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夜間経済とほろ酔い文化。「酒+X」店舗体験で変貌するバー業界

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今回は、夜間経済と店舗体験についてご紹介します。

 

読者の方から「海倫司(へレンズ)」について調べてほしい」というリクエストをいただき、私もたいへん勉強になりました。へレンズそのものについてもいろいろと面白いことが分かりましたが、今回は、2つの視点からへレンズなどのバー産業についてご紹介します。

ひとつは夜間経済です。コロナ前のことですが、中国の各都市は夜間経済に対する促進政策を行なっていました。10年ぐらいまで、中国は夜が早い国でした。北京、上海といった大都市の繁華街でも、だいたい夜11時頃にはそれまでの賑わいが嘘のように人がいなくなります。

治安維持のためのようです。夜遅い時間に歩いているのはとがめられませんが、座ったり、数人で話し込んでいると、どこからともなく警察官がやってきて職務質問を受けることになります。

その頃にはとっくに形骸化はしていましたが、建前上は中国市民がホテルや友人の家に泊まる時は、公安に対して臨時宿泊登記をする必要がありました。この手続きをしないで外泊をすると拘束されても文句は言えません。10年ぐらい前には厳格には運用されないようになっていましたが、それでも夜遅い時間にふらふらしていると、警察官の職務質問を受け、早く帰宅するように促されます。

また、余談ですが、外国人が中国に旅行した時にも臨時宿泊登記が必要です。現実には、ホテルにチェックインした時に書く宿泊台帳の写しが公安に送られます。ホテルが旅行者に代わって臨時宿泊登記の申請を代行してくれているわけです。ですので、出張の際などには外泊にはお気をつけください。公安に別の目的がある場合、別件逮捕の理由として使われます。

 

ところが、このような制度は市民も嫌がりますし、何よりも時代に合わなくなっています。しかし、夜が早いというのは一種の習慣になっているため、そのまま夜が早い国になっていました。

一方で、中国は夏に飲食などを中心にした消費が落ち込む夏枯れ問題がありました。夏の中国に行かれたことがある人はわかると思いますが、中国の夏は日本より厳しい感じがします。日本のような湿気のある暑さとは違って、直射日光が体にあたって疲れるつらさです。これが深圳や広州といった南の都市であるならわかりますが、北京や西安といった比較的緯度が高い都市でもひどい暑さなのです。このような北方の都市は、冬も厳しく、暮らしていくのはなかなかたいへんです。

夏の昼間はひどく暑いので、人が外出を控えるようになります。これが夏枯れの原因でした。

そこで、北京市などは夜9時から12時ぐらいまでを夜間経済の時間と位置づけ、陽が落ちて涼しくなってから外出することを奨励しました。飲食店や商店に閉店時間を遅くすることを奨励し、公共交通機関もそれに合わせて終電を遅らせました。

ただし、北京全体で夜間経済を奨励すると、治安悪化の問題も心配されるため、大柵欄、三里屯、国貿、五棵松の4カ所を「夜北京」として指定をし、さらに頤和園、天壇公園、オリンピック公園や博物館、美術館でも夜間にイベントを開催し、16カ所で夜市を開催する場所を指定しました。このように、北京全体ではなく、地域を指定する形で夜間経済地域をつくり、夏の夜の経済促進政策にしました。

中国ではドラマの「深夜食堂」が人気となり、中国版まで制作されましたが、このような各都市で行われた夜間経済促進策と深夜食堂の人気は無関係ではないと思います。ところが、新型コロナの感染拡大で、このような夜間経済促進策はすべて白紙となってしまいました。

 

その夜間経済が、コロナの感染状況が落ち着くとともに少しづつ戻ってきています。おそらく、北京五輪までは新型コロナに対しても慎重に対応する必要がありましたが、五輪閉幕後にはこのような夜間経済の動きが活発になっていくと思います。

夜間経済と言えば、どの国であっても、お酒とナイトクラブ、カラオケなどです。しかし、中国人はお酒に対して独特の姿勢を持っています。それは、「酔った姿を第三者に見せないようにする」ということです。日本人の感覚から少し驚きますが、酔って繁華街をふらふら歩いているのは、脇が甘い人という認識を超えて、人としてダメな人だと言うのです。社会からの落伍者だとまで言う人もいました。そのため、日本の東京新橋で、仕事終わりのサラリーマンが酔っ払ってネクタイを頭に巻いて千鳥足で歩いている映像を見ると、中国人はびっくりするのだそうです。

一方で、仲間内で酔った姿を見せるのは親しみの表れになります。ですので、飲むと言ったら、飲食店の個室を借りて朝まで飲む。あるいは誰かの自宅で徹底的に飲むと言うのが主流で、いわゆる居酒屋、バーというのは中国では珍しい存在でした。

 

もちろん、バーがないわけではありません。しかし、いずれも海外文化です。北京では三里屯(サンリートゥン)と后海(ホウハイ)がバーの密集した地区として有名ですが、いずれも輸入文化です。

三里屯は近くに外国の大使館が多いことから、外国人のためのバーが立ち並ぶようになりましたが、90年代から00年代にかけては犯罪多発地域にもなりました。揉めごと程度ならまだしも中国が最も敏感な薬物も蔓延していたようです。そこで、北京市は大々的な浄化作戦を行いましたが、そうなると、やはり街の活気は失われます。さらに、北京市は大々的な再開発を行い、現在の三里屯は大きなショッピングモールが立ち並ぶ流行に敏感な街に生まれ変わっています。バーは残っていますが、観光化をしてしまっています。

また、后海は人気の観光スポットでありながら、賑やかな場所から少し離れているため、静かな環境が保たれている地域です。そこに外国人が、静かにお酒を楽しむバーを開いたところ人気となり、次々とバーが開店するバー街になりました。そうなると静かな環境は台無しです。客を呼び込もうと派手な原色のネオンサインを出す店も現れ、景観規制や騒音規制が行われるなど北京市も観光資源を守るために苦労をしているようです。

しかし、訪れるのは観光客ばかりで、地元の北京市民はほとんど行きません。なぜなら、価格が観光客向けのぼったくり価格だからです。話の種に一杯だけ飲んでみようかということはあっても、腰を落ち着けてじっくりお酒を楽しむような場所ではありません。

なかなか、中国の都市にバー文化は定着をしないままできています。

 

この流れを変えたのが、鋭澳鶏尾酒(ルイアオカクテル、RIO)です。このRIOというメーカーは、ウォッカなどの洋酒をベースに果汁を入れたカクテルを発売し、これが爆発的に売れました(http://www.riowine.com/product)。

売れた理由は2つあります。ひとつは見た目です。瓶詰め商品なのですが、お酒の色が蛍光がかったパステルカラーで、6種類用意されています。名前も「青バラ」「水蜜桃」「ライム」「紫ブドウ」「ゆず」「ミックス」と味も色もバラエティに富んでいます。これがいわゆる「映える」商品として人気になり、パーティーなどでは必ずと言っていいほどRIOが飾りとして山積みにされるようになりました。

もうひとつが低アルコールです。健康志向から「三低」が好まれるようになりました。低脂肪、低糖質、低アルコールです。RIOのお酒はいずれもアルコール度数が3.8%と低く設定されています。ビールが5%前後ですから、低アルコール酒となります。これが受けました。

それまで女性はお酒が好きであっても外で飲むというのは控える人が多かったのです。男性でも酔った醜態をさらすことに抵抗感があるのに、女性が酔った姿を見せたりしてしまうと儒教的価値観の中では非難を浴びることになるからです。それがRIOによって、一杯ぐらいであれば外でも飲むことができるようになりました。RIOは「微醺」(ウェイシュン、ほろ酔い)という言葉を多用していて、微醺文化を広めていきました。

このRIOの登場により、女性たちも夜のバーに出かけていくようになったのです。

 

このような微醺文化を支えているのは、20代のいわゆるZ世代です。しかし、Z世代の大きな問題は、収入がまだ高くないということです。しかも、Z世代は全員が何かのオタクと言ってもいいほど、ACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)の趣味を持っていて、自分の趣味にお金を使います。

バーにお酒を飲みにいきたくても、よほどバーに強い魅力がなければなかなか足を向けてくれませんし、お金を落としてくれません。そこで、バーは「お酒+X」、つまり何らかの店舗体験を提供するのが常識になっていて、この体験でお客を獲得しようとしています。いちばんわかりやすいのは、クラブやライブハウスです。DJや音楽で人を惹きつけます。

では、へレンズなどの新しく登場した微醺文化のバーは、どのような体験で消費者を惹きつけようとしているのでしょうか。

今回は、へレンズを中心に微醺文化ついてご紹介します。

 

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