大手テック企業の広告収入が2021年Q3以降、大減速をしている。マクロ経済環境などの影響だと各社の財務報告書は説明をしているが、専門家の間では別の見方が広まり始めている。それはショートムービーなどの商品購入に直結するコンテンツが伸びており、ネット広告の多くが不要になっているのではないかという見方だと鈦媒体が報じた。
各社のネット広告収入がQ3に大幅減速
大手テック企業のネット広告収入が大幅減速をしている。中国テックジャイアント大手3社「BAT」の2021年Q3までの広告収入の前年同時期の伸びは、百度(バイドゥ)が27%、18%、6%。騰訊(タンシュン、テンセント)が23%、23%、5%。アリババが40%、15%、3%。いずれもQ3に突如大幅失速をしている。ネット広告は、ネット産業のバロメーターとも言われているだけに、関係者に衝撃が走っている。
各社の財務報告書では、この失速の理由として「マクロ経済環境」と「停滞業界」の2つを挙げている。
社会消費の急減速による影響は限定的
確かにマクロ経済は悪化をしている。国家統計局の社会消費品小売統計(個人消費に相当)を見ると、3月、4月は前年比34.2%、17.7%とコロナ禍からの強い回復を示したが、7月に入って10%を切る水準に失速。8月には2.5%、11月には3.9%という中国としては異例の低い成長率にとどまった。
テンセントの主席戦略官ジェームズ・マイケルは鈦媒体の取材に応えた。「ネット広告はマクロ経済環境の影響を強く受けます。各企業の広告予算は絞られ始めています。これにより、低価格の広告にシフトをする企業もありましたが、広告収入への影響は比較的緩やかなものでした」。
旅行、教育、ゲームの停滞が広告業界に打撃を与える
停滞業界は、2種類ある。ひとつはコロナ禍による旅行業だ。中国はコロナ禍から脱し、大規模な感染拡大は起きていないものの、散発的なクラスターが発生し、さらには西安市では1日に100人以上の新規陽性者が出る事態となり、事実上のロックダウンに入り、ゼロコロナ政策が綻び始めている。中国では、長距離移動が感染リスクを高めるという認識があり、各都市とも省外への移動を控えるように呼びかけ、すでに中国の新年にあたる1月の春節も帰省や旅行を控えるように呼びかけられた。このような状況下で、旅行業は厳しい状況に追い込まれている。
もうひとつが教育業界だ。子どもたちの宿題、塾、オンライン学習塾が過度な負担を与えているとして、学校の宿題量を制限し、補習塾を禁止する双減政策が実行された。これにより、塾、オンライン学習サービスは壊滅状態となった。子どもたちに生まれた時間を、芸術やスポーツ、科学といった情操教育に向かわせるため、スマホゲームも平日は禁止となり、ゲーム業界も大きな痛手を受けている。
旅行、教育、ゲームは、今まで広告を多く出向する業界であったこともあり、広告収入に大きな影響を与えている。
また、7月には、工信部は、ネット広告のポップアップ広告(新たなウィンドウが勝手に開いて表示される広告)を禁止した。ポップアップ広告は、利用者にとっては迷惑な広告だが、効果は高い。これが禁止をされたことで、広告出稿を見合わせた企業も多かった。
広告はコンテンツと融合して消滅する?
しかし、ネット広告が失速した理由は、これ以外にも指摘をされている。それは広告が不要になるのではないかというネット広告企業にとっては考えたくもない大きな変化だ。
従来のネット広告は、検索広告(テキスト)、バナー広告(写真)、ポップアップ広告(写真、ムービー)が主なものだ。このような広告をタップすると、淘宝網(タオバオ)や天猫(Tmall)のログイン画面が現れ、ログインをすると、商品の詳細ページが現れる。消費者は、そこで商品の詳細をテキストと写真で見極め、購入するかどうかを決める。
しかし、現在では、別のプロモーション方法が生まれている。ショートムービーを中国版TikTok「抖音」(ドウイン)や「快手」(クワイショウ)に流すという方法だ。ショートムービーの中で、商品の特性を示すことができ、視聴者の購買欲を刺激することができる。気に入ったら、ショートムービーをタップすると、淘宝網などの商品詳細ページがポップアップされ、その場で購入まですることができる。
ショートムービープラットフォームに数%の送客手数料を支払う必要があるが、ショートムービーへの投稿料は無料だ。ショートムービーの制作料が必要になるが、スマートフォンでじゅうぶん撮影と編集ができ、ネット広告の出稿料に比べれば、広告コストは大きく下がる。女性向け服飾や日用雑貨、電子機器などではコンバージョンが高く、費用対効果は大きくあがる。
つまり、広告出稿をやめて、自社制作のショートムービープロモーションにシフトをしている企業がかなりあると見られている。
ショートムービー+SNS+ECで、広告は不要になる
もちろん、広告業がなくなってしまうことはあり得ない。ブランドイメージを認知させるためのテレビ広告、商品の認知力を高めるためのネット広告は今後も必要とされる。しかし、商品に直結をしてコンバージョンを得るための広告は、もはやネット広告よりもショートムービーを配信する方が効率がよくなっている。
テンセントは、このような変化に敏感に反応をしている。SNS「WeChat」ではすでにショートムービーに対応した視頻号(WeChatチャネルズ)の機能を搭載している。また、販売業者がミニプログラムでEC出店できる機能も整え始めている。つまり、ショートムービーから商品に直結させる環境をWeChat内だけで整え、さらにはSNSで拡散させることで、「抖音」や「快手」の小売機能を上回ろうとしている。
いずれにしても、従来型のネット広告はそろそろ時代の役割を終える時期に入っているのかもしれない。だとすると、テック大手の広告収入の失速は一時的なものではなく、今後も続くトレンドとなる。ネット広告の世界が大きく変わることになるかもしれない。