中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

米国市場から上場廃止になる中国企業が続出。中国概念株の上場廃止が続く理由

中国には外資の参入規制があるために、直接米国証券取引所に上場することができず、「中国概念株」として上場をする。この中国概念株の上場廃止が続いている。現在上場中であっても上場廃止の危険性が高い中国概念株が増えているとIT桔子が報じた。

 

事業会社とは異なる中国概念株

中国企業が米国のナスダックやニューヨークの証券取引所に上場することはもはや珍しくなくなっている。このような株式は「中国概念株」と呼ばれる。いわゆるVIEスキーム(Variable Interest Entity、変動持分事業体)を使った間接上場だからだ。

中国の多くの産業では、外資の参入規制がある。自動車産業の場合は50%までしか外資が参入できず、ネット関連機能の場合はまったく外資が参入できない。つまり、外国人、海外企業は中国企業の株を保有することができない。

これでは外国人が中国企業に投資ができない、中国企業は海外から資金を調達することができないという問題があるため、VIEスキームが使われる。

海外のどこか(一般的には法人税の不要なケイマン諸島、バージン諸島など)にシェルカンパニーを登記する。いわゆるペーパーカンパニーだ。そして、このシェルカンパーニーと中国内の事業会社の間で、資本関係ではなく契約に基づいて親子会社同然の状態にする。シェルカンパニーは中国事業会社の親会社同然になるため、このシェルカンパニーを海外の証券市場に上場させるというものだ。事業実態のない企業の株であるため「概念株」と呼ばれる。

▲中国概念株の香港への重複上場のトレンドが起きている。米国証券取引所に上場した中国企業のうち、業績が好調な企業は香港への重複上場、鞍替えを始めている。米国市場に残った中国企業は業績不振で香港への鞍替えができない。そのため上場廃止危機にさらされている。

 

業界初の米国上場企業に続く「上場廃止

この概念株は、1992年に華晨汽車がニューヨークに上場したことから始まっている。それ以来、さまざまな企業が海外証券市場に上場をする「中国概念株」が生まれている。

しかし、2007年に華晨汽車は上場廃止をした。さらに、2019年以降は上場廃止をする中国概念株が増加し、少なくとも37の米国上場した中国企業上場廃止をした。特に目立つのが「○○第一株」と呼ばれる業界初の米国上場企業だ。なぜ、業界初の米国上場企業は上場廃止をしていくのか。

 

AI教育初の米国上場をした「流利説」

2013年に創業したAI語学オンライン学習サービスの「流利説」(リウリーシュオ)は、留学ブームを背景にサービス開始1年で1000万人の会員を獲得した。その背景には豊富な投資資金があった。摯信資本が数百万元規模のエンジェル投資を行い、同じ年に摯信資本とIDG(Internationa Data Group)が数百万ドル規模のAラウンド投資を行っている。2015年には数千万ドル規模のBラウンド投資が行われ、2017年には数億ドル規模のCラウンド投資が行われ、順調に成長し、2018年には「AI教育初の」ニューヨーク証券取引所に上場を果たした。

 

SNSを使って会員を増やした「流利説」

流利説の成長の秘密は、テンセントのSNS微信」(ウェイシン、WeChat)を活用したことだった。SNSを使って会員が友人などを勧誘すると、その会員に割引クーポンなどの特典が与えられる。SNSを伝わって、流利説の会員が増えていった。

ところが2019年、テンセントはWeChatの規約改定を行なった。外部の広告行為にあたるリンクの貼り付けを禁止したのだ。外部リンクをタップしても、そのウェブページが表示されるのではなく、WeChatのエラーページが表示される。また、外部リンクを貼った利用者は規約違反として警告を受けたり、場合によってはアカウントが凍結されることもあった。

これで流利説の成長が止まってしまった。2021年11月、WeChatは契約をすることで外部リンクの利用を認めるようになったが、WeChatに頼り切りだった流利説の成長は止まり、さらに後に続くオンライン語学学習サービスに追い上げられてしまい、以前の輝きは失われていた。

 

複数の要因で事業継続が難しくなり強制上場廃止

2022年4月、流利説はニューヨーク証券取引所から強制的に上場廃止処分を受ける。WeChatの問題だけでなく、米国が中国人留学生のビザ発給を絞り込んだことや、そもそもコロナ禍により海外への移動そのものが難しくなり、英語を学ぶ人が激減をしてしまった。流利説はターゲットを留学生から幼児英語教育にシフトさせたが、すでにそこにはVIPKIDやDaDa、51Talkなどのプレイヤーがいて、厳しい競争を迫られた。

流利説は2018年に4.88億元の損失、2019年に5.75億元の損失、2020年に3.95億元の損失と損失が続き、2022年に株価が一定水準以下の価格で推移をしているということが上場廃止条件にあたり、強制的に上場廃止となった。

 

賃貸需要の増加とともに成長した「青客租房」

2012年に創業した「青客租房」(チンカー)は、賃貸マンションの運営企業だ。マンションのオーナーから長期契約で部屋を借り上げ、リフォームをし、家具を入れ、それを入居者に貸すというビジネスだ。都市が拡大をし、都市に出てきた地方出身者が賃貸マンションを探すのに苦労をする中でサービスは歓迎され、創業してすぐに紐信創投から数百万元規模のエンジェル投資を獲得した。

2014年には晨財智から数千万ドル規模のAラウンド投資、2015年には1.8億元のBラウンド投資を受け、順調に成長した。

 

資金の回転に歪みがあった「青客租房」

資金を得た青客租房は全国に市場を拡大していった。しかし、青客租房はそのビジネスモデルに問題を抱えていた。それは「高進低出」「長租短付」という2つの言葉で表される。

青客租房は、物件を確保するためにオーナーには高額の賃料を支払い、賃貸利用者を確保するために賃貸料は安く抑えた。これにより収益性が低くなってしまった。また、賃貸利用者からは3ヶ月分以上の賃貸料を受け取り、オーナーには毎月1ヶ月分を支払った。これにより、回転資金に余裕が生まれ、収益性が下がっていることに目をつぶって、高進低出が加速をし、さらに収益性が悪化をしているにもかかわらず、表面上は順調に経営できているように周囲も青客租房も錯覚をした。

その結果、2017年から2020年までの損失は、2.45億元、4.99億元、4.98億元、15.34億元と累計で28億元にものぼっていた。

 

上場した途端に経営陣がイグジット

ところが、この問題は外からは分かりづらいため、2018年には数千万ドルのCラウンド投資を受け、2019年には賃貸仲介業界としては初のナスダック上場を果たした。

しかし、1年後、経営陣の離職が相次いだ。理由は明らかにされていないが、株という資産を得て、問題を内在する青客租房から避難をするイグジットではないかと見られる。

2021年に、この内在する問題が隠せなくなり、青客租房は資金が回らなくなり、2022年には破産を宣告する。ナスダックからも自動的に上場廃止ということになった。

 

創業当時は斬新だった都市ポータル「58同城」

「58同城」(ウーバートンチャン)は、市内のさまざまなサービスを提供する都市ポータルサービスだ。市内の求人情報、賃貸住宅情報、引越し業者、中古車情報などを調べることができる。しかし、現在では58同城を利用する人は多くない。それぞれもっと使いやすい専門のネットサービスが登場しているからだ。

しかし、2005年に58同城がスタートした時、市内の生活情報がすべて利用できるというポータルサイトは他になかった。インターネットがようやく市民の間でも広く使われるようになった時代であることもあり、多くの人に58同城は使われるようになった。

▲現在の「58同城」。都市ポータルという斬新なサービスだったが、モバイル対応が遅れ、ライバルに侵食をされてしまった。

 

モバイル対応に遅れた「58同城」

2006年には賽富基金から500万ドルのAラウンド投資、2008年には4000万ドルのBラウンド投資を受け、2010年にはDCM中国と賽富基金からCラウンド投資と順調に成長をした。

2013年、58同城は、都市ポータルサービスとしては初めて米ニューヨーク市場に上場をし、同じサービスを提供するライバルの「赴集網」を買収し、地位を確立した。

しかし、スマートフォンが普及をし、モバイル時代になると、58 同城が提供するサービスそれぞれを専門とするサービスが登場し、その多くがアプリで簡単にスマホから利用できるようになっていったが、58同城はウェブベースそのままだった。これにより、58同城を利用する人は急速に少なくなっていった。

2020年6月、58同城は、米投資団からの買収を受け入れ、上場廃止をし、非上場化をした。買収額は87億ドルで、58同城の企業価値の最高力見ると1/3にすぎなかった。

▲ラグジュアリーブランド専門のEC「寺庫」も株価が90%近く下落をし、上場廃止の危険水域に入っている。

 

大量に存在する上場廃止予備軍の中国概念株たち

上場廃止になる中国概念株は、まだまだ出てくると思われる。なぜなら市場価値が3000万ドルを下回っている株が40以上もあるからだ。

2008年に創業した寺庫(スークー、Secoo)は、ラグジュアリーブランド専門のECとして、2017年に米ナスダック市場に上場をした。しかし、今の株価は1.6ドル程度で低迷が続いている。発行価格は13ドルであったので、90%近く下落したことになる。

2021年末には、30日連続で1ドルを下回り、上場廃止の警告を受けた。新たな投資を受け、上場廃止は免れたが株が上昇する気配は見られない。

また、生鮮品をネット注文で30分宅配するクイックコマース「毎日優鮮」(メイリー、Missfresh)も2021年に米ナスダックに上場したが、上場廃止の危機にさらされている。

中国政府がVIEスキームによる中国概念株の存在を問題視するようになり、大手テック企業は、米国市場に上場をしておきながら、香港や国内の証券取引所に重複上場をするようになっている。好調な企業は中国の証券取引所に移り、不調な企業は香港上場をすることができず、米国市場から上場廃止にならざるを得なくなっている。中国概念株は時間とともに消えていくことになる。

▲クイックコマース「毎日優鮮」も、事業そのものが事実上の停止中で、上場廃止危機に見舞われている。