中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

とれたてのカニを2時間でお届け。即時配送に進化をするライブコマース

山東省済南市で即時配送するライブコマースが始まっている。とれたてのカニなどの海産物を、市内であればわずか2時間で配達してくれるライブコマースだ。ライブコマースの進化は続き、重要な消費チャンネルのひとつになっていると創業邦が報じた。

 

中国だけで進化をするライブコマース

中国で利用が拡大しているライブコマース。海外ではどこの国でもライブコマースは軌道に乗せるのに苦戦をしているが、なぜか中国では成長し続けている。なぜ、中国だけでライブコマースが歓迎されるのかということが中国内でも話題になり始めているが、誰も明快に説明できないのが現状だ。

中国でライブコマースが拡大する理由のひとつは、進化をし続けているということかもしれない。当初は、小売店で販売されている服飾品、玩具、家電製品などから始まったが、次第に養殖ザリガニの予約販売や、飲食店の割引クーポン、テーマパークの優待入場クーポン、さらには自動車、トラクターなど、「こんなものまで買えるの?」という驚きがある。実際に買う人は一部であっても、その話題が広まることでライブコマースに惹きつけられる人が増える。

 

とれたてのカニが2時間で配達されるライブコマース

今話題になっているのは、とれたてのカニが生きたまま市内であればわずか2時間で配達されてくるというライブコマースだ。

このライブコマースを運営しているのは、山東省済南市の「魯海于家海鮮」(ルーハイユージャー)。魯海集団は、もともと海鮮、餃子、果物などを飲食店などに卸す仲卸業をしていた。しかし、2020年のコロナ禍で事業は大きな影響を受け、ショートムービープラットフォーム「抖音」(ドウイン)にアカウントを作成し、消費者向けのライブコマースを始めた。

これが好評となり、1年で4000万元から5000万元(約10.1億円)の売上をあげ、抖音の海産物ライブコマースでは第1位の売り上げとなっている。

▲とれたてのカニがわずか2時間で配達されてくる。魯海于家海鮮が始めた即時配送ライブコマースが他都市にも広がろうとしている。

 

新型コロナの感染拡大による宅配の遅れがきっかけ

しかし、ライブコマースの運営は簡単ではなかった。以前のやり方は、宅配便を使って商品を発送するというものだった。当日または翌日に配達される。しかし、新型コロナの感染拡大で、宅配便のスタッフも大きな制限を受け、配送の遅れが日常的になっていた。海産物の場合、配送の遅れは品質を劣化させかねない大きな問題だった。

そこで取ったのが、海鮮倉庫のある海鮮卸売市場から5km以内の消費者に直接配達をするという方法だ。

ちょうど、宅配企業の順豊(シュンフォン、SF Express)が短時間で市内配送をするサービスを始めていて、2019年からは子会社として独立させ、サービスを本格化させていた。これに抖音のライブコマース担当者が協力をし、魯海于家海鮮、抖音、順豊の3社がテスト販売を繰り返し、問題点の洗い出しを行なった。

そして、感触をつかんだ三社は、本格的なライブコマースを始め、済南市の環状高速以内の配達であれば、無料で、2時間または3時間で配送するというサービスが生まれた。毎日1000から2000の注文が入り、エビやカニ、ハマグリが活きたまま届けられる。

魯海于家海鮮は、現在、このモデルを他の8都市にも展開する準備を進めている。

▲ライブコマースでは活きのいい海産物が紹介され、その商品が2時間で自宅に配達されてくる。海産物市場に行ったような気分も楽しめる。

 

倉庫の場所を考えることで、市内配送のコストを下げる

しかし、この体制を構築するのは簡単ではなかった。最も問題になったのは、市内配達のコストだった。市内のどこに倉庫を置くべきかを順豊と綿密に検討した。当初、魯海于家海鮮は済南市の西側にあり、済南市の人口密集地域は東側であるため、配達コストが高くついていた。最大で1件60元程度にもなり、魯海于家海鮮の最も安い商品は98元であるため、配達料を無料にするとまったくの赤字になる。

現在は、抖音が、市内中心部にクラウド海鮮倉庫(生鮮品の共用倉庫)を設置したため、そこを利用し、ライブコマースもそこから行なっている。これにより、配達コストは平均で20元まで下がり、平均客単価は300元なので、配達料を無料にしてもじゅうぶん吸収できるようになった。

▲ライブコマースでは、テキストで質問をすることもでき、演者はそれに回答をする。やり取りができるため、店頭で買っているのと同じような安心感が得られる。

 

即時配送ライブコマースに集まる期待

このような鮮度が重要な生鮮品の市内配送は、各企業も注目をしている。EC「京東」(ジンドン)傘下の即時配送サービス「達達」(ダーダー)は、京東到家サービスと連携して2km以内30分、5km以内1時間の即時配送サービスを始めている。また、フードデリバリーの「美団」(メイトワン)も料理だけでなく、生鮮品、生花、観葉植物、ベビー用品、電子製品、書籍などのデリバリーサービスを始めている。

さらに、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)は、完熟フルーツの24時間配送を北京、上海、広州、深圳の4大都市で始める準備を進めている。

宅配企業の順豊は、このような動きに対抗するため、ショートムービープラットフォームの抖音、快手と提携し、ライブコマースで販売された商品を市内1時間配送するサービスを始めた。その最初の成功例が、魯海于家海鮮ということになる。

中国のライブコマースは今でも進化をし続けている。それが消費者を惹きつける魅力のひとつになっている。