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2四半期で赤字となった2022年のアリババ。新体制でアリババが直面する3つの課題

アリババの2022年は、2四半期で赤字決算となる創業以来の事態になっている。アリババは6つの事業部を分社化して、新体制で復活をねらうが、大きな3つの課題が立ちふさがっていると網経社が報じた。

 

2四半期で赤字を出した2022年のアリババ

アリババの2022年は散々な年となった。アリババの営業収入の推移を見てみると、依然として成長を続ける優秀な企業のように見える。しかし、純利益を見ると、危うい状況になっていることが明らかだ。特に2022年第3四半期に純損失が224.67億元となったことはアリババだけでなく、業界に大きな衝撃を与えた。

アリババは第4四半期には11月11日の独身の日セールがあるために、営業収入、純利益ともに大きく伸びる。しかし、2022年の第4四半期は457.5億元の純利益を出したが、過去の第4四半期と比較をすると精彩を欠くものになった。いったいアリババに何が起きているのか。

▲アリババの営業収入の推移(自然年)。営業収入だけを見れば、アリババは順調に成長をしているように見える。

▲しかし、純損益を見ると、2022年は2四半期で赤字になるという創業以来の事態になっている。

 

アリババの主力事業は今でも中国小売

アリババの財務報告書の事業別売上を見ると、China commerce(中国小売)が圧倒的に比率が高い。ECの淘宝網タオバオ)、天猫(ティエンマオ、Tmall)を中心に、新小売スーパー「盒馬」(フーマ)、百貨店「銀泰百貨」(インタイム)などがある。

▲アリババの2022年の営業収入の構成比。China commerce(中国小売)が圧倒的に多い。

稼ぐ力は中国小売の一本足打法

さらに事業別のAdusted EBITA(営業利益+減価償却費)を見ると、アリババの稼ぎ方が見えてくる。圧倒的に多いのはChina commerceで、足を引っ張っているのがLocal consumer serviceだ。これはフードデリバリー「ウーラマ」とクイックコマース「淘鮮達」(タオシエンダー)、旅行予約サービス「飛猪」(フェイジュー)などが含まれる。

特に大きいのが、ウーラマの黒字化が見えず、大きな損失を出し続けていることだ。ウーラマはアリババのO2Oの要とも言えるサービスで、単体での損失を気にしてもあまり意味はなかった。ウーラマがあるおかげで、Tmallの即時配送やフーマ、淘鮮達の宅配が成り立っているからだ。

▲稼ぐ力を示す調整済みEBITA(営業収入+減価償却費)を事業別に見ると、稼ぐ力はChina commerceに頼り切りになっていることがわかる。

 

必要でも赤字を生み出しているウーラマ

しかし、そう言えたのは、アリババの核心事業であるタオバオ、Tmallが成長し続けていたからだ。ウーラマが多少の赤字を生み出しても、核心事業が成長をすることでじゅうぶんにそろばんはあう。

しかし、2022年以降、状況が異なってきた。明らかに核心事業の成長が止まった。すると、ウーラマの赤字を吸収することができなくなり、全体でも赤字を計上することになっている。

つまり、アリババが再び成長軌道に乗るためには、1)ECを成長させる。2)ウーラマの赤字幅を縮小させるという2つのことが必要になる。

▲アリババの7つの事業部セグメント。このうちの創新業務(研究開発)以外の6つの事業部が分社化をされ、それぞれがIPOを目指すことになる。

 

事業別のGMVやMAUの公表をやめているアリババ

アリババは2021年から、個別事業のGMV(流通総額)やMAU(月間アクティブユーザー数)の公表をやめている。財務報告書にはアリババ生態圏全体のGMVとMAUが記されるだけになっている。

これは、アリババのECがすでに成長しきって成熟をしているため、これ以上の成長が見込めない天井に達しているからだ。これはアリババだけでなく、中国の多くの消費者サービスがGMVやMAUを伸ばすことから、優良顧客を獲得し、LTV(ライフタイムバリュー)を伸ばす方向に動いている。

2022年9月までの12ヶ月間、1.24億人の消費者がタオバオとTmallで1万元以上買い物をし、この優良顧客の年間アクティブ率は98%にも達している。この優良顧客の多さがアリババの強みになっている。

 

課題1:奪われた優良顧客を抖音から取り戻す

問題は、この優良顧客をどれだけ伸ばせるかだ。ライバルは抖音、快手といったショートムービープラットフォームのECだ。この2つのプラットフォームは、ショートムービーの楽しさで消費者を惹きつけ、さらに種草=ムービーの商品タグから直接商品が購入できる方式を採用し、アリババの顧客を奪い続けている。特に痛いのが、将来優良顧客になる可能性がある候補の消費者を奪われ続けていることだ。現在のアリババの優良顧客は1.24億人と厚みがあるものの、伸びが止まってしまう可能性がある。

今では、旅行や電子製品、家電製品、高級食品といった趣味性の強い商品は抖音で購入し、日常使う日用品や消耗品はタオバオで買い、セールの時にTmallを利用するというスタイルが一般化しつつある。

アリババは、優良顧客候補者を抖音から取り戻して、優良顧客層を増加させる施策が急務となっている。

▲アリババの株価は下がり続けている。2021年はコロナ特需が終わったことが原因だとしても、2022年はアリババの業績そのものを悲観して下落していると思われる。

 

課題2:海外ECの成長が急務

もうひとつは海外ECを成長させることだ。特に東南アジアは、10年前の中国と消費者の指向性が似ており、アリババにとってはビジネスを展開しやすい。アリババは2016年にシンガポールのLazada(ラザダ)を買収し、独身の日セールを開催するなど、タオバオ化を進めている。しかし、いまだに成長軌道に乗ることができていない。地元ECのShopee(ショッピー)が強く、なかなか打ち勝つことができないからだ。

さらに、東南アジアでもバイトダンスがTikTok Shopの展開を始め、抖音のEC機能の海外展開を始めている。東南アジアでも、競争が激化をしており、アリババと言えども簡単に勝ち抜くことは難しい状況になっている。

 

課題3:国内サービスの赤字解消

もうひとつが、Local consumer serviceの赤字を解消することだ。この分野には即時配送「ウーラマ」、旅行予約「飛猪」、地図サービス「高徳」、クイックコマース「淘鮮達」の4つがある。この事業の問題は、この4つともすべて美団と競争関係にあるということだ。そして厄介なことに、美団のサービスが優れているということだ。

本来、ウーラマはアリババ内部のサービスに使うツールのような位置付けだったが、ウーラマは外部との連携を模索し始めた。抖音(中国版TikTok)がフードデリバリーサービスを始め、ウーラマは提携をし、その配達の一部を請け負っている。ショートムービーで食品の映像を見て、その場でデリバリーが注文できるというものだ。現在、18都市でサービスを始めている。

アリババの外に提携するサービスを求めることでウーラマは黒字化への道を模索している。

この3つがどこまでうまくいくか。アリババの復活がかかっている。アリババは、2023年3月、6つの事業を分社化してそれぞれがIPOを目指す「1+6+N」体制に移行することを発表した。この体制でどこまで復活することができるか、アリババの底力が試される。

▲ショートムービー「抖音」は、ショートムービーで食品の映像を流し、タップするだけでフードデリバリーが注文できる抖音外売サービスを始めている。この配送の一部をウーラマが行っている。