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減らない代引き宅配詐欺。発送人の住所氏名は架空、宅配料金も受取人払い。それでも代引きサービスをやめられない宅配企業の事情

送り付け代引き詐欺がなかなか減らない。ガラクタを詰め、宅配便で送り付け、代引き代金を詐取する詐欺だが、発送人の住所が架空であっても受付可能であり、宅配料金も受取人支払いであるため、安全で低コストの詐欺になってしまっている。しかし、宅配企業にも代引きサービスを辞められない事情があると捜狐財経が報じた。

 

著名人まで被害に遭う「代引き宅配詐欺」

ECなどで購入した商品を配達してもらった時に代金を支払う「代引き」。中国の宅配企業も代引サービスを行なっている。順豊(シュンフォン、SF Express)でも、2019年から2021年まで、代引きの預かり額は、568.27億元、808.57億元、826.42億元(約1.6兆円)と成長している。順豊は0.8%程度の手数料を徴収する。

代引きは便利なサービスだが、この代引きを悪用した詐欺が横行をしている。適当な商品を代引き扱いで送り付けて、お金を騙し取るというものだ。中身は無価値なガラクタであり、送り先はECからの流出、フィッシングサイトから収集した個人情報を悪用する。

SNS「微博」(ウェイボー)の王高飛CEOが、この送り付け代引き詐欺に遭ったと、自身のウェイボーで公開し、改めて話題になっている。

▲ウェイボーの王高飛CEOの元にも代引き詐欺の荷物が送られてきた。そのことをウェイボーで公開し、話題となっている。

 

発送人の確認がされないことが抜け穴になっている

この送り付け代引き詐欺は、10年以上も前から存在しているが一向に減らない。その理由はフィッシングサイトなどで違法な個人情報収集が行われ、有効な規制策が講じられないことと、宅配便企業が発送人の情報を確認をしないことが理由になっている。宅配便企業は、発送人の住所、氏名などが正しいものであるか確認をしない。これが詐欺犯にとっては、身分を隠して詐欺ができることになる。

また、宅配料金も受取人持ちに指定できるため、詐欺集団は無料で大量の代引き荷物を発送することができる。

このような理由から、代引き詐欺がなかなか減らない。

▲代引き詐欺で送られてきた荷物。発送人の住所氏名はでたらめ。

 

荷物の行き場がなくなる「盲発」

このような詐欺集団は、俗に「盲発」と呼ばれる発送方法をする。入手した消費者リストに従って、やみくもに代引き荷物を発送するというものだ。そのため、受け取り拒否をされて、荷物が戻ってくる率が高い。ところが、発送元に戻そうとしても、発送元住所がでたらめであるため、返送することができず、宅配企業の中で荷物が宙に浮いてしまうことになる。宅配企業では、このような事態が起きると、発送人のブラックリストに登録をし、以降の荷物の発送を受け付けず、公安に通報をして捜査をしてもらうようになっている。

また、代金を支払ってしまった人に対しては、発送人の口座を凍結し、宅配企業が返金をし、すでに発送人に支払ってしまった場合でも、宅配企業が肩代わりをし返金をし、公安に被害届を出すというようになっている。

しかし、宅配企業としては偽情報で登録をされてしまえば、独自に発送人を探すことは難しく、業界で監視をし、消費者保護を行う仕組みが必要だという声が強くなってきている。

▲中央電子台などでもたびたび代引き詐欺の特集番組が組まれ、公安でも注意喚起をおこなっているが、代引き詐欺の被害がなかなか減らない。

 

ウェイボーのCEOまで代引き詐欺に遭遇

6月10日、ウェイボーの王高飛CEOは、ある荷物を受け取り、宅配便スタッフから1000元の代引き料金を請求された。王高飛CEOはそのような荷物に覚えがなく、すぐに送り付け代引き詐欺だと疑った。

通常は、ここで受け取り拒否をして終わりなのだが、王高飛CEOは自分でできる範囲での調査を始めた。発送人は、深圳市華強北桑達工業区404棟1楼5566室となっているが、この工業区は実際に存在するものの部屋番号は3桁であり、現実には存在しない住所ということになる。また、内容物は「高級フラグシップモデルi3」と書かれているが、スマートフォンなのかPCなのかは書かれていない。価格は999元、送料が10元、合計1009元の代引きが設定されていた。

この他、社名や電話番号もでたらめで、発送人に連絡を取ることはできないが、代引きをしている以上、その振込口座があるはずで、宅配便企業の順豊は発送人と連絡を取ることができるはずだ。そこで、順豊に問い合わせをすると、順豊ではすでに該当の発送人のアカウントと口座を凍結し、公安に捜査を依頼しているということだった。

 

著名ECの名前を騙る代引き詐欺

ある消費者は、5月12日にEC「京東」(ジンドン)からの荷物を受け取った。その家族は普段から京東をよく利用し、注文をしたことになっている父親が不在であったため、家族が受け取り、疑うこともなく398元の代引きを支払ってしまった。父親が帰宅をして、箱を開けてみると、注文したこともない白酒だった。

父親は京東のサポートセンターに連絡を取り、返品を要求したが、京東側では京東が発送した商品ではなく、返品はできないということだった。結局、その消費者は、消費者問題の解決プラットフォーム「黒猫投訴」に相談をし、京東が返金対応をすることで解決した。

しかし、王高飛CEOのようにSNSで事情を公開して注意喚起をしたり、この消費者のように黒猫投訴などを利用して解決をしようとする消費者は多くない。多くが1000元(約1.9万円)以下の被害であるため、泣き寝入りというか、放置をして以後気をつけるようにするという消費者が大量にいるのではないかと思われる。

 

代引きサービスを停止する宅配企業も

代引きサービスを停止する宅配企業も現れ始めている。菜鳥(ツァイニャオ)では、北京など一部の地区で代引き宅配便の受付を停止している。詐欺に利用されることが多いこともあるが、現場の宅配便スタッフからの評判が悪い。不在の場合は再配達が必須で、宅配ロッカーや置き配をすることができない。また、現金の場合は釣り銭なども準備しなければならない。結局、多くの人がアリペイやWeChatペイで支払うことが多く、でもそれならば、発送人に直接スマホ決済で支払っておけばいいことだ。

▲代引きサービスは、宅配企業が販売代金の受け取りを代行するサービス。問題は多いが、宅配便企業の重要な収入源になっている。

 

代引きサービスは重要な収入源

しかし、多くの宅配便企業が代引きサービスをやめられないのは、無視できない収入源になってきているからだ。どの宅配便企業でも代引きの場合は、代引き金額の0.8%から3%程度の手数料を徴収する。受取人から徴収した代引き代金から手数料を差し引いて、発送人に代金を振り込む。

この手数料収入が無視できず、問題があることはわかっていても、サービスを停止することができない。

 

発送人を審査制にした順豊

順豊では、代引きサービスを審査制にしている。代引きサービスを利用したい販売業者は、先にEC「京東」と出店契約を結ぶことが必要になる。これにより、詐欺業者の多くは排除されることになる。

京東と契約をしたある販売業者の代表者は捜狐財経の取材に応えた。「契約をするには営業免許や法人の基本情報、銀行の口座情報などを提出する必要があります。現在では、詐欺事件はほとんど起きていません」。

しかし、それ以外の業者も代引きを利用することができる。個人の銀行カードを紐付けすれば、手数料は3%と高めになるが、代引き荷物を送付できるようになる。万が一詐欺行為があっても、個人の銀行カードが登録されているので、公安に通報することで防げるという考え方だ。

この場合、1000元の代引きで30元の手数料が順豊に入ることになる。さらに宅配料金も10元と一般の3倍程度になる。

競争により宅配便料金の低価格が進む中、付加価値をつけて高額の宅配料金や手数料が得られるサービスは宅配企業にとって生命線にもなりつつある。

 

宅配便1件あたりの単価は190円

国家郵政局の統計によると、2021年の宅配便量は1083億件であり、前年から30%も増加をした。しかし、宅配便営業収入は1.04兆元で18%しか伸びていない。1件あたりの宅配料金は、9.6元(約190円)という安さになっている。宅配便量は年々大きく成長しているが、価格競争で1件あたりの収益は低下を続け、どの宅配企業も経営が厳しくなっている。

その中で、代引きサービスのような付加価値の高いサービスをどれだけ伸ばせるかが鍵になっている。代引きサービスの問題を解決して、安心して利用ができるサービスに育てることが重要になっている。