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中国の新しい一級都市は、上海、北京、深圳、杭州。杭州の格上げに議論が広がる

中国都市局は、毎年都市の発展ランキングを公開しているが、今年は異変が起きた。最も発展している都市として、例年、上海、北京、深圳、広州の4都市が挙げられていたが、今年は広州が準一級都市に格下げとなり、その代わりに杭州が一級都市に格上げされた。これが議論を読んでいると上林院が報じた。

 

北上広深時代が終わる。新しい一級都市は杭州

中国都市局と中国都市研究院が共同で「2020年中国都市発展レベルランキング」を発表した。一流都市として39都市が選ばれ、そのうちの4都市が一線都市(一級都市)、15都市が準一級都市、30都市が二級都市とされた。

しかし、今年のランキングには大きな異変が起きている。従来、中国の一級都市といえば北京、上海、広州、深圳の4都市で、まとめて「北上広深」と呼ばれることも多かった。ところが、今年の一級都市として選ばれたのは杭州市で、広州市が準一級都市に格下げとなった。これが大きな議論を呼んでいる。

 

風光明媚な観光都市が、テクノロジー都市に

つい最近まで、中国人の杭州市に対する印象と言えば、風光明媚な観光都市。古来から文人墨客が愛した西湖を中心にした静かな都市で、上海に近いことから「上海の花園」と呼ばれることもあった。

しかし、アリババが興ったことから、杭州は急速にテクノロジー都市の顔を持ち始めている。アリババだけでなく、関連するテック企業が拠点をかまえ、郊外の水郷の街は、次々とテックパークに衣替えをしていく。

その発展ぶりは数字にも表れている。2019年の人口増加は55.4万人で全国一。また、高度人材の増加率、テクノロジー関連人材の増加率も全国トップだ。さらに、地方政府の財政収入は広州市を越え、ユニコーン企業の数も北京、上海に続く多さになっている。

確かに杭州市の将来性は、中国で最も高いかもしれない。しかし、都市としての基本的なポテンシャルはまだまだ地方都市のレベルを抜け出すことができず、北京や上海、深圳と比べると見劣りがする。

このようなことから、「杭州市は一級都市と言えるのか?」という議論が起きている。

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杭州市は文人墨客が愛した西湖を中心とする観光都市だった。それがアリババの登場により、テクノロジー都市に変貌をしている。

 

GDPが伸び悩む広州

都市のGDPを見ると、やはり突出しているのは上海、北京、深圳の3都市だ。広州が伸び悩んでいることは確かだ。しかし、杭州GDPはまだ一級都市とは言えないレベル。むしろ、重慶の方がはるかに一級都市に相応しいし、今年はコロナ禍による損失が大きかったため下位に落ちてしまったが、武漢GDP重慶と競い合うレベルになっている。

GDPという都市の基本の指標から、杭州はまだ一級都市とは言えないと主張する人がたくさんいる。

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▲2020年Q3の各都市ごとのGDP。広州の伸び悩みが目立つが、杭州GDPではまだトップクラスとまでは言えない。

 

人材の自給自足がまだできていない杭州

杭州は高等教育機関が少ない。昨年まで杭州は「新一級都市」に分類されていた。この新一級都市の大学数を比べると、杭州市は最低レベルになっている。新一級都市の大学生数は杭州以外では72万人以上だが、杭州市は49.6万人。一方で、広州市は109万人もいる。

つまり、杭州市は自ら人材を供給することができてなく、外から人材を呼び込む形になっている。そのため、高度人材、テック人材の流入量が多くなっているのだ。

高等教育機関が脆弱であるというのは、一級都市としての弱点になっている。

また、都市移動の基本インフラである地下鉄(都市鉄道)の総延長を見ても、杭州市は一級都市から大きく隔たっている。

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▲都市ごとの大学数。武漢が圧倒的に多く、教育都市となっている。杭州の大学数は少なく、人材が外から流入することで発展をしてきた。

 

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▲地下鉄の総延長距離では上海と北京が圧倒的に長い。杭州はまだ地下鉄の発展中で、都市内移動は路線バスに頼っている。

 

製造業が少ない、アリババ依存の弱点を持つ杭州

産業的に見ても、杭州市の弱点は製造業が少ないことだ。2019年の製造業増加率も全国12位で、蘇州市の半分程度でしかない。製造系企業の拠点は杭州市にも置かれているものの、その多くが製造拠点ではなく研究拠点だ。

また、肝心のテック産業も、アリババ一社に頼り切っている点が弱点になる可能性がある。実はアリババも創業当時、上海への移転を考えたことがある。しかし、投資資金が枯渇し、経営危機を迎えたことで杭州に留まらざるを得なかった。その後、淘宝網タオバオ)で急成長をする。ソーシャルEC「拼多多」は、杭州で創業をしたが、早い段階で、より機会の多い上海に移転をしている。

上海まで高速バスで2時間程度、高鉄で1時間という近い距離にあるため、杭州は独自の杭州経済圏を作ることができず、上海経済圏に飲み込まれてしまっているのだ。それがアリババという巨大テック企業が登場したために、アリババの影響力により、杭州市の経済力を上昇させている。

つまり、杭州市は、北京、上海、深圳と肩を並べる可能性を持った都市だが、アリババ依存が強すぎる脆弱性を持っている。アリババ以外の企業、産業を育てることができるかどうかが、杭州が一級都市に定着できるかどうかの鍵になる。