スマホ決済「アリペイ」が、企業向けに従業員への給与振込サービスを無料で始める。これを利用すると、従業員は銀行口座がなくても暮らしていけるようになるため、銀行に与える影響は小さくないと支付百科が報じた。
銀行を変えたジャック・マーの「アリペイ」
2008年に、アリババの創業者ジャック・マーは「銀行が変わろうとしないのであれば、我々が変える」と宣言をして、自社のECサイト「タオバオ」内の通貨であった「アリペイ」を街に広げていった。その結果、アリペイは、今では日常消費の主流の決済手段となっている。
ジャック・マーの言葉通り、銀行は変わらざるを得なかった。その原動力となったのが、アリペイ内の余額宝(ユアバオ)という機能だ。これはアリペイの資金を入れておくと、年数%の利息がつくというもの。アリペイから簡単に利用ができる定期預金のようなもの。しかも、24時間いつでも、1元から出し入れ可能であるため、定期預金というよりは財布の奥のポケットの感覚だ。一時期は年7%近い利息がついたために、手軽な理財商品として人気になった。
アリペイが銀行に与えた「ナマズ効果」
この余額宝の実体はMMF。アリペイが資金をまとめて、銀行のMMFに投資をする。銀行は国債などに投資をして利益をあげてに還元、アリペイは、利益を差し引いて余額宝利用者に還元するという仕組みだ。
この余額宝人気が高まると、多くの人が銀行口座に入っている資金を余額宝に移し始め、銀行の普通預金口座の残高が減少に向かった。普通口座の利息は1%以下でしかないからだ。これは銀行から見ると、わずか1%以下のコストで調達できた資金が減り、アリペイが投資をするMMFから資金調達をしなければならないということだ。つまり、以前は1%以下で調達した資金を貸し出して、銀行は利益を得ていたが、余額宝以降は7、8%のコストで資金調達をしなければならなくなった。余額宝の人気が高まるとともに、銀行のビジネスは苦しくなっていった。
これにより、銀行の再編が始まり、生き残った銀行の顧客体験は大きく向上した。以前はお役所のような不親切ぶりで、ちょっとした申請にも数日かかっていたが、現在ではホテルのように親切で、多くの申請がスマホから即日完了できるようになっている。
この変化を、メディアは「ナマズ効果」と呼んでいる。小魚がいる水槽にナマズを入れると、小魚は食われまいとして活性化するという効果だ。ジャック・マーの宣言通り、銀行は確かに変わったと誰もが感じている。
銀行の最後の砦は「給与振込」
銀行の現在の拠り所は、企業の給与振込だ。現在でも、企業の多くが従業員の給料を銀行振込にしている。その手数料収入も大きいが、企業と法人契約ができ、貸付などの業務に展開できることや、従業員が銀行口座を作ってくれ、自動車ローンや住宅ローンを利用してくれることが大きい。給与振込を起点にして、法人と個人にさまざまなサービスを展開することで、銀行は生き延びている。
▲各銀行はロボットの導入を進めている。人を感知して、求めているサービス内容を尋ねたら、あとは画面にATMと同じ内容を表示し、処理するという単純なものだが、各銀行は人件費をいかに圧縮するかに知恵を絞っている。
給与振込を自動化する「発唄」サービス
しかし、アリペイがこの給与振込に手を伸ばし始めた。2019年5月から始まった「発唄」(ファーベイ)だ。スマホで従業員のアリペイ口座を登録して、支払う給与額のリストを作っておくと、ボタンひとつで給与の支払いが完了する。受け取り書も自動発行され、税務申告にも利用できる。しかも、重要なのは手数料は無料だということだ。
▲「発唄」サービスの画面。「社長のための無料の給与支払い助手」「ワンタップで多人数に資金を転送」「手数料は不要」などと、銀行から見ると恐ろしいフレーズが並んでいる。
現在は、零細企業や個人商店向けのサービス
ただし、現在1人の従業員に1日あたり1回5万元(約78万円)、1日合計で20万元(約310万円)までという制限がある。このため、月給制を採っている大企業ではこの制限に引っかかってしまうこともあるため、当面は零細企業や個人商店で使われていくものと見られている。
それにしても、もし給与振込がアリペイで完結するようになれば、普通の人にとって銀行口座はいらなくなる。今すぐ、銀行口座を解約するのはさまざまな不便が生まれるが、将来的には不要になるし、若い世代はそもそも銀行口座を作らなくなる可能性もある。
アリペイはなぜ給与振込サービスを無料にできるのか。発唄を利用してくれれば、個人のお金の入りと出のすべてを把握できるようになる。このビッグデータは、新小売などあらゆる小売業、金融業に利用することができる。アリペイはそこを狙っている。
▲「発唄」の利用ガイド。あらかじめ、社員の名簿を作っておき、それぞれの支払い金額を記入しておく。あとは、ワンタップで給与支払いができる。電子領収書も発行され、税務申告に利用できる。
銀行は再び変わらざるを得なくなる
メディアの評価もさまざまだ。銀行のビジネスに対する影響は甚大で、ジャック・マーの「銀行を変える」計画の画龍点睛だと評するメディアもあるが、一方で、アリペイが当面フォーカスしているのは零細企業、個人商店であり、銀行ビジネスに対する影響は小さく、むしろ最近増加してきているネット銀行のビジネスに対する影響が大きいと論じているメディアもある。しかし、銀行業界に再び「ナマズ効果」が起きることだけは確かだ。
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