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名創優品はなぜ強い。著名ブランドのサプライヤーと直接契約することが飛躍の鍵になっている

名創優品のグローバル店舗数が5000店舗を超えた。名創優品は、著名ブランドのサプライヤーと直接契約をし、ブランド品とほぼ同じ製品を製造してもらい、本家の1/10の価格で販売することでヒット商品を生み出してきたからだと半佛仙人が報じた。

 

甘く見ることはできなかったメイソウ

2013年に創業された名創優品(MINISO、メイソウ)は、ブランドロゴがユニクロ風、店舗設計はMUJI風、商品はダイソー風ということで、日本のメディアでは「知的財産権に頓着しない中国企業の典型」として、ややもすると面白いニュースとして取り上げられることが多かった。

しかし、日本の無印良品MUJI)にとっては最大限に警戒すべきライバルだった。MUJIは中国でも中高級日用雑貨小売りで、名創優品は価格帯が1/2から1/3と客層がまったく異なっていた。それでも店舗数を急速に増やし、現在3378店舗とMUJIの10倍以上になっている。また、海外出店も積極的で、グローバル店舗数は5000店舗を突破した。

商品の品質も当初は10元(約200円)を基本にしていて、10元均一ショップのような雰囲気だったが、現在では高価格帯の製品も扱うようになり、MUJIとかぶるようになってきている。客単価が安くても店舗数が多いために営業収入は大きく、2022年の中国事業の営業収入は74.42億元(約1470億円)となり、MUJIの中国事業の営業収入866.43億円を大きく上回っている。中国ではすでにMUJIが追いかけなければならない存在に成長をしている。

名創優品MUJI中国事業の売上比較。中国市場では、MUJIはもはや名創優品を追いかけなければならない立場になっている。

 

日本企業も売っているものは中国生産品

なぜ名創優品はここまで強いのか。そのヒントになるのが、「名創優品がパクった」と言われるユニクロMUJIダイソーのいずれもが日本の企業でありながら、製品は中国製が中心になっていることだ。中国企業に製造させた商品を、日本で販売をしている。これを見た創業者の葉国富(イエ・グオフー)が、だったら中国製製品を中国企業が中国国内で販売をすれば、海外に運ばないで済む分、価格で勝負ができるのではないかと考えるのはごく自然な発想だ。日本企業は、名創優品のような企業が登場してくることは当然のこととして警戒をしておかなければならないことだった。

名創優品の店舗。深圳壱方城店。すでにカタカナ表記のロゴなど、日本企業だと誤解させる要素は排除されている。

 

ブランド品と同じものが激安価格で

名創優品の典型的なヒット商品は、「あの高級な商品と同じものが、激安価格で」というものだ。

ヒットになったのが、35.9元(約700円)のアロマだ。これは中国の5つ星ホテルに納入されているものとほぼ同じものだ。ホテルに納入しているのは海外のブランドだが、製造をしているのは中国企業名創優品は、その中国企業と直接契約し、ほぼ同じものを製造してもらい販売をしている。

さらに、入荷をするとすぐに売れ切れるという伝説をつくったのが、15元(約300円)の眉筆だ。これも世界的に有名なメイクアップアーティスト植村秀のブランド「シュウ・ウエムラ」で200元で販売されている眉筆を製造している中国企業と直接契約をし、ほぼ同じものを製造してもらい販売をしている。

つまり、日本や米国でさまざまな優れた製品が販売されているが、製造そのものは中国企業であることが多くなっている。名創優品は、ここに目をつけ、直接製造企業と交渉し、「あの製品をつくっているメーカーがつくっている」ということをウリに販売につなげている。

もちろん、有名製品とまったく同じであるわけはなく、さまざまなコストダウンがされているが、それでも1/10の価格でほぼ同じものが買えるというのは、消費者にとって非常に強い魅力になる。

名創優品のヒット商品となったアロマ。五つ星ホテルに納入されているブランドのサプライヤーが製造をしている。

名創優品のヒット商品となった眉筆。シュウ・ウエムラの眉筆をつくっているサプライヤーが製造をしている。

 

著名ブランドのサプライヤーと直接契約

名創優品はこのような著名企業のサプライヤーと丹念に交渉を進めている。米国の化粧品ブランド「エスティローダー」の製品を製造している韓国の「COSMAX」(韓国、米国以外にも上海と広州に生産拠点がある)、アップルのEMS企業「立訊精密」(ラックスシェア、AirPodsiPhoneなどを製造)、韓国の化粧品「イニスフリー」のサプライヤーである中国の「詹尼克」(ジャニック)など、人気の高い著名企業の製造企業1100社以上と契約をしている。

このような「あの商品とメーカーが同じ」という情報は、名創優品から直接発信することは難しくても、SNS「小紅書」(シャオホンシュー)などでは、消費者がそのような情報を発信し、本家製品とどこが違うかまで詳細にレビューをしている。多くの消費者が、そのような投稿を見て、直接オンラインで購入したり、名創優品の店舗で購入をしている。

 

価格帯が違いすぎて、競合をしない

このような著名ブランドの製造を委託されているサプライヤーは、なぜ名創優品と契約をするのだろうか。著名ブランドからすれば、品質は異なるとは言っても、似たような製品が販売されることになり、面白いはずはない。そんなことをされるなら、他のサプライヤーに切り替えると言い出してもおかしくない。

ここで大きなポイントになるのが、名創優品の激安価格だ。著名ブランドから見ると、自社製品と似たものが1/10の価格で名創優品で販売されているが、ここまで価格差があると品質が異なるのはもちろん、消費者層もかぶらない。サプライヤー企業の、ひとつの企業に依存をするのではなく、ヘッジをしなければならない事情も理解できる。摩擦は起こりつつも、致し方なく認めてしまっているようなところがある。

 

金払いのいい名創優品

もうひとつが、名創優品の支払いサイトの戦略だ。著名ブランドは一般に3ヶ月程度で、製品を納入してから3ヶ月後に代金が支払われる。しかし、名創優品の場合は1ヶ月と短く、さらに事情がある場合は15日間に短縮をしてもらうことも可能だ。これによりサプライヤーは経営が非常にやりやすくなる。

当初は、名創優品の方から頭を下げてサプライヤーに商品をつくってもらっていたが、これだけ大きくなると、サプライヤーの方からアプローチをしてくるケースも多くなっているという。

名創優品の創業者、葉国富。著名ブランド製品の多くを中国企業が製造しているのだから、その中国企業に製造を依頼すれば、著名ブランド製品と似た製品が激安価格で販売できると考えた。

 

地方や途上国では敵のいないブルーオーシャン状態

著名企業が販売をするブランド商品も、すでに多くの消費者が、品質を理解して購入しているわけではなくなっている。そのブランドという“情報”にお金を払っているようなところがある。名創優品は、これを拡張し、「ブランドと同じメーカーがつくっている」という“情報”という付加価値で商品を販売をしている。

しかも、コストを削減して、ブランド品の1/10の価格で販売をするため、大都市圏では多くの人が“本家”のブランド品を選択するが、地方市場や東南アジアでは敵のいない一人ブルーオーシャン状態になっている。

中国が世界の工場となり、世界の著名企業が中国で商品を生産している。名創優品はこの状況を最大限に活用して、MUJIをも凌ぐ企業に成長している。