中国の「後払いわりかん保険」の運営停止が続き、2021年12月28日ついにアリババ系の「相互宝」(シャンフーバオ)が運営停止となり、この「後払いわりかん保険」のすべてが消えることになったと財先説が報じた。
保険料は、保険支払額をわりかんして後払い
このわりかん保険は、月々の保険料を後から払う仕組み。相互宝は、「がん+重大疾病99種類+希少疾病5種類」にかかると最大30万元(約540万円)の保険金が支払われる。保険金の支払いがあった場合に、運営手数料8%を加えて、加入者全員で頭割りをすることで保険料が決まる。全員が健康で、保険金支払いがない場合は、保険料は0元となる。
掛け金も低く、気軽に入れる保険として人気が出て、一時は1億人を超える加入者を獲得。特に低所得者でも入れる保険として、公的保険や保険会社の保険を補う存在として注目もされた。
医師の診断不要など先進的な取り組み
このわりかん保険「相互宝」は、その保険料の決定方法だけでなく、数々の先進的な考え方が取り入れられていた。
加入にあたっては医師の診断などは必要なく、「過去2年以内に、30日以上連続した投薬、入院治療を受けたことがない」「列記の疾患の診断を受けたことがない」「6ヶ月以内に体重が5kg以上減少していない」などの設問に答えるだけだ。もちろん、虚偽回答が発覚した場合は受取資格を失うことになるが、加入のハードルは非常に低い。
また、アリペイの芝麻信用スコア(ジーマクレジット)が650点以上あることも必要だが、普通の人であれば問題はない。650点を割り込むというのは、一般的には、消費者金融サービスなどを利用して、返済の遅滞を起こしているケースだ。
また、保険支払いは支払い条件を満たしていれば自動的に支払われるが、納得がいかない場合は異議を申し立てることができる。この場合は、相互宝ミニプログラム内に掲示板が設置され、匿名化された情報が公開され、法律、医学の知識のある加入者が意見を書き込み、最終的には加入者全員の投票で支払いの可否が決定される。
スマホだけで完結する保険
このような入会から、支払い、異議申し立て、投票などはすべて相互宝ミニプログラム、つまりスマートフォンから行える。必要書類などもスマホで撮影して画像を送信するという方式だ。
2020年3月に、アリペイや相互宝を運営するアントフィナンシャルが行った相互宝加入者に対する大規模調査(有効回答数5万8721件)によると、加入者の79.46%が年収10万元(約160万円)以下だった。また、公的な健康保険に未加入の人も12.93%にのぼった。中国の公的健康保険のカバー率は95%前後なので、収入が低く、健康保険に加入できない人が、メインの保険として、ネット互助を利用する傾向が高いことがわかる。公的健康保険や民間保険の行き届かないところをカバーする社会基盤のひとつとしても機能をしていた。
保険商品と同じ規制が必要になった
このわりかん保険=ネット互助は、保険ではないという建前になっていて、保険業の規制の枠から外れていた。そのため、自由に設計できることもあり、アリババだけでなく、テンセント、滴滴、美団、百度、京東、蘇寧、360などのテック企業が続々と参入をしていた。特にアリババの「相互宝」、テンセントの「水滴互助」は加入者が1億人を突破し、成功といってもいい状態だった。
それがなぜ、次々と運営停止になったのか。政府の規制が入り、保険業と同じレベルの規制が必要になったからだ。
自覚症状のない持病の扱いトラブル
大きな問題になったのが、加入時の健康状態が自己申告であることだ。ある人が、癌を対象としたネット互助に加入をし、自覚症状などはまったくないため、持病はないと申告し、加入が認められた。しかし、後に体調が悪くなり医師の診察を受けると甲状腺癌が見つかり、しかも、この甲状腺癌は加入前から発症していたと推定された。運営側は虚偽申告として保険金の支払いを拒否したが、加入者は加入時に自覚症状はなく、虚偽の申告はしていない。保険金を支払うべきだとトラブルになり、裁判になっている。
このような事態が続いたため、加入者保護の観点から、政府は保険業と同じレベルの規制をかけることにした。この自覚症状というのが悩ましい。「最近疲れやすい」「お腹を下すようになった」程度であれば、本人は病気によるものなのか加齢によるものなのか判断がつかない。しかし、健康には不安を感じるため、わりかん保険などに加入をしたいと考えるようになる。もし、ここで自己申告ではなく、通常の保険と同じような医師の診断が必要であれば、病気が初期段階で発見されていた可能性もある。何が消費者のためになるのかは簡単に決めることはできない。
悪貨が良貨を駆逐する問題
各ネット互助運営は、保険業の免許を取得して運営を続けることもできる。しかし、そうなると、低コストで手厚い保障を提供する設計になっていたネット互助の仕組みに無理が出てくる。
特に問題になったのが、「悪貨が良貨を駆逐する」現象だ。毎月の支払額は小さいとはいうものの、健康に自信がある人にとっては「自分がもらうことはまだまだ先なのに、支払いを続けるのはばからしい」と考え、離脱率が高くなる。一方、健康に不安がある人は加入をしたい、継続したいと考える。こうして、加入者全体の疾病リスクは、一般よりも高いものとなっていく。すると、保険金の支払いが増え、後払いわりかん方式の毎月の支払額も上昇をしていくことになる。これがさらに引き金となって、健康な人が離脱をし、加入者全体の疾病リスクはさらに高くなっていく。
このような理屈で、支払額が急速に上がっていく可能性があると以前から指摘をされていた。
実際にそのようなことが起きている。相互宝のあるユーザーは、2019年4月に加入をした時の支払額(半月ごと)は0.02元だったものが、2021年3月には6.36元になっていた、2年間で支払額は318倍になったとネットで訴えた。
このような事情を受けて、一時は1億人を超えていた相互宝の加入者は、運営停止を決定した時には7500万人まで減少をしていた。わりかんであるため、加入者が減れば、それだけ支払額も増えることになる。
そこの保険業と同じレベルの規制がかけられる。規制では店舗を一定数設置しなければならないルールもある。大きくコストは上がることになり、とても継続が難しいと各社が判断をした。
難しい保険商品の設計
加入者に対しては、同等の保険が紹介され、移行費用などは運営会社が負担をする。しかし、多くの加入者にとって、支払額は増え、保障額は下がることになる。発想としては素晴らしかったものの、継続的な運営をするのは簡単なことではなかった。今後は、保険業の枠組みの中で、より加入しやすい保険商品が模索されていくことになる。