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エンジェル投資家、雷軍をシャオミ創業に向かわせたiPhoneの言葉とは?

小米の創業者、雷軍は2007年までキングソフトのCEOを務め、上場をさせることに成功した。しかし、直後に辞職をし、残りの人生はエンジェル投資家として生きていこうと考えていた。しかし、それを変えたのはiPhoneの背面にあるある言葉だったと財経本色が報じた。

 

エンジェル投資家として生きていこうとした小米の創業者

スマートフォンメーカー「小米」(シャオミ)の創業者、雷軍(レイ・ジュン)は、武漢大学を卒業後、創業したばかりの金山軟件キングソフト)に入社をした。キングソフトは中国語ワープロWPS」、セキュリティソフト「金山毒覇」、MMORPG「剣侠情縁」(ソード・ヒーローズ・フェイト)などを開発、発売していた企業だった。

雷軍は1998年に、キングソフトを上場させることを任務としてCEOに就任。しかし、上場には10年かかり、雷軍は疲れ果ててしまった。上場を果たして、任務をまっとうしたところで、2007年、38歳でキングソフトを退職、残りの人生はエンジェル投資家として生きていくつもりだった。

キングソフト時代の雷軍。学生時代は有名なハッカー、社会に出てからは優秀なエンジニアだったが、キングソフトCEOになってからはマーケターとしての才能も開花させる。しかし、それは雷軍を疲弊させていった。

 

お金のない時代に投資をした「多玩」

雷軍がエンジェル投資家として生きていくと考えたのは妥当な決断だ。なぜなら、キングソフト時代にすでに個人的な投資を行なっており、成功をしているからだ。

2005年4月には、「多玩遊戯網」(ドゥオワン)に100万ドル(約1.3億円)の投資をしている。多玩は、広州華多網絡科技がスタートさせたゲーム情報プラットフォームだった。ゲーム関係の攻略情報、ニュース、記事、掲示板などがある。

この頃の雷軍にとって100万ドルは決して小さなお金ではなかった。なぜなら、キングソフトのCEOといっても上場する前のことであり、乗っている車は20万元(約400万円)、住んでいる家は100万元(約1980万円)だったからだ。CEOなのでそれなりの報酬は得ていたものの、富裕層と呼べるほどでもなかった。

 

人物を信頼して投資をする雷軍

それでも投資をしたのは、多玩の創業者、李学凌という人物を信用したからだ。李学凌は人民大学を卒業後、メディア「中国青年報」のインターンをしていた。この時、キングソフトを批判する記事を書いた。雷軍は、怒るのではなく、その批判ぶりに感心をしてしまった。独特の視点を持っている記者だと感じたのだ。

それ以来、雷軍と李学凌は親しく付き合い、信頼関係で結ばれた。「多玩」(たくさん遊べ)というネーミングも雷軍によるものだ。当時、あるミネラルウォーターが「多喝水」(たくさん水を飲もう)という商品名をつけていた。これはうまいネーミングだった。なぜなら、このセリフは親が子どもの健康を気遣って、口癖のように言う言葉だったからだ。このフレーズから「多玩」というネーミングを考案し、さらに宣伝コピーは「たくさんゲームで遊んで、たくさん水を飲もう」というものになった。

李学凌はゲームの総合ポータルにするよりも、人気ゲームに特化した一点突破の戦略で、「ワールド・オブ・ウォークラフト」の攻略法やコミュニティーに力を入れ、3ヶ月で1日100万ページビューを突破する成功をした。

▲2018年12月に、キングソフト創業30周年のお祝いの言葉をツイートした雷軍。「深い記憶の中に浸ると、過去のひとつひとつが目の前に浮かんできます。私の青春はすべてキングソフトにありました」。

 

新しいサービスの目利きも優れていた雷軍

2007年には、雷軍はISpeakという音声チャットツールに投資をした。投資をするときに、李学凌にいっしょに投資をしないかと誘ったが、李学凌は断った。音声でチャットをするというサービスは、ネット民に受け入れないのではないかと感じたからだ。

しかし、李学凌の予想とは異なり、ISpeakはわずか数ヶ月でオンライン同時接続者数が5万人を突破するという人気になった。李学凌は自分の考え方を改めた。文字と画像の時代は終わり、音声と動画の時代になったのだと悟った。そして、ISpeakとほぼ同じコンセプトの「YY語音」をリリースした。YY語音は最高で1万人までが1つのチャンネルで話ができるという多人数チャットに対応をしていた。

 

投資先企業が初めての上場

このYY語音は、2012年には4億人のユーザーを獲得し、多玩、YY語音を運営する李学凌の企業「歓聚時代」は、2012年11月にナスダックに上場をした。雷軍が個人的に投資をした企業で初めての上場企業だった。

雷軍は歓聚時代の23.8%の株式を持っていた。売り出し価格の11.3ドルで計算をすると、雷軍の資産は1.2億ドルになる。7年前に100万ドルを投資したのだから、120倍になったことになる。

 

エンジェル投資家、雷軍を変えたiPhoneのフレーズ

雷軍は2006年には、ブラウザーを開発していたUCに投資をし、アリババに買収されることで大きな利益を得ている。エンジェル投資家としても優秀で、投資家として生きていくというのは当然とも言える決断だった。

しかし、それを変えたのが、2007年に発売されたiPhoneだった。発売後すぐに取り寄せ、その完成度の高さに驚いた。さらに雷軍を驚かせたのが、背面に印刷されたひとつの言葉だった。「Designed by Apple in California, Assembled in China」(カリフォルニアのアップルが設計、中国が製造)というものだった。中国はすでにiPhoneを製造できるほど製造技術のレベルがあがっている。あとは設計さえできれば、中国でも世界に通用するスマートフォンがつくれるのではないか。ソフトウェアしか開発したことがない雷軍はスマートフォンをつくってみたくなり、自分をとめらなくなった。

雷軍がIT業界に入ったのも、武漢大学時代に図書館である本を読んだからだ。「Fire in the Valley」(パソコン革命の英雄たち)で、シリコンバレー黎明期のビル・ゲイツスティーブ・ジョブズの活躍が詳細なインタビューによって描き出されている。これを一気に読んだ雷軍は、体が熱くなり、自分の中から湧いて出る気持ちが何なのかわからずに、ただ、グラウンドに出てトラックを走り始めた。走っても走っても、自分の中から湧き出る気持ちが理解できずに、気がついたら、夜になり、朝が明けるまで走っていたのだという。

iPhoneの背面のフレーズに、これに匹敵する衝撃を受けたという。そして、2010年3月3日、雷軍は北京市でシャオミを創業する。

▲北京でシャオミを創業した時の記念写真。創業メンバーでお粥を炊いて食べるという儀式を行った。