市民から、自転車レーンが危ないという声があがっている。遅い人力の自転車、速いロードバイク、電動自転車が混在しているからだ。解決策はさまざま提案されているが、決め手に欠き、改善が進まない状態になっていると北京日報が報じた。
安全なはずの自転車レーンが危険に
中国の道路は3つのレーンにわかれている。ひとつは車道でもうひとつは歩道だ。しかし、車道と歩道の間に「非機動車道」というレーンが設けられている。ここはもともと自転車のためのレーンだった。非機動車というのはエンジンがついてなく人力で進む車両のことだ。自転車は歩道を通行した場合に、歩行者にとって大きな脅威となる。一方、車道を通行した場合は自動車に脅威を感じることになる。そのため、長年中国は大通りで車幅に余裕があれば、このような非機動車道を設けてうまく交通の安全を確保してきた。
ところが、この非機動車道が現在は危険なレーンとなり、事故も起きるようになっている。
自転車よりも速い自走式電動自転車
ひとつは電動車と呼ばれる電動自転車の存在だ。自転車といっても、電力で前進する。一応、ペダルはついていて、バッテリーがなくなればペダルを漕いで進める仕様にはなっているが、実際にそのような使い方をすることは稀で、実質的に低速の電動バイクと変わらない。車両を登録してナンバーを取得する必要はあるが、免許がなくても乗ることができるため、多くの人に利用されている。
法令により、最高時速は25kmに制限をされているが、改造をして速度が出せるようにしたり、法令の目をくぐり抜けて、25km以上出せるようにしている製品もある。ある調査によると、電動車の70%が設計速度である時速25kmよりも20%以上速く移動している。こうなると、人力の自転車の速度よりも40%から50%は速い速度で移動することになり、速度差が大きいために事故が起きるようになっている。
また、電動車は実質的な低速電動バイクであり、車体も重くなる傾向にある。そのため、自転車と接触した場合に、自転車側の受ける被害も大きくなる傾向がある。
エコロジー志向でロードバイクも増加
もうひとつの問題が、近年のエコロジー志向で、ロードバイクが流行し始めていることだ。性能の高いロードバイクでは、人力であっても、速度が乗れば時速40km以上の速度が出る。これは一般の自転車の2倍以上で、やはり自転車との接触事故が起きている。
さらに大きな問題が、シェアリング自転車による観光客だ。都市観光では、シェアリング自転車を利用して、都市内を巡るというスタイルがすっかり定着をした。このような観光客は、景色を見ながら移動をするため、速度は遅い。それどころか、急に止まってスマートフォンを取り出して写真を撮り始めるため、後ろからきた自転車や電動車が衝突するという事故が起きている。
非機動車道は、現在「観光の低速自転車」「通常の自転車」「電動車」「ロードバイク」という4つの混在する車両が通行するレーンになっていて、市民の間からは以前から危険性が指摘をされていた。
遅い自転車と速い自転車でトラブルも
朝7時半、北京市民の段さんは、4歳の息子を後ろに乗せて幼稚園に送るために、西四北大街を北に向かって走っていた。子どもを後ろのチャイルドシートに乗せているため、ゆっくりと走行をしていた。そのため、すぐに後ろからクラクションを鳴らされる。そのたびに、左右のどちらに寄って道を譲らなければならないが、自転車では後ろの様子が見えないために、いつも怖い思いをしている。どちらかに寄ろうとすると、別の自転車が猛スピードで追い越しをしようとして、接触しかけることも日常茶飯事だ。
午後4時半、小学校が放課後になると、多くの親が自転車で子どもを迎えにきて、自転車軍団が近隣の非機動車道を占領することがある。親たちは、速い二輪車に抜かれることが危険であることがわかっているため、非機動車道の道幅いっぱいに広がり、後ろからくる速い二輪車をブロックしてしまう。確かに安全は確保できるが、後ろから追い抜きたい二輪車はクラクションを鳴らしたり、怒号を浴びせかけたりと、騒がしい状態になる。交通事故は起きなくても、感情的になった人たちが口論になることは珍しくない。
歩道寄りは走りたくない人が多い
中国は右側通行であるため、遅い二輪車は歩道に近い右寄りを通行し、速い二輪車は車道に近い左寄りを通行するようにすれば、ある程度、棲み分けができるのだが、なぜか遅い自転車は車道寄りの左側を通りたがる。歩道寄りには違法に駐輪している自転車やバイクがあったり、路地から出てくる二輪車がいたりして、運転に注意を払わなければならない。ゆっくり移動する人ほど、安心して通行ができる左側を通りたがる。しかも、このような人たちは、左側で急に止まって、写真を撮ったり、収納から物を取り出したりするようなことをする。
低速レーンと高速レーンの分離が合理的な解決策だが
マナーだけで問題が解決できないのであれば、非機動車道を低速レーンと高速レーンに分離してしまうのが最も現実的な解決になる。2017年、平安大街では、非機動車道を複数レーン化した。通行区分の明確なルールはなく、自分で低速か高速かを選んで走行する仕組みだったが、効果は大きく、非機動車道の混乱はほぼ解決された。
しかし、この複数レーン化は現在撤去されてしまっている。環境改善や自動車の交通事故防止のために、植栽を植えた中央分離帯を設置することになり、道路幅が足りなくなってしまい、複数の非機動車道はキャンセルされ、以前と同じような1レーンに戻ってしまったのだ。
複数レーン化が効果が大きいことはわかっているが、そもそも道路幅に相当な余裕がなければ設置をすることができない。多くの場合、車道を1レーン削ることになるために、交通渋滞に大きな影響を与えることになる。
解決策が提案されるも決定的な解決策はなし
交通発展政策研究所(ITDP)の東アジア地区の劉岱宗代表は、北京日報の取材に応えた。「混合通行の安全を確保するには、まず電動車の軽量化を考えるべきだと思います」。電動車は、消費者から「より長く走行でき、よりしっかりした車両を」というニーズに応え、大容量バッテリーを搭載し、ボディの重量も重くなる傾向にある。しかし、重い車両と軽い車両が接触をして、その重量差が大きければ深刻な事故を招くことになる。まずは、重量などにも規制をかけ、深刻な事故を予防する必要があるという。
清華大学交通研究所の楊新苗副所長は、勾配をつけた速度制限を設定すべきだと主張する。交差点など道路がクロスする近辺では、低速の速度制限をかけ、安全を確保すべきだと提案している。法令で定めるだけでなく、道路上にバンプ(突起)などを設置することで実現できるという。
劉岱宗代表は、最も優れている方法は、自転車に乗る市民のいい習慣を養うことだという。低速車は歩道寄りを走り、高速車は車道寄りを走行する。この習慣を根付かせるだけで、非機動車道の通行はかなりスムースになるという。
しかし、いずれの提案も効果は期待できるものの、現実には実行をし定着をするのは簡単ではない。非機動車道の問題は解決ができない交通問題として、北京市を悩ませ続けている。