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アップルの生産は中国からベトナムへ。進む生産工場のベトナム移転。熟練工不足の課題も

アップルが生産を中国からベトナムへの移転を加速させている。それにともないEMS企業もベトナム移転を始めている。しかし、熟練工が不足をしており、品質上の問題も起きている。アップルは設計を簡素化することで対応しようとしていると愛范児が報じた。

 

Assembled in Chinaからin Vietnamへ

アップルが中国生産からベトナム生産への移行を加速している。今年2022年6月に、WWDC2022が開催され、M2チップを搭載するMacBook AirMacBook Proなどが発表されたが、供給が追いつかず、カスタムモデルでは出荷まで最大で6週間待ちにもなった。

いうまでもなく、2022年3月から5月にかけての上海市のロックダウンが直接に影響をしている。Mac関係の組み立ては、すべて上海市の広達(Quanta、https://www.quantacn.com/)が行なっている。ロックダウンの影響で工場を休業せざるを得なくなり、生産に大きな支障が生じた。

その結果、2022Q3のアップルの業績にも大き影響が出た。Macの売上は74億ドルとなり、アナリストの予測である89億ドルを大きく下回った。また、昨年同時期は104億ドルであったため、大幅縮小となった。

このことが、アップルのベトナム移行を加速させている。

▲フォクスコンのベトナム工場。すでにMaciPadの生産が始まっている。

 

中国EMS企業もベトナムへ移転

元々、アップルは、米国と中国の関係悪化から、政治的リスクを回避するためと人件費コストの問題から、ベトナム移行を始めていた。2019年にはベトナムAirPodsのテスト生産を始めている。

最新のAirPods3では、正式にベトナムでの生産を始め、300万台から400万台を生産している。これは全体の15%程度の相当する。

この動きを見て、中国のEMS(製造請負)企業も続々とベトナム進出を図っている。

鴻海科技グループのEMS企業「富士康」(Foxconn)は、2.7億元を投じて、iPadMacの生産施設をベトナムバクザン省に建設をした。この新工場は、2021年末にすでに稼働を始めている。立訊精密(LuxShare)もベトナム北部の工場で、AppleWatchのテスト生産を始めている。

▲フォコスコンのベトナム工場。内部は中国のフォクスコンとそっくりだ。

 

脱中国、ベトナム移転を完了しているサムスン

ベトナム移行を進めているのはアップルだけではなく、この点ではサムスンが2008年から試みている。ベトナム政府から土地取得、税制などの優遇策を引き出し、すでに生産を始めていて、2018年には中国から生産を完全撤退し、東南アジア移行を完了している。すでにサムスンスマートフォンの半分はベトナム生産になっている。

一方、世界の工場としてベトナムが注目される中、ベトナムの人件費コストは高騰をし始めている。2015年から2019年の間で、外資工場系の平均賃金は8.8%増加をした。そのため、サムスンはすでにインドネシアとインドに新しい工場を建設する計画を進めている。

サムスン中国企業よりも先に、脱中国、ベトナム移転を行っている。しかし、すでに人件費の高騰に悩み、インドネシアやインドへの移転を模索している。

 

熟練工不足が大きな課題

その一方で、アップルのベトナム移行には大きな課題が存在する。AirPods3では、接合部分から接着剤があふれるという事態が起きている。出荷検査ではじかれて製品としては出回らないものの、合格品率はまだまだ低いと見られている。

アップルはこのような問題を解決するために、設計の簡素化を大幅に進めている。ベトナム生産で課題となるのは習熟した技術者不足だ。現地で熟練工が育ってくるのには時間がかかる。そのため、製品の構造をシンプルにし、特殊な技能がなくても組み立てを可能にすることで、ベトナム生産品の品質向上とコストダウンを両立しようとしている。

特にMシリーズチップを搭載しているモデルでは、Mシリーズチップの機能が優れているため、内部構造をシンプルにできる。MacBook AiriPadの基盤は非常に似通ってきており、ほとんど差がなくなってきている。

この設計の簡素化はアップルにとっても大きな進化をもたらすことになる。設計が簡素化するということは、製造コストが下がり、故障が起きづらくなる。さらに、構造が単純化されることにより、より先進的な機能を追加する余地が生まれる。アップル自体も生産のベトナム移転によって刺激を受けることになる。

AirPods第3世代もベトナムで生産が行われているが、接合面から接着剤があふれるという問題が起きている。出荷検査で製品として出回ることはないものの、熟練工の不足がベトナム生産の大きな課題になっている。

▲M2 MacBook Airの基盤。アップルは設計を簡素化することで、ベトナム生産の習熟問題に対応しようとしている。MacBookiPadの基盤設計はほぼ同じになるところまで近づいている。

 

ベトナムが次の「世界の工場」になろうとしている

現在、アップルのベトナム生産を支えているのは、アップルとの付き合いが長いEMS企業フォクスコンとラックスシェアが中心だが、音響部品の「歌爾」(GoerTek)、バッテリー生産のBYDなどの関連企業もベトナム工場の建設計画を進めている。

このような効果はすでに現れていて、2022年1月から5月までの中国からベトナムへの輸出額は496億ドルで、逆のベトナムから中国への輸出額は467億ドルとほぼ同じになっている。

ちょうど20年前に中国が「世界の工場」と呼ばれて、各メーカーが中国に工場を建設し、安価な労働力の一方で、品質問題に苦労をし「安かろう、悪かろう」と言われながら、アップルを始めとする高品質製品を製造できるところまで成長をしてきた。それと同じプロセスがベトナムで始まろうとしている。

▲バッテリー、EVメーカー「BYD」のベトナム工場。多くの中国企業ベトナムに生産工場を設立し始めている。