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デジタルデバイスを記憶とともに”納棺”するデジタル納棺師「小西設計所」

デジタル納棺師の仕事をする女性がいる。林西さんだ。廃物アートからヒントを得て、デジタルデバイスをその記憶とともに納棺する仕事をし、SNSで話題となり、現在は小西設計所として活動していると市界観察が報じた。

 

デジタルデバイスの思い出を作品にするデジタル納棺師

1996年生まれの林西さんの仕事は「デジタル納棺師」だ。使わなくなった電子デバイスを廃棄するのではなく、丁寧に分解をして、飾れるパネルに仕上げてくれる。

2021年の夏、ある若い男性が林西さんに連絡を取り、2014年に購入したスマートフォン「スマーティザンT1」を捨てることになったが、思い出があり忍びない。そこで、林西さんにパネルにして飾れるようにしてほしいと依頼をした。

林西さんは1週間の時間をかけて分解をし、作品にした。

多くの電子製品が、新しく登場する製品に淘汰をされて消えていく。しかし、その製品を使っていた記憶は消えることがない。林西さんはその記憶を残す方法を考え、丁寧に分解をし、パネルという形で残す方法を思いついた。人から見れば、そのパネルはただの分解された電子製品にすぎないが、使っていた本人にとっては人生の記憶になる。

▲最初の作品「スマーティザンT1」。これがきっかけとなり、デジタル納棺というコンセプトが生まれた。


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▲初代iPadをその記憶とともに納棺する作品を紹介する小西設計所の動画。

 

使われたスマホの半分は未回収のまま放置されている

2021年、統計によると中国では18.56億台のスマホが市中で使われている。しかし、機種交換による旧機種の回収率は50%以下であり、中国リサイクル協会の調査によると、スマホの54.2%が廃棄もされず、回収もされず放置されているという。

このような状況の中で、林西さんが始めたデジタル納棺師という仕事は人気となり、林西さんの年収は100万元を超えた。同じ仕事をする人も現れ始めている。

スマホだけでなく、ドローンなどのデジタル製品の納棺依頼も多い。

▲作品のひとつ、モトローラのコードレスホン。

 

シャオミ創業者のツイートがきっかけで依頼が殺到

林西さんのアトリエは、山東省濰坊市にあり、500平米と広い。そこにはさまざまな工具が置かれ、作業中のパネルが並んでいる。

2021年末、コンサルファーム「潤米咨詢」の創業者・劉潤が、シャオミ1から4までのスマホのパネル化を林西さんに依頼した。完成後、劉潤はその作品を小米(シャオミ)の創業者、雷軍にプレゼントをした。雷軍はその出来栄えに感動し、微博(ウェイボー)でそのパネルを紹介した。これにより、林西さんの元には依頼が殺到した。

▲シャオミの第1世代から第4世代の作品。後にシャオミ創業者の雷軍に贈られ、話題となり、小西設計所が生まれるきっかけとなった。

 

ヒントは廃物利用のモダンアート

林西さんがこの仕事を始めたのはまったくの偶然からだった。2019年、林西さんは英国に留学をしていた。その時、廃物を利用したアート作品を見て、強い興味を持った。新しい電子製品を買うと、古いものは捨ててしまうけど、これはアートになるのではないかと考えた。

しかし、材料となる捨てる電子製品がなかなか集まらない。英国ではまだしも、中国に帰国をすると、捨てる電子製品はゴミ箱を漁るほか手に入れる方法がなかった。そこで、林西さんはショートムービープラットフォーム「抖音」(ドウイン)で、「使い終わったスマホは捨てないで、私にデザインさせてもらえませんか?」と訴えた。

この映像が反響を呼び、200台以上のスマホが集まった。林西さんは半年以上をかけて、このスマホをすべて作品にして、持ち主に返却をした。

▲小西設計所を主催する林西さん。作品をつくるだけでなく、ライブ配信を行い作品を紹介している。

 

デジタル納棺を仕事にする小西設計所

現在は、依頼が増えたため、チームで納棺師の仕事をしている。制作費は598元(約1万1600円)、複雑なものになるとさらに300元のデザイン料が必要になり、決して安い料金ではないが、それでも依頼が途切れることはない。

林西さんは、月に20日はライブコマースを行い、デジタル製品を販売している。林西さんが薦めるデジタル製品に対する信頼度は高く、1日で10万元以上の売上があることもある。また、オンラインとオフラインで納棺師に必要なデザイン教室も開き、受講料は1万元から6万元だが、こちらも林西さんの活動に憧れて申し込みが多い。

そこから育った30名の学生たちが、林西さんの仕事を手伝い、小西設計所として活動をしている。

▲小西設計所は、デジタルデバイスを分解し、パネルに納めるアート作品をつくることを仕事にしている。