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今回は、脱GMV化についてご紹介します。そして、アリババがどのようなECに転換をしようとしているのかをご紹介します。
今年も11月11日の独身の日セール=双十一が行われましたが、例年と大きく違ったのが、アリババがGMV(Gross Merchandise Value、流通取引総額)の公表をやめたことです。
例年では会場を設置して、リアルタイムでGMVを表示し、ネットでライブ配信をしてお祭り騒ぎをしていました。しかし、今年は感染が再拡大したこともあり、このようなイベントも行われず、GMVの公表も取りやめとなりました。
このことから、多くの人が双十一の成績が相当に落ち込んでいるのではないかと疑いを持ちましたが、アリババによると昨年と同水準ということです。
このコメントに嘘はないと思います。なぜなら、アリババが昨年2021年のGMVである5400億元と同じ水準のGMVを今年も維持することは難しくないからです。
調査会社ベイン&カンパニー中国が面白いアンケート調査を行っていました。それは双十一の前に、「今年は昨年よりもお金を多く使うか、少なくするか」「いくつのプラットフォームで買うか」を3000人の消費者に尋ねたものです。
案の定ですが、支出に関しては「減らす」と答えた人が昨年よりも増えました。多くの人が財布の紐を固くするつもりだったのです。
▲今年の双十一では使う金額を減らすと答えた人が昨年の9%から34%に急増をした。
ところが、「いくつのプラットフォームを使うか」という問いに対しては、たくさんのプラットフォームを使うという人が増えたのです。5つ以上のECで購入をする予定と答えた人が36%にもなりました。
▲今年の双十一で利用するECの数を尋ねたところ、5以上のECを利用すると答えた人が、昨年の11%から36%に急増した。
これはどういうことなのでしょうか。今年の双十一では、多くのECが予約販売を始めました。10月の下旬頃から、セールで販売する商品とその価格を公開し、予約購入できるようにしたのです。毎年物流が逼迫をし、混乱をしながら宅配をしていましたが、今年は万が一感染拡大による制限が起きでもしたら、宅配そのものができなくなり、大きな混乱を起こすことを避けるためだったとも言われます。
このため、多くの人が、さまざまなECプラットフォームの目玉商品を見て、特にお得だと感じるものを予約購入しました。そのため、利用するプラットフォーム数が大きく増え、今年は節約をするつもりだったものが昨年と同じくらいには買ってしまうという現象が起きたようです。
重要なのは、GMVというのはアリババやEC側が価格や割引率を操作することで、数字をつくれるということです。まだ、どのようなものが双十一で売れたかの統計は出てきてしませんが、双十一と関係なく必要なもの=トイレットペーパーや洗剤、買い置き食品などを買った人も多かったのではないかと思います。つまり、セールの趣旨である「独身で頑張っている自分に対するご褒美」という買い方は減って、通常の買い物がだいぶ入ってきたのではないかと想像しています。
2019年に、双十一のGMVについて、面白い騒ぎが起こりました。尹立慶というネット民が、2019年4月にウェイボーで「タオバオ2009年から2018年の独身の日セールデータの捏造」という文章を発表しました。双十一のGMVの数字は、アリババが捏造したものであると批判した内容です。そして、その数字の捏造の仕方もわかっているとして、今年(2020年)の双十一のGMVは2676.37億元または2689.00億元のいずれかになると予言をしました。
この時には、この文章はほとんど注目されませんでした。ところが11月になって双十一が終わってみると、GMVは2684億元となり、この人の予言がほぼ正確にあたったことから大きな話題になりました。
この人は過去10年分の双十一のGMVをExcelに入れて、多項式曲線で近似をすると、適合率が99.94%を超えてしまったことを問題視しました。通常の自然データはここまできれいに曲線近似することはできません。これは意図的につくられた数字ではないか、数字はリアルなものではなく捏造されたものではないかと訴えたのです。近似曲線を2020年まで延長をすれば、2020年のGMVを予測することができます。そこから予測をし、ずばりと当てたのです。
このデータをCSV形式で掲載しておきますので、みなさんもExcelで多項式近似を行って2020年のGMVを予測してみてください。
▲双十一のGMVをプロットして、回帰式(予測式)を適用すると、翌年の双十一のGMVが簡単に予測できてしまった。
,
2009,0.5
2010,9.36
2011,52
2012,191
2013,350
2014,571
2015,912
2016,1207
2017,1682.69
2018,2135
2019,2684
2020,
あまりに騒ぎが大きくなったため、アリババは反論をしました。このGMVを捏造しているという話はデマにすぎないと否定しました。さらに、双十一のイベント会場でリアルタイムで表示されるGMVの数字は、世界中の人が見ているもので、捏造などが入り込む余地がないものだと主張しました。そして、そもそもアリババはGMVを捏造する必要がどこにもないということを訴えました。
このアリババの主張はほんとうだと思います。なぜなら、アリババはGMV数字を捏造などしなくても、さまざまな施策により、GMV数字をつくれるのです。例えば、ある商品について5%割引をするとどのくらい販売数が増えるかなどというビッグデータをアリババは山ほど保有しています。
毎年、双十一には目標のGMVが設定され、これが各部門にブレイクダウンされ、各部門では割引クーポンや広告の戦略を考え、目標GMVを達成するにはどうしたらいいかを考えます。アリババはこの操作の精密さが極限まで進んでいるために、毎年ぴたりと目標数字を達成します。
つまり、GMVの数値が曲線近似で高い適合率を示すのは、数字を捏造しているからではなく、それだけアリババのマーケティング技術が高いことの証明になっているのです。
一方で、アリババにとって、GMVがマーケティング技術によって自由自在につくれるものであるなら、GMVが増えた減ったと議論することは意味がなくなってしまいます。アリババではすでに2016年頃から、ECの頭打ち感を感じていて、GMVを伸ばすことにこだわることをやめよう、別のKPI(Key Performance Indicator、重要業績指標)を探そうという動きをしてきました。もはやアリババにとってはGMVは重要な業績指標ではなくなっているのです。ですから、今年の双十一では公表をやめたのです。
では、GMVが重要でないとするなら、小売業はどの指標を使って成長しているのか、業績が改善しているのかを見ればいいのでしょうか。
今回は、脱GMV化についてご紹介します。
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