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苦境に立たされる無印良品の中国ビジネス。苦境の根源は、日本と中国での価格差

無印良品は、中国でもワンランク上の生活雑貨としてブランドイメージは高い。しかし、多くの人がセールでしか買わない。その背景になっているのが、日本と中国での価格差だ。中国の消費者はこの点に不満を持っていると新零售商業評論が報じた。

 

中国で苦しい展開となっている無印良品

中国で人気の日本ブランド「ユニクロ」と「無印良品」(MUJI)の明暗がくっきりと分かれている。ユニクロは現在約900店舗を展開しているが、MUJIは299店舗。MUJIの業績は、2020年のコロナ禍で大きな打撃を受けたのは仕方がないとしても、既存店売上は2018年から伸び悩みを見せ始めている。既存店売上が伸びず、店舗展開も緩慢という苦しい状況に陥っている。

ユニクロMUJIも、簡素、自由、快適という要素が若年層を中心に受け入れられ、このコンセプトは「日本風」「日系風」として認識をされている。これが中国のZ世代に内在する地球環境、仏系、精神的な幸福といった要素と呼応し、日系風は若者のライフスタイルのひとつとしても定着をしている。ユニクロはこの状況をうまく捉え、すでに地方都市への浸透を始めるほどになっているが、MUJIは大都市で苦しい戦いを続けている。

▲中国での無印良品は、コロナ禍により経営が苦しくなったのではなく、2018年から如実に店舗売上の伸び率がマイナスに転じてる。2021年になって伸び率はプラスに転じたが、前年の減少分を補えるほどにはなっていない。

 

苦しい理由は価格の高さ

MUJIの販売が苦しい理由ははっきりとしている。中国の同程度の製品の相場価格と比べ高いからだ。

そのため、多くの人がバーゲンセールの時期にし買わない。セールの時期には、店舗にも来店客が押し寄せるもの、通常時には空いてしまう。SNS「小紅書」(シャオホンシュー、RED)の利用者はMUJIのファンと大きく重なり、MUJIに関する記事も多数投稿されているが、セールの季節になると「打折攻略」(割引攻略)と題した記事で埋めつくされる。

SNS「小紅書」では、MUJIは人気のブランドだが、セール時期になると攻略記事であふれかえる。通常価格では買う価値はなく、セールで買うものだという認識が生まれている。

 

価格は高めでも人気のユニクロ

ユニクロもカジュアルウェアとしては決して安い価格帯ではない。ユニクロMUJIも高級品とは言わないまでも、生活に潤いを与えるワンランク上の商品として認識されている。それでなぜユニクロは売れ、MUJIは商品が動かないのか。

ユニクロは2002年に中国上陸をした時、ユニクロの標準価格は中国人にとって高すぎると判断し、簡素化してコストを下げた別商品を用意し、価格も下げて参入した。それでもカジュアルウェアとしては高めの価格であり、セールをしなければ売れないため、利益が上がらないという状態に陥った。

ユニクロが中国で成長をし始めるのは、2008年にアリババのTmallに旗艦店を出店した頃からだ。ターゲットを月収5000元(約10万円)の中産階級に絞り、価格も品質も日本と同じグローバル標準品にした。これにより、カジュアルウェアという普段着であるものの、ワンランク上の普段着というイメージが定着をした。

 

無印良品の問題は日中での価格差

一方、MUJIもワンランク上の生活雑貨というイメージは定着をしている。「閑魚」(シエンユー)などのフリーマケットサービスでは、MUJIのペーパーバッグが人気商品になっている。贈り物をするときに、MUJIのペーパーバッグに入れることにより、ちょっとした高級感が生まれるからだ。

では、やや高めであるのに、なぜユニクロは買い、MUJIは買わないのか。多くの人が指摘をするのが日中での価格差だ。中国での価格設定は同じ商品であっても日本よりも高い。2割から3割は高く、昨今の円安傾向により、より日本価格が安く感じられるようになっている。

このような事実は、スマートフォンで少し調べれば誰にでもわかる。中国のMUJIのオンラインショップと、日本のオンラインショップの価格を比べるだけのことだからだ。この価格差により、なんとなく買いづらい空気感が生まれている。中には中国市場を見下していると不満を掲示板に書き込んでいる人もいる。

MUJIは、この問題を認識していて2019年には、2020年いっぱいで日中の価格差を解消すると中国人消費者に約束をしたが、その後コロナ禍があり、中国価格の値下げはたびたび行っているものの、日中価格差はまだ解消されていない。

無印良品の最大の問題は、日中での価格差。例えば、最上段の深型密封容器(小)では、日本では人民元換算で51元だが、中国では88元で販売されている。これが「質が高いから価格も高い」ではなく、「理不尽に高い」印象を与えている。

▲日本のMUJIでは、超音波うるおいアロマディフューザーは5990円で販売されている。人民元換算にすると約301元になる。

▲天猫のMUJI旗艦店では、同じものが388元で販売されている。双十一の大幅割引のセールでも310元で、日本の価格よりも高い。通常の388元は約7700円に相当する。

 

ライバルのメイソウの存在

さらに頭の痛い問題が、名創優品(メイソウ)の存在だ。メイソウは、MUJIユニクロダイソーを足して3で割ったような小売チェーンと言われ、日本では中国のパクリ文化と重ね合わされ、おもしろネタとして取り上げられることが多い。しかし、メイソウが取り入れたのは簡素、自由、快適といった「日系風」デザインであり、日本のメーカーや販売店が北欧風家具や雑貨をつくったり販売したりするのと変わらない。メイソウはすでに中国に2939店舗を展開し、価格も安く、品質はMUJIから見たら大きく劣るものの、日本の百円均一ショップと同じように、品質を急速に高めてきている。もはや、MUJIを脅かす存在ではなく、MUJIが追いかけるべき存在になっている。

▲メイソウは、日本では「パクリ」と呼ばれてお笑いネタにされることも多かったが、アジアでの展開を進め、今や中国アジアでは、MUJIよりも有名な“日本風”雑貨のブランドになってしまった。

 

アジアの日系風需要に応えたメイソウ

メイソウは、東南アジアを中心にグローバルで4749店舗を展開し、世界中の「日系風」需要を独占しようとしている。

中国の若者が「日系風」に求めているのは、簡素、自由、快適という要素だが、これを商品側の観点から見ると、コストパフォーマンスということになる。ユニクロの場合は、若い世代だけでなく、経済力のある中年層まで取り込むことに成功をしたため、比較的高い価格帯でも商品が売れ、ブランドを浸透させることができた。しかし、MUJIの問題は、ファンの中心が若い世代であるということだ。価格帯を若年層向きに下げていくか、あるいは中年などの経済力のある層にまで消費者層を広げるかするしかない。

このようなことはMUJIも当然認識している。2021年の年報にはこういう記述がある。「近年は業績拡大のペースが鈍化していると認識しています。これは、日常的に商品を購入するには価格がやや高いとの認知や、店舗スペースの関係で、日常生活の基本を支える商品群をラインアップできず、一部商品に売上が偏在していたことが要因と捉えています」。

MUJIは中国企画商品の開発と適正価格化を進めていくとしている。中国でのMUJIは、人気は高いのに売れないという状況が続いていた。これを変えて、人気の高さを業績に転換できるか、MUJIの運営力が試されている。