの間、赤字運営が続く滴滴に対して、投資家が痺れを切らし、上場を迫ったのではないかとも言われる。ただし、なぜ、滴滴が上場を急いだのか正確なことはわからない。このような話は、すべて外から見た憶測にすぎない。

 

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赤字よりも重い上場廃止の作業

結局、営業停止処分となり、大きな損失を出し、滴滴は「ニューヨーク市場から上場廃止をすること」「香港市場の上場を目指すこと」の2つを表明し、アプリの凍結が解除され、営業は正常化をされた。

しかし、上場廃止は簡単なことではない。すでに、米国の投資家からは訴訟を起こされている。営業停止処分を受けたことで、株価が下落をして損をしたことの経営陣の責任を問うものだ。

また、売り出し価格は14ドルであったものが、現在は2ドル以下まで下落をしている。上場廃止をするには、株式を買い戻す必要があり、当然ながら現在の2ドル前後の株価では株主は納得しない。売り出し価格の14ドルかそれ以上で買い戻す必要がある。この莫大な資金をどうやって用意をするのか。

アリババなどが香港に重複上場をしているのは、米国市場の上場廃止対策になっている。米国で上場を廃止した場合、その株主には香港の株式に振り替えてもらうことができる。それでもある程度の補償は必要になるが、株式をまるごと買い戻すことを考えれば、小さなコストで上場廃止が可能になる。

しかし、滴滴はこれから香港に上場をしなければならない。巨額赤字を出し、上場廃止問題を抱える滴滴が、果たして香港に上場できるだろうか。まさに、どちらに進みようのない穴ぼこに落ちてしまい、身動きが取れない状況になっている。

滴滴は過去何度も経営危機を迎えながら、そのたびに克服をし、成長をしてきた。しかし、今度の危機だけは解決の糸口が誰にも見えない状態だ。滴滴はかつてないほどの苦境に立たされている。

▲滴滴の上場以来の株価推移。上場以来、一定して下落し続けている。2021年9月あたりで一旦下げ止まり、営業再開後の業績に期待する空気もあったが、2021年12月に上場廃止宣言をしてからは下がり続けている。