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アリババ新体制、6グループCEOの顔ぶれ。新リーダーはアリババをつくった人から育てた人へ

アリババが「1+6+N」の新体制に移行をした。6グループのCEOの多くは、いずれもアリババ創業時のメンバー「アリババ十八羅漢」ではなく、創業時を知らない人たちになった。アリババのリーダーは「つくった人」から「育てた人」に変わることになったとAI藍媒彙が報じた。

 

アリババは十八羅漢から円卓会議へ

アリババは今年2023年3月、1+6+Nの新体制に移ると発表した。6つの主要事業部、その他の事業をすべて独立させ、すべての新会社で株式上場を目指すというものだ。アリババは、これまで、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)を中心に、創業メンバー18人(アリババ十八羅漢)が率いてきた。アリババ十八羅漢は、アリババ創業以来の遺伝子を、頭ではなく体で理解している人たちとして、常にアリババの中心にいた。

今回の体制変更で、アリババ十八羅漢はほぼ退き、リーダーも刷新をされたことになる。アリババ24年の歴史の中で最大の組織変更だと言われる所以だ。これからは、6ビジネスグループのリーダーたちによる円卓会議でアリババは運営されていくことになる。

▲新体制アリババの6グループのCEO。戴珊以外はアリババの創業時を知らない。アリババのリーダーは「アリババをつくった人」から「アリババを育てた人」に変わる。

 

独身の日セールを成功させた張勇

当初、張勇(ジャン・ヨン)は、アリババホールディングズのCEOを兼任していたが、最終的に6つのグループのひとつであるアリクラウドのCEOに落ち着いた。張勇は2008年にアリババに入社をした転職組だ。当初は淘宝網タオバオ)のCFOと淘宝商城の責任者を務め、後に淘宝商城が天猫(Tmall)となると、その責任者に就任をした。

張勇の功績は2つある。タオバオは出店料無料、販売手数料無料のB/CtoC型ECであり、マネタイズ手法を欠くビジネスモデルになっていた。当時のアリババにとって、タオバオをマネタイズすることが最大の課題になっていた。張勇は、タオバオとは別に淘宝商城を立ち上げ、こちらはBtoC型ECとし、出店料、販売手数料を取る。タオバオの業者を淘宝商城に移転させることで、マネタイズの道を拓いた。

しかし、多くの販売業者にとって、移転するだけの魅力が必要になる。そこで、張勇が企画したのが11月11日の独身の日セール(双十一)だった。この双十一は全国的なビッグセールに成長し、アリババの成長の源泉となった。いわば、アリババ中興の祖とも言える人物で、その後、ジャック・マーの後を継いでアリババCEOに就任したことは誰もが当然と感じている。

見た目は穏やかな人に見えるが、非常に攻撃的なビジネスをする人で、「優秀なチームを構築する最良の方法は、勝利をし、次の勝利に進むこと」と発言している。

 

高徳地図を中心に事業展開するローカルサービス

高徳地図を中心とするローカルサービスCEOとなった兪永福(ユー・ヨンフー)は、小米(シャオミ)の雷軍(レイ・ジュン)と親しいビジネスパーソンで、ウェブをスマートフォン用に変換するツールだったUCWebを率いてた。このUCWebがアリババに買収されることに伴って、アリババに入社をすることになった。

兪永福はアリババ内で、高徳地図の責任者となり、百度地図と激しい競争をして勝ち抜いた。さらに高徳地図をベースにタクシー配車、ライドシェアのビジネスを立ち上げ成功した。シェアは30%程度にすぎないが、当時は滴滴(ディディ)が90%近いシェアを握っており、参入してもうまくいかないと思われていた中での成功だった。ローカルサービスグループでは、位置情報を媒介にしたビジネスを展開していくことになる。

 

海外ECを軌道に乗せた蒋凡

海外EC、越境ECを担当する国際デジタルビジネスグループCEOとなった蒋凡(ジャン・ファン)はアリババが所有する海外ECの業績を好転させた。Lazada、AliExpress、Trendyol、Darazなどをアリババは運営しているが、中国製品を海外に販売するAliExpress以外は、現地国に登場したライバルに押され、業績が伸び悩んでいた。これを好転させたのが蒋凡だった。

蒋凡は復旦大学を卒業後、グーグル中国に入社し、その後、モバイルアプリ開発者のための情報、サービスプラットフォーム「友盟」を創業し、これが2013年にアリババにより買収され、アリババに入社することになった。その後、張勇の後を継いで天猫の責任者となり、EC分野でも能力が発揮できることを証明した。

 

ジャック・マーの遺伝子を伝える戴珊

タオバオ、天猫を担当するタオバオ天猫ビジネスグループCEOとなった戴珊(ダイ・シャン)は、アリババ十八羅漢の中で唯一グループCEOとして残っている人だ。社員番号11で、ジャック・マーのすぐそばで長い間仕事をしていた。ジャック・マーはビジネス上のライバルに対しては容赦ない戦いをしかける人だが、顧客に対しては徹底的に誠実だ。ジャック・マーが社内で常に語るのは「お客さんのポケットに10元があったとして、それをどうやってアリババに支払ってもらうかという発想をしてはいけない。お客さんの10元をどうやったら100元に増やせるかを考えなさい。増やしてからアリババには10元を支払ってもらう。それがアリババ流の考え方です」というものだ。

戴珊は、ジャック・マーに心酔をしていたため、この考え方を中心にユーザー体験のプロフェッショナルとなった。タオバオ、天猫の成長の時期は終わり、ECとしての質の向上が求められるようになっている。戴珊がEC部門を率いるのは当然だと誰もが認めている。

 

アリペイのキラーサービス「余額宝」を企画した樊路遠

エンターテイメントグループのCEOとなった樊路遠(ファン・ルーユエン)は、2007年に入社をし、アリペイ部門に配属となった。2012年12月、天鴻基金というファンド会社が、ある提案をしてきた。それはアリペイの中で投資信託サービスを始めたいというものだった。しかし、アリペイアプリの中にただ投資信託の窓口を設けてもうまくいくはずもない。天鴻基金は以前、タオバオの中で投資信託サービスをオンライン販売をして失敗をしていたからだ。

当時のアリペイ部門の責任者である彭蕾(ポン・レイ)は、アリペイに対してある不満を持っていた。アリペイは現金をチャージしてもらい、それをアリペイ残高としてキャッシュレス決済に使えるサービスだ。アリババは莫大な現金を一時預かることになる。これを国債などに投資をし、その利息分も大きな収入源になっていた。アリババ十八羅漢の一人であり、ジャック・マーの考え方が身についていた彭蕾は、「アリババはアリペイ残高を投資して、大きなお金を稼いでいるのに、そのお金の持ち主であるお客さんが1元も稼げないというのは不公平ではないか」と主張した。

樊路遠の中で、天鴻基金の提案と彭蕾の不満が結びついた。アリペイ残高から、24時間いつでも0.01元から投資ができ、24時間いつでも引き出すことができる投資信託「余額宝」(ユーアーバオ)というサービスを企画した。これが一時、7%近い利息がつくこともあっても、キラーサービスとなり、アリペイの成長を決定的にした。

この判断力が買われて、難しい状況に立たされている映画配信、音楽配信のエンターテイメントグループを率いることになった。

 

菜鳥生え抜きの万霖

宅配物流を担当する菜鳥グループCEOとなった万霖(ワン・リン)は、菜鳥物流の中で国際物流部門を中心に活躍をしてきた。菜鳥は、早くから無人カートやAI音声による自動応答などの最先端技術を取り入れてきたテック系宅配便企業だ。

菜鳥は否定をしているが、報道ではすでに香港上場の準備に入っているのではないかとも言われ、6つのビジネスグループの中では株式上場に最短距離にいるとも言われる。

 

創業時を知らない新リーダーたち

アリババの新しい顔の6人は、戴珊を除けば、アリババがジャック・マーの自宅で創業をしたその瞬間にいなかった人たちだ。しかし、6人ともアリババの成長に大きな貢献をしてきた。アリババは「アリババをつくった人」から「アリババを育てた人」に世代交代をすることになる。