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素人集団の挑戦。12年でiPhoneに追いついたスマホ素人集団「シャオミ」

自動車製造の経験がないシャオミが自動車製造に挑戦をすることが話題になっている。しかし、シャオミがスマートフォンを製造した時も、素人集団の挑戦だった。素人だからこそ、先入観のないイノベーションが起こせたと騰訊網が報じた。

 

素人集団が自動車をつくる

スマートフォン、家電などのメーカー「小米」(シャオミ)が自動車製造に乗り出したことが話題になっている。シャオミがつくるのだから、当然、テクノロジー感覚に溢れたものになるという期待もあるが、製造をする子会社の「シャオミ汽車」のメンバーが話題になっているのだ。設立発表会には、経営陣と主要メンバー17人の集合写真も公開されたが、自動車業界出身者が1人しかいない。その一人とは元BMW中国のデザイナーで、その他はみなスマホや家電の事業に携わっていた人たちだ。つまり、まるっきりの素人が自動車を製造することになる。

これに賛否両論が寄せられている。自動車づくりを甘く考えているという否定的な意見から、先入観のない門外漢だからこそイノベーションを起こしてくれるのではないかという肯定的な意見まである。ネットメディア「テンセント科技」が行なったアンケートでは、シャオミ汽車に期待できるが63.1%、期待できないが36.9%となった。

▲小米自動車の設立発表会での写真。自動車産業出身者が1人しかいない素人集団の挑戦であることが話題になった。

 

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iPhoneのあるフレーズにより生まれたシャオミ

そもそも、シャオミがスマートフォンを製造すること自体、素人集団の挑戦だった。シャオミの創業者、雷軍(レイ・ジュン)は、起業前は金山軟件キングソフト)のCEOを務めていた。キングソフトは、中国語ワープロWPS」、セキュリティソフト「金山毒覇」、MMORPG「剣侠情縁」(ソードヒーローズフェイト)などを開発していたソフトウェア会社だった。ハードウェアの製造はまったくと言っていいほど経験がなかったのだ。

しかし、どうしてもスマホ製造に乗り出したくなってしまったのが、2007年にiPhoneが発売されたことだった。雷軍は発売するとすぐに手に入れ、その斬新さや工業製品としての質の高さに驚嘆をした。

そして、背面に書かれたあるフレーズが雷軍の心を捉えた。

「Designed by Apple in California, Assembled in China」(カリフォルニアのアップルが設計、中国が製造)というフレーズだった。当時の中国には、これだけの先進的なデバイスを設計する能力はない。しかし、製造することはできる。もし、自分たちで設計ができれば、iPhoneと同じレベルのものや、あるいは超えるものもつくれるのではないか。

しかも、iPhoneは米国設計、中国製造という国際製品だ。それが世界中に受け入れられようとしている。中国設計、中国製造のスマホも世界中に売れるのではないか。雷軍は、過去の経験など関係なく、スマホ製造企業をつくりたくなってしまった。

走り回って、キングソフト、グーグル、マイクロソフトなどから創業メンバーを集め始めた。

▲シャオミの創業メンバーは、お粥を炊いて全員で食べた。これがシャオミの創業の儀式となった。

 

ユーザーに近いところから開発をしていく

2010年4月6日、北京市の銀谷ビル807号室でシャオミが設立された。創業メンバーでお粥を炊いてみなで食べるという儀式が行われた。

集まったエンジニアは、多くがソフトウェアエンジニアだった。そこから、雷軍はソフトウェア主導の開発計画を立てた。Androidをベースにし、まず必要なアプリの開発を進めた。それからそのアプリ群を使うのに最適なUI/UX(インタフェース、使い勝手)を開発する。その後でスマホのハードウェアの設計に入るというものだった。つまり、ユーザーに近いところから開発を始め、それに合わせてハードウェアを設計するというやり方だった。

これで使いやすいスマホができ、なおかつ、ハードウェアはそれに合わせて設計されるため、動作は軽く、不必要なハードウェアがなくなるためコストも抑えられるはずだった。

雷軍はこのスマホを1499元で発売しようと考えていた。なぜなら、当時のフィーチャーフォンの高級機と呼ばれる携帯電話は1500元以上するのが常識だったからだ。ほぼ同じ価格、1元安い価格で発売すれば、フィーチャーフォンの高級機を買っている層が買ってくれることを期待したのだ。

▲雷軍は武漢大学を卒業後、キングソフトに入社をし、ITエンジニアと働き、後にCEOとなった。ソフトウェアエンジニアだった雷軍がスマホというハードウェアを開発するのは経験のないことだった。

 

どこからも製造を断られる

しかし、最もハードルが高かったのが製造だ。中国にはフォクスコンを始めとした技術力のあるEMS(受託生産)企業があったが、実績がまるでないシャオミが依頼をしても、どこからも断られてしまう。しまいには、シャオミや雷軍の名前を出すだけでアポイントを取ることすら断られるようになってしまった。

その中で、唯一話を聞いてくれたのが、南京市の「英華達」(インホワダー、OKWAP)だった。OKWAPはそれまで簡易型携帯電話PHSを主力に製造していたが、2011年にPHSサービスが終了することになり、苦境に立たされていた。そのため、実績のないシャオミの話に応じてくれたのだ。

▲シャオミ1の製造を受け持ったOKWAP。PHSを製造していたOKWAPは、経営状態が苦しくなり、新興メーカーのシャオミに賭けた。

 

発売前からコミュニティーを育成

同時に雷軍は、インタフェース「MIUI」を洗練させる仕事を進めた。100人のモニターユーザーを募り、意見を聞き、改善をしていく作業だ。

これはコアユーザーを育成することにもなった。このコアユーザーたちが、ネットでシャオミのスマホについて発信をし、発売前なのにネットのシャオミフォーラムには50万人以上が参加をするようになっていた。みな、中国初の本格スマホに期待をしていたのだ。

 

1999元という圧倒的な低価格

2011年8月16日、シャオミはスマホ「シャオミ1」を発表した。北京のアート地区、798の芸術センターで発表が行われた。

会場が大いに沸いたのは、価格の発表だった。雷軍は価格を発表する前に、サムスンやHTC、LG、モトローラーなどのスマートフォンとのスペック比較表を見せ、スペック的にはシャオミ1がこれらのライバルから比べても劣っていないか、部分的には優れていることを示した。ライバル製品の価格も表示され、多くが3500元から4000元になっていた。

そして、雷軍はシャオミ1の販売価格を発表した。1999元というものだ。この衝撃でシャオミはあっという間に人気になり、売り切れる事態となった。

雷軍は本来は1499元を目標として、直前まで1499元の価格にこだわっていたという。しかし、製造コストがどうしても2000元になってしまう。もし、1499元で30万台を販売したら、シャオミは1.5億元の赤字を抱えてしまう。さすがにそれは耐えられなかった。

価格を1999元にすれば、1台あたりの赤字は1元となり、広告やアプリ販売などで赤字を補うことができる。この決断により、シャオミは安定経営が可能となり、投資資金も獲得をし、成長をしていくことになる。しかし、機能と価格のバランスをギリギリまで追求するコスパ戦略はその後も続いていくことになる。

▲雷軍は、ライバルになりそうなスマホのスペックと価格を並べて見せた。多くのスマホが3500元以上の価格になっている。

▲そして、1999元という驚きの価格を発表する。雷軍は本来は1499元という価格を目指していた。

 

12年でアップルに追いつく

2021年Q2、携帯電話の出荷台数ランキングで、1位はサムスンだったが、2位にシャオミがランクインした。秋の新製品発表前の需要が落ちる時期だとは言え、アップルを抜いたのだ。素人集団が挑戦を始めて、ちょうど12年で目標としていたアップルに曲がりなりにも追いついたことになる。

シャオミの自動車も素人集団の挑戦となる。どのようなものが登場してくるのか、期待をしている人は多い。

 

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