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明日、vol. 106が発行になります。
今回は、二輪電動車と都市計画の関係についてご紹介します。
中国に行くと、不思議な乗り物が走っていることに気が付かれる方も多いかと思います。自転車のような乗り物ですが、ペダルを漕ぐわけではなく、電気の力で走っています。スピードは自転車並みでバイクほど早くありません。よく見ると、ペダルもついています。日本の電動自転車は、ペダルを漕いでアシストをしてくれるというのが一般的ですが、中国の電動自転車は電気で走ります。ペダルは、バッテリーが空になった時の非常用の感覚です。
最高時速は25km/hに制限されているため、遠くに行くことはできません。自転車と同じ感覚で、近所の買い物などに使うのが一般的です。運転免許は必要なく、都市によって異なりますが、10歳以下の子どもを後ろに乗せることもできます。非常に便利な乗り物で、市民の日常の足になっています。
他の国にもこのような電動自転車はないわけではありませんが、日本の場合は、ペダルがついていても原付自転車となるため、運転免許とナンバープレートの取得が必要になりますし、子どもであっても二人乗りはできません。原付の交通ルールを守らなければなりません。
非常に紛らわしいのですが、この電動自転車によく似た電動スクーターもあります。ペダルはありません。車体は自転車よりもしっかりとしていて、時速は50km/hまでに制限されています。正式には「電動軽便バイク」と呼ばれ、運転免許が必要となり、二人乗りはできません。
さらにその上の電動バイクもあります。こちらは燃料車のバイクの電気版ですので、時速の制限はなく(道路の速度規制に従う)バイクとまったく同じです。ヘルメットをかぶれば二人乗りもできます。
この電動自転車と電動スクーターの保有台数は、2020年末の時点で、約3.2億台になり、自動車の保有台数を上回り、中国人の生活の足となっています。
▲電動自転車、電動軽便バイク(電動スクーター)、電動バイクの違い。電動自転車は実際はペダルで漕ぐことはほとんどなく、電気で走行するが、免許が不要、二人乗りができるなど、自転車の利便性を兼ね備えている。
この電動自転車が広がったのは、面白いことに2003年のSARSの流行がきっかけになっています。日本の感染症予防の考え方は「三密回避」「マスク」「手洗い」という個人がどう行動するかが基本になっていますが、中国の場合は「移動距離の制限」「物流の制限」という社会の仕組みが基本になっています。
移動距離を短くすることで感染リスクを下げられるというのはもはや科学的な知見としても認められているようで、百度(バイドゥ)は、住民の移動距離のデータから、その地区がどの程度のクラスター発生率になるかを予測する機械学習モデル「C-Watcher」を開発しました。このC-Watcherは米国人工知能学会でも論文発表されています。「C-Watcher: A Framework for Early Detection of High-Risk Neighborhoods Ahead of COVID-19 Outbreak」(https://arxiv.org/abs/2012.12169)です。
この論文によると、病院、学校、小売店、飲食店などが近くにあり、住民の累積移動距離が短い地区ほどクラスターの発生する確率が低くなります。感染が拡大した場合、市民の行動も変わるので、直近のクラスター発生予測に使えるとは思いえませんが、感染に強い街づくりをする上で大きな参考になりそうです。
日本では、鉄道やバスは、なぜか感染が起こらない安全な場所ということになっていますが、中国では多くの人がバスや地下鉄は危ないと考えます。そのため、感染が拡大をすると、多くの人が公共交通をできるだけ使わないようにしようとします。
SARSの場合は、感染者数は少なかったものの、致死率が高かったため、多くの人が過剰反応をしました。そこで注目されたのが、個人で移動ができる自転車と自動車です。しかし、当時はまだ自動車は誰でも買えるような製品ではなく、自転車では行ける範囲が限定される。そこで電動自転車に注目が集まりました。
翌2004年には、電動自転車が道路交通法に規定され、ガイドラインが定められ、自転車よりも便利な移動ツールとして知られるようになりました。製造メーカーも一気に増え、江蘇省、浙江省、天津市の3カ所が電気自動車の産地となります。
10年間、普及が進み、2014年に初めて販売量が前年割れを起こし、市場の成長が止まりましたが、ここからリチウムイオン電池を採用した新型の電動自転車が登場をしてきます。以前の鉛蓄電池に比べてエネルギー密度が高く、バッテリーも軽いため、デザインもよくなりました。さらに、より速度が出せる電動スクーターなども登場し、再び保有台数が伸び始めています。
このような電動自転車が普及をするのは、生活圏がコンパクトになるように設計されているからです。多くの都市が拡大をしていますが、野放図に拡大するのではなく、ブロックを組み合わせるように拡大をしていこうとしています。わかりやすいのは各都市にある新開区で、工場やオフィスビルが中心ですが、同時に住宅も建設され、病院、学校、ショッピングモールなども建設されます。その新開区に勤め、住む人はその新開区の中で生活のほとんどが送れるように設計されています。
このような設計になるのは、各都市が通勤距離を5km以内にするという目標を持っているからです。5kmというのは自転車でじゅうぶん通勤できる距離であり、万が一何かあっても徒歩でも行ける距離です。この5km以内の通勤は「幸福通勤」と呼ばれ、理想的な職場と住居の関係だとされています。
テンセントは2026年に完成予定のネットシティを現在、深セン市に建設中です。用地面積は80.9万平米(東京ドーム17個分)というもので、テンセント関連会社のオフィスだけでなく住宅や学校などの生活関連施設も建設されます。ひとつの街をつくってしまおうというものです。
このネット都市の設計をおこなっているのは、米国の設計事務所NBBJで、過去にグーグルやアマゾン、サムスンの社屋の設計を手掛けてきました。NBBJの設計の基本的な考え方は、人の行動に注目をしたデータ駆動設計です。
従来の都市で最も重視されたのは物流の効率です。都市は生活に必要な食料などを生産せずに、大量に消費だけをします。そのため、物流を効率化して、常に生活必需品を送り込んでいかないと都市生活を維持することができません。そのため、道路は広く、直線的に設計され、それに合わせて建築物が設計されていました。
しかし、現在はテクノロジーが発達して、物流そのものの効率もあがったため、都市構造を以前ほど物流効率に適合させる必要性は薄れてきました。そこで、NBBJは、制約条件のない場合に、人がどのような行動を取るのかを調査をして、人の自然な動きを中心にして建築を設計します。これをデータ駆動設計と呼んでいます。往々にして、曲線の多い、有機的なデザインの都市景観になります。
これにより、ネットシティは原則徒歩移動で暮らす街になるそうです。地上は道路と鉄道、地下は地下鉄になり、人は屋外の2階部分を歩いて移動します。当然ながらテレワークなども併用され、幸福通勤が実現できるようです。
各都市では、この幸福通勤の他、45分以内通勤をひとつの目標数値としていて、全員が45分以内で通勤ができる都市設計を目指しています。また、60分以上の通勤は「極端通勤」と呼ばれ0にすることも目標にされています。
このように、オフィスと住居を接近させ、そこに生活関連施設を追加していくコンパクトシティを大都市の中で実現しようとしています。もちろん、生活の幸福度をあげるための政策ですが、都市の公共交通が限界に達している問題もあります。地下鉄やバスはすでに限界でこれ以上増やすのは難しい段階にきています。そのため、公共交通を使わない人の割合を少しでも増やそうとしているのです。
このような都市計画がある程度進んでいるために、電動自転車のような短距離移動ツールが利便性が高いと感じられているようになり、普及をするようになっています。
では、このような都市計画は現在どの程度進んでいるのでしょうか。今回は、電動自転車から見える中国の都市計画をご紹介します。
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