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シャオミの電気自動車「SU7」のヒットはコスパだけではない。ユーザーに対する誠実さもヒットの要因に

自動車としては異例のヒットとなったSU7。その理由はコスパだけではない。修理費用を全国統一、公開するなど、ユーザーに対する誠実さも大きな要因になっている。消費者は透明性の高い仕組みを求めていると互聯網乱侃秀が報じた。

 

自動車としては異例のヒットとなったシャオミSU7

小米(シャオミ)が発売した電気自動車EV「SU7」が、自動車としては異例のヒットになっている。発売開始後27分で5万台の予約が入り、すでに10万台の初年度生産分は完売。追加で2万台の生産をする準備を始めている。納車が追いつかないためにEV販売ランキングの上位にはなかなか顔を出せなかったが、6月以降10位以内にランキングされることも増えてきた。

▲自動車としては異例のヒットになっているSU7。製造が間に合わないため、納車が追いつかず、ランキング上位にはなかなか入ってこないが、年内10万台の生産予定台数はすでに完売をした。

 

車両は赤字、コンテンツで利益をあげる

小米のスマートフォンが売れるのは、よく「安いから」と言われるが、安いというよりもコストパフォーマンスがいいというべきだ。性能はアップルのiPhoneに限りなく近づき、特にライカと提携をした写真の絵づくりでは他機種から頭ひとつ抜けている。それでいて、iPhoneよりも安いのだ。

SU7は、標準版が21.59万元、Pro版が24.59万元、Max版が29.99万元と、最も安い標準版でも約480万円と決して買いやすい価格ではない。しかし、その実力は、小米汽車の創業者、雷軍(レイ・ジュン)がポルシェのタイカンと比較するほど高いものになっている。それでいて、分解調査などの結果から、標準版は1台売るごとに数千元レベルの赤字になっているとも言われる。

この赤字は、自動運転ソフトウェア「xiaomi Pilot」などのサブスク料金で回収をする。この辺りのビジネスモデルもスマホとまったく同じ構造になっていて、高性能のEVが割安価格で手に入る仕組みになっている。

 

業界の古いしきたりも燃料車離れの一因に

もうひとつ、小米製品の特徴が、誠実さと透明性だ。これまで燃料車のビジネスモデルは、車両販売でメーカーが利益を出し、販売店は修理で利益を出すというものだった。そのため、販売店は大幅値引きをして、顧客と長い付き合いをしたい。

この修理費は、「零整比」という数値で明らかになっている。これは、1台の車の部品をすべて交換した場合、車両何台分の価格になるかという示した数値だ。数値が大きいほど、部品代が高いということになる。

中保研汽車技術研究院(http://www.ciri.ac.cn/)では、この零整比の調査を継続的に行っている。その結果、零整比が高いのはベンツ、広汽ホンダ、広汽トヨタなどの海外系メーカーで、ベンツの場合は800%を超え、日系メーカーでも400%を超えている。つまり、ベンツの場合は、すべての部品を交換した場合、新車8台分の費用がかかることになる。一方、新エネルギー車メーカーのBYDは201.49%と抑えられている。

燃料車を販売する系列販売店は、年々燃料車が売れなくなるため、どこも業績が厳しくなっている。その中で、この修理部品の販売と技術料は貴重な収入源になっているため、修理価格を下げるわけにはいかない。消費者から見れば、「ディーラーに修理を依頼すると、とてつもなく高くつく」ことになる。しかも、販売店によって、技術費用やその他の価格がまちまちであるため、いくらかかるのか予想がつかない。当然、重要な顧客には安くし、重要でない顧客には高くしているのではないかという疑いも生まれる。このような業界のあり方も、若い世代が車離れをし、新エネルギー車に関心が行く大きな原因になっている。

▲修理費の価格の高さを示した零整比のグラフ。横軸は車両価格、縦軸が零整比。零整比が高いほど修理費用が高いということになる。新エネルギー車(青色)は、この修理費も安く抑えられている。

 

修理費用は全国統一、しかも安い

一方、小米汽車は、公式サイトで部品の価格と交換時期を公開している。そこには技術料(工賃)も記載されているため、どこの修理工場に依頼をしても、統一価格で修理をしてもらえる。

しかも、その価格が非常に安い。例えば、ドアミラーが破損し、200km以上の訪問修理を依頼した場合、部品代、技術料含めて184元(約4000円)で済むのだ。

安いということも大きいが、全国統一価格になっていて、事前に確認できるという透明性が大きい。若い世代は、こういうスタイルを求めている。

小米汽車は、これでは利益が出ないように見えるが、自動運転ソフトウェアや映画、音楽サブスク、広告などで利益を出していくことができる。自動車そのものや周辺サービスは原価に近い、利益の出ない価格でシェアを広げ、その後のコンテンツサービスで利益を出していく。コンテンツサービスは使うことは強制されず、使いたい人だけが使う。つまり、一種のフリーミアムモデルに近いビジネスモデルなのだ。

SU7が人気になっているのは、自動車そのものだけではない。こういう自動車を取り巻く業界習慣を消費者の望む形に変革したことも大きい。

▲小米汽車では、修理費用を公式サイトで公開している。どの販売店に修理依頼をしても統一価格で修理してもらえる。しかも、その価格が驚くほど安い。