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コロナ需要で急増する宅配ステーション。赤字と繁盛の違いはどこにあるのか?

コロナ禍により、宅配便の需要が急増し、菜鳥では100都市3万カ所の宅配ステーションの増設を決めている。しかし、開業しても赤字のところもあれば、大きな利益をあげているところもある。この違いはどこにあるのか。立地と副業だと幸福341が報じた。

 

コロナで起きている大量の労働力の移動

コロナ禍により、飲食、旅行関係、小売、製造と広い業種が総崩れとなり、大量の潜在失業者を出した。一方で、宅配便、外売騎手(フードデリバリー)などでは需要が急増し、圧倒的な人手不足となり、大規模な労働力の移動が起きている。

アリババ傘下の宅配企業「菜鳥」(ツァイニャオ)では、急増する需要に応えるため、100都市で3万カ所の宅配ステーションを増設することを発表した。フランチャイズ方式で、職を失い生活に困っている人に宅配ステーションを開業してもらおうというものだ。

3月だけで40万人が応募し、7000カ所の宅配ステーションが開設された。メディアに取り上げられて話題になったのは、成都市の大学3年生、馬海燕さんが開設した宅配ステーションだ。

大学は休校となり、講義はすべてオンラインになっている。両親は農業を営んでいるが、農閑期に出稼ぎにいくことができない。そこで、自宅で菜鳥の宅配ステーションを開業した。家族3人の生活費、学費などを稼げる上に、家族がひとつ屋根の下で暮らせることから、コロナ禍における「家族経営」「パパママショップ」のよさが見直されている。

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成都市の大学生が開業した宅配ステーションは多くのメディアに取り上げられた。コロナ禍で出稼ぎにいくことができない両親と3人で運営をしている。このような時期に、家族が一緒に働ける点が見直されている。

 

儲かる宅配ステーションから赤字のステーションまで

宅配ステーションの仕事は、送られてくる宅配便を近隣に配達することと、近隣の人の荷物を集荷して、宅配物流に乗せることだ。

しかし、毎月82万元(約1250万円)の収入を得ている宅配ステーションもあれば、赤字になっている宅配ステーションもある。この違いはどこにあるのだろうか。

宅配ステーションを開設する開業資金は、10万元(約150万円)程度だと言われている。その多くは家賃だ。そのため、自宅で開業ができる場合は大いに有利になる。この他、パソコン、棚、宅配受付設備など1万元程度が必要になる。

一方で、収入は荷物1つで0.5元ほどになる。平均して1日に500件ほどの荷物が送られてきて、それを近所に配送するので、0.5×500=250元ほどが1日の収入となる。

また、近所の人が発送する荷物を受けつける業務もある。省外への荷物であれば収入は6元から7元程度、省内であれば2元程度になる。平均して5元とみなし、1日平均20件ほどの荷物を扱うので5×20=100元となる。

配送、集荷合わせて1日の収入は250+100=350元となり、月に1.05万元(約16万円)になる。

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▲菜鳥では、100都市3万カ所の宅配ステーションの増設を決め、各地に続々とステーションが誕生している。フランチャイズ方式での展開が進んでいる。

 

標準収入では生活が成り立たない。立地が決め手になる

一方で、月の家賃、運営事務費などに6000元から7000元かかる。つまり、手元に残るのは月に3000元から4000元で、平均的な宅配ステーションで生活をしていくのはなかなか厳しい。そのままでは営業を続けていくことができず、倒産してしまうステーションもある。一方で、毎月82万元の利益を得ているところもある。

この違いの最も大きな原因はなんといっても立地だ。最も有利なのは、近隣に大学がある場所。中国の大学は、原則寮生活であり、大学生は買い物の多くをECで済ませる。そのため、荷物の数が多くなるので、収入も大きくなる。また、近くに大規模マンションがあるところも有利だ。ただし、若い世代が多く住む新しいマンションが望ましく、中高年老人世代の多いマンションは、ECを使う率が低いので、あまり売上に貢献しない。

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▲荷物を置くスペースさえあれば、簡単に開業できることから、コロナ禍で経営が苦しくなった小売店、飲食店の店主が宅配ステーションに転業する例も多いという。

 

コンビニなどと組み合わせることで利益が出る

とはいえ、このような立地のよさは簡単には得られない。そこで、利益を出している宅配ステーションの多くが行なっているのが副業だ。特に、米、小麦粉、食用油、果物などの販売を一緒に行なっている例が多い。荷物を出しにくる顧客が、帰りがけに買っていってくれるからだ。また、注文を受け、宅配荷物を配送するついでに配送することもできる。

最もうまくいっているのは、コンビニと併設する例だ。コンビニの客数は多いので、それが宅配ステーションの存在を宣伝することになり、コンビニと宅配ステーションの両方で利益を上げられるようになる。

いずれにせよ、菜鳥の宅配ステーションをただ開業しただけでは生活をしていけない。なんらかの工夫をしなければならない。中国のフランチャイズ方式の多くが、ただ開業するだけでは生活費ぎりぎりしか稼ぐことができず、各自が工夫をしなければならない設計になっている。

コンビニなどフランチャイズを展開する企業側も、こうした工夫に関してはおおらかに見ていて、店主各自の工夫を許容している。それどころか、うまくいく工夫に関しては、積極的に横展開をしていく。こういう感覚が、中国の経済回復を下支えをしている。

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▲コンビニと併設した菜鳥宅配ステーション。日本では、フランチャイズの契約上の問題があって、簡単には併設できないが、中国では店主の自由度が高い。宅配とコンビニの相乗効果で利益が出せるようになっている。