中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

返品を広く認めればEC化率はあがる。一方、横行する返品保険詐欺に、アリババがAI管理する返品保険「退貨宝」を導入

中国のEC化率は48.0%と高いが、その背景には返品がしやすいことがある。返品の時の送料は返品保険で賄われるが、保険会社は返品保険の詐欺行為に悩まされている。アリババは自社の「天猫」「淘宝網」に、AIで行動分析をする返品保険「退貨宝」を導入したと証券日報が報じた。

 

日本のEC化率はわずか13.7%

日本のEC化率は、「令和5年度電子商取引に関する市場調査報告書」(経済産業省)によると13.7%。意外に小さい。コロナ禍以降、ECで購入が急速に広まった印象があるが、まだまだ1割少しで、諸外国と比べると少ない。

日本は、都市の集積度が高い、オフライン小売が発達をし充実しているということが大きいが、それ以上にECの使い方が他国と異なっている。

▲日本のEC化率は13.7%で先進国の中では低い方になる。中国、英国などが高い。

 

返品率が高い国はEC化率も高い

それは返品に対する考え方だ。日本の返品率は5%から10%程度で非常に低い。多くの人が返品をするのは商品や梱包に問題があった時ぐらいだ。しかし、中国では30%以上、40%近くであり、ライブコマースではさらに大きくなる。衝動買いをしてしまうこともあり、また、商品を購入するとインフルエンサーが自分の名前を呼んでくれることもあり、ついつい買ってしまう。しかし、届いてから冷静に考えるといらないものであることがわかり返品をしてしまう。

米国も平均では25%程度になり、「衣類・靴」などでは56%にもなる。中国でも衣類・靴の返品率は高い。サイズがあるからだ。とりあえず注文をして、届いてから試着をしてみてサイズが合わなければ返品をする。サイズを変えて再注文することもあれば、そのままやめてしまうこともある。

出品業社やECプラットフォームもそれは織り込み済みであり、返品が気軽にできるからこそ、サイズのある衣類や靴も気軽にECで購入することができる。

▲米国の返品率は平均して25%程度。衣類、靴などサイズがあるものでは56%にもなる。Magneto IT Solutionsのデータ。

 

7日間はどんな理由でも返品ができる中国

中国にはECで購入した商品には「7日間無理由返品」の権利が、2014年3月に施行された「消費者権益保護法」により認められている。ECは、現物を見ずに買うのだから、現物を見てから7日間、理由を問わず返品ができるルールだ。

これがECの利用を大きく促した。米国でも多くのプラットフォームが、消費者都合による返品を認めている。しかし、日本のECは、オフライン小売店のルール「商品に瑕疵がある場合は返品可」がそのままECにも適用されると、販売業社も消費者も思い込んでいるため、常識外の消費者都合の返品は拒否されることがある。しかし、これが日本のEC化率が伸びない理由にもなっているのだ。

 

消費者都合の返品の場合の返送料問題

返品をする場合、問題になるのは返送の手間と返送の宅配便代だ。日本のように「消費に瑕疵があった場合のみ返品可」であれば、誰がどう見ても責任は販売側にあるわけだから、返送は販売側が負担をし、返送もピックアップに行くというのが一般的だ。

しかし、中国や米国のように消費者都合での返品がある場合、その返送代金をどちらが負担をするかは問題になる。

そこで、中国では返品保険の導入が進んでいる。返品が発生した場合、その運賃を保険会社が保障してくれる仕組みだ。一見、これで問題は解決されるように見えるが、そうはうまくいかない。この返品保険を悪用する者たちが現れてきているからだ。

 

返品保険には購入者加入と業者加入の2つの方式がある

この返品保険は、消費者が加入する場合と販売業社が加入する場合の2つのケースがある。消費者が加入する場合は商品の購入時に返品保険に入るかどうかを尋ねられ、加入をすると商品代金に保険の掛け金が上乗せされる。と言っても、多くの場合1元以下であり、ECプラットフォームが負担をするというケースも多い。

返品が発生した場合は、消費者は自分で返送を行い、いったん返送料を立て替える。のちに保険から返送料が支払われるという仕組みだ。

販売業社が加入をする場合は、掛け金を販売業社が支払い、それを考慮して販売額を決める。消費者は返品保険加入済み業社から購入をすれば、返品は返品専用の宅配便を使えば、料金を支払う必要はない。料金は販売業社が建て替え、後に保険会社から返送料が支払われる。

このいずれでも悪用した詐欺まがいの事件が起きている。

 

格安宅配便を使い、保険支払額との差額を稼ぐ

消費者が加入する返品保険では、保険支払額と実費の差額を稼ぐというみみっちい詐欺が横行をした。

保険の支払額は、荷物の大きさや距離によって宅配便料金が異なるため、それに応じて12元から20元程度の保険金が支払われる。ところが、零細の宅配便業社や中国郵政を利用すると6元程度で返送することができる。これを利用して6元を支払い、12元の保険金をもらうというものだ。

それでもさまざまなプラットフォームを利用し、1日10個の商品を購入して返品をすれば、月に1800元(約3万8000円)になるため、ちょっとした小遣い稼ぎになる。

販売業者側が加入する返品保険ではさらに大掛かりな犯罪も行われている。湖南省郴州市公安は、返品保険を悪用し20万元以上(約420万円)を騙し取った王某を逮捕した。王某は4つのオンライン店舗を経営していたが、自分で作成した5つのアカウントを通じて、自分の店の商品を大量注文し、返品をしていた。実際には発送や返品などはせず、発送記録を偽造し、保険会社に請求をしていた。その商品数は3万個にも及び、保険会社の被害額は20万元以上にもなった。

 

アリババはAIで管理する返品保険を導入

アリババは、今年2024年9月から返品保険「退貨宝」を、自社のEC「天猫」「淘宝網」に導入をした。基本は通常の返品保険と同じで掛け金は業者が負担をする。ところが異なるのは、AIによる行動分析が行われることだ。返品を異常に繰り返す消費者に対しては返品保険の適用がされなくなる。

AIにより問題消費者として認定をされると、返品は自腹で行わなければならなくなる。消費者権益保護法では「返品の送料は消費者が負担をする」と規定されている。ただし「販売業社と消費者の間で特段の取り決めがある場合はこの限りではない」となっている。つまり、これまでは特段の取り決めにより、販売業社が負担をしていたり、保険が適用されていた。退貨宝が悪意のある消費者を排除しても、法的には問題がない。

むしろ、悪意のある消費者を排除し、必要があって返品をする人には保険金が支払われることになるので、返品問題は正常化されることになる。他のECプラットフォームでも同様のAIによる返品保険が普及していくことになると見られている。