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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

海外の都市から発送された海外ブランド品。製品も偽物なら、宅配便情報も偽物

11月11日独身の日セールに、海外から発送されてきた海外ブランド品であるのに、実は国内生産、国内発送の偽ブランド品だったという事例が相次いでいた。国内生産した偽ブランド品を、宅配便のシステムを騙して、あたかも海外都市から発送したかのように偽装をするため、消費者はまったく疑うことがないと閩南生活網が報じた。

 

代理購入の厳格化後、初の独身の日セール

11月11日の独身の日セールは、アリババが始めたものだが、アリババ以外のECサイトも便乗をして、ほぼすべてのECで大セールが行われる日になっている。

ECサイトばかりでなく、個人で海外から商品を個人輸入して転売をする代理購入業者もセールを行う。海外製品の代理購入業者は、中国国内で海外の製品を個人購入するという建前で輸入をし転売するケースと、海外に在住して、現地で商品を買い付け、中国国内に持ち込む、発送するケースがあった。

しかし、偽ブランド商品が販売されるケースも多く、中国政府は2019年1月から中国電子商務法を施行し、代理購入をする場合であっても営業許可書の取得を求め、税関の審査を厳格にすることにした。

代理購入は、あくまでも「自分のために購入する」という建て付けで、商品を輸入、持ち込みをするため、税関の審査が甘く、関税を徴収されないケースが多かった。それゆえに利益が出て、個人としては儲かるビジネスだった。新法の施行で、営業許可証と関税が必要となり、怪しげな業者が淘汰され、消費者を保護することを狙っていた。

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▲中央電視台の報道番組「新聞1+1」。偽物スニーカーが国内で生産されていること、宅配便のシステムを騙して、発送地を偽装することなどが特集されている。以前から問題になっていたこの「国内産海外製品」は、2019年の独身の日セールにも大量に出回ったと推定されている。

 

海外輸入製品を買ったら、国産の偽物だった!

独身の日セールには、代理購入業者から海外製品を買った人も多かった。中央電視台の報道番組「新聞1+1」で、30分もの長さで「物流データも捏造、海外製品を買ったら、国産の偽物だった」という特集が放映され、消費者の間で話題になっている。

つまり、海外製品を輸入して販売をしても、関税がしっかりと徴収されるため利益が出づらい。そこで、国内生産をした偽海外ブランド品を「海外から輸入した製品」と偽って販売をするケースが増えてしまったのだ。

この番組では、代理購入業者が販売したナイキやアディダスニューバランスのスニーカーの多くが偽物だったということが報道されている。

 

セール中なら価格が安すぎても怪しまれない

一般に、偽物スニーカーは、正規品に比べて、価格が3割ほど安い。通常であれば、価格が安すぎるために「なにか怪しい」と気がつくのだが、独身の日セール前後では、あらゆる商品が割引をしているため、安くても不思議に思わない。

しかも、送られてくる宅配便の送り状を見ると、発送地が香港や海外の都市になっているため、不審に思わない。まさか、国内で製造した偽物をわざわざいったん香港や海外に運んで、そこから発送しているとは誰も思わないからだ。

さらに、商品の質が悪くない。素人では正規品と見分けがつかない出来栄えだ。消費者の中には、本物か偽物かは気にせず、質の高い商品が安く手に入ったのだから構わないと考える人もいる。

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▲宅配便の情報を見ると、旧金山(サンフランシスコ)から発送をされ、税関も通過したということになっている。しかし、実際は国内から発送されていた。

 

偽物スニーカーの生産拠点、莆田市

このような偽物スニーカーの多くは、福建省莆田市で生産されている。報道によると、中国国内に流通する偽物スニーカーの内、9割はこの莆田市で生産されたものだという。

莆田市は、そもそもは、国際ブランドのスニーカーの正規の生産拠点だった。事実上のOEM生産をしている業者も多く、技術力は高い。しかし、正規品を作る横で、同じラインの製品を非正規品として横流しする事象が多発し、国際ブランドは、生産拠点を再構築し、1つの拠点で完成品まで製造するのではなく、生産拠点を分散し、最後は自社直営工場で完成させるという方向に進んでいる。

そのため、莆田市では仕事が減り、中国国内に向けて、偽物スニーカーを生産することになっている。

元々、正規品を作っていた人たちが作っているので、正規品と変わらない出来栄えだということも、偽スニーカーがなくならない理由のひとつだ。

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福建省莆田市は、元々国際ブランドのスニーカーを正規に生産する拠点だった。そのため技術力は高い。そのような正規品を製造していた業者が、偽物を製造するために、偽ブランド品がなかなか根絶できない。偽物だとわかっていても、購入する消費者がたくさんいるためだ。

 

個人で偽物スニーカーを扱っても、月の売上は150万円以上

ある代理購入業者は、2014年2月から莆田の偽スニーカーの販売を始め、5年になる。10以上もの製造企業から商品を仕入れ、3000名以上の顧客を抱えている。高級スニーカーが毎月100足程度が売れ、月の売り上げは10万元(約155万円)以上だという。

莆田市での一般的なスニーカー仕入れ価格は10数元で、100元程度で販売すればじゅうぶんに利益が出る。定価300元、400元程度の正規品にあたるスニーカーが売れ筋で、これを200元から250元程度で販売すると、セール価格だと勘違いされ、よく売れ、なおかつ利幅も大きくなる。

 

宅配便システムを騙す「異地上線」サービス

では、宅配便の送り状はどうするのだろうか。確かに香港や海外都市が発送地になっているため、消費者は輸入品だと信じてしまう。莆田には「異地上線」「国際上線」サービスを行う業者がたくさんいる。

このような業者は、宅配便の送り状を作成し、宅配企業のオンラインシステムに登録する時に、発送地の記号を香港や海外都市にして、宅配物流に乗せてしまう。システム上は、香港や海外都市から発送されたように見えることになる。

このような異地上線業者によると、海外都市用の宅配便受付機器を手に入れて、システムを騙すのだという。その入手には、宅配便企業内部の人間が関与していると証言しているが、各宅配便企業はいずれも強く否定している。

そのため、公式サイトで、宅配便の荷物番号で経由地を検索すると、実際は、莆田から発送しているにも関わらず、海外から発送をし、税関まで正しく通過したという情報が表示される。一般の消費者には、これが偽情報だと気づくことはできない。

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▲偽物生産地には、「異地上線」をうたうサービスがあちこちにある。宅配便のシステムを騙して、あたかも海外の都市などから発送したかのように偽装をして、宅配便を送れるサービスだ。

 

代理購入のいたちごっこは今後も続く

2019年1月の中国電子商務法の施行は、偽ブランド品、粗悪品の排除が目的だった。スニーカーならまだしも、粉ミルクや化粧品、食品といったものの場合、健康や生命に関わる問題を引き起こす可能性がある。

同時に、税関は審査を厳格化し、個人輸入でもしっかりと関税をかけるようになった。このため、個人でやっている代理購入業者は、利益が激減してしまい、廃業をするものも多かった。

しかし、今度は、関税とは無縁の「国内生産の海外製品」が出回るようになった。当局、宅配便企業や消費者保護関連機関は対策を急いでいる。