服を買うにはショップに行かなければならない。なぜなら試着をする必要があるから。その常識が変わるかもしれない。自分のアバターが試着をする3Dバーチャル試着システムが開発され、ECやアパレル企業への採用が進んでいると僖刻迎賓が報じた。
試着は自分ではなく、オンラインのアバターで
安徽省の合肥翰飛科技(ハンフェイ)が、3Dバーチャル試着システムを開発して、ECやアパレル企業への採用が始まっている。
このシステムは、自分の顔、髪型、体型などを3Dスキャンしたリアルなアバターを作成し、そこに既成の服を着せられるというもの。顔の凹凸の誤差は1mm以内、体型の誤差は1cm以内で、データをスキャンすれば10ミリ秒でアバターを生成できる。また、AIにより表情を自動生成することができ、光源も考慮することができ、自然な肌感を表現する。
着せる服もデータ入力をすることが必要になるが、素材の色や光の反射だけでなく、弾性などの物理特性もシミュレートできるため、服の素材の質感表現まで可能になっている。重力と体型に合わせて、リアルなシワができる。
ECで買ってきて、着てみて返品が常識に
このようなシステムが開発されたのは、Z世代の服の買い方が従来とは違ってきているからだ。Z世代はインドア派が多い傾向にあるために、店舗に行って試着をするという買い方を好まない。また、多くの服飾品が大量生産になり、従来のように試着をしたり、丈詰めをする必要がなくなりつつある。
そこでZ世代は、ネットで服飾品を購入し、届いたら着てみて、自宅で試着をし、サイズが合わないとなると返品をする。
返品をするというのはアパレル商品ではもはやあたりまえのことで、セール期には返品率が30%を超えることも珍しくない。返品は小売業者にとっては頭の痛い問題だが、返品が前提になっているために気軽に買ってくれる面もあるため、返品率を下げる方策を講じることが課題になっていた。
服を買ったら自撮り写真の定番行動
もうひとつ、Z世代の消費行動で従来と大きく変わったのが、新しい服を買うと、それを着た自撮り写真を撮影するということだ。それをSNSで公開するか、自分の記録として残すかは人さまざまだが、購入後の撮影は購入プロセスの一部になっていて、自撮り写真のイメージが湧きやすい商品が売れる傾向も見られるようになっている。SNS「小紅書」(シャオホンシュー、RED)などで、ある網紅(ワンホン、インフルエンサー)の「今日のコーデ」の写真がバズると、同じ洋服、同じ場所で撮影した投稿が大量に登場してくる。
女性が服を買うのは、以前は、その服を着て、誇らしい気持ちで街を歩き、道行く人から注目をされることを喜びと感じていたが、今では、自撮り写真を撮り、SNSで賞賛されることを喜びとしている。
このバーチャル試着システムでは、自分のアバターの表情を変えたり、ポーズを変える、角度を変える、背景を設定するなどが可能であるため、自撮り写真のシミュレーションもできる。この自撮り写真的な試着の表現が、消費者の欲求を刺激し、購入率があがるのではないかと期待されている。
人間モデルとバーチャルモデルのハイブリッド
同様の技術を別の方向に展開している企業もある。「北京世悦星承科技」(StarHeir Technology)だ。撮影は生身の人間のモデルで行われるが、顔をバーチャルキャラクターのものに取り替える。これにより、同じ体型のモデルチームにより撮影を効率的に行うことができるようになり、SNSでは一人のキャラクターとして露出をすることができるようになる。VTuberの中の人が複数人いるような感覚だ。
生身の人間とリアルな服を使う分、服の表現を損なうことがなく、すでにグッチ、マックスマーラ、エアジョーダン、クラランス、アンダーカバー、李寧などのアパレル、シューズ、化粧品メーカーと契約をし、微博(ウェイボー)、小紅書(シャオホンシュー、RED)、抖音(ドウイン)などで人気が集まっている。
始まるアバター試着
このようなバーチャル試着の具体的な活用はこれからのことになるが、顔と体型のスキャンをどのようにするのかという問題がある。一度は設備のある店舗に行きスキャンをする必要がある。
あるいは、顔のスキャンはスマートフォンでもかなりの精度でできることから、体型に関しては身長などのデータから標準的な体型を生成し、それを修正していくという方法も可能だ。むしろ、その方が、消費者が「理想と考える自分の体型」のアバターをつくれることができ、歓迎されるかもしれない。
合肥翰飛科技では、すでにEC、アパレル企業との共同開発作業が始まっている。年内には、バーチャル試着が登場することになる。