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ネット詐欺の被害者は、20代が6割以上。コロナ禍以降、若者がねらわれている副業詐欺

中国信息通信研究院(CAICT)が衝撃的なレポート「新形勢下での電信ネット詐欺管理報告」を公開した。これによると、2020年にネット詐欺にあった被害者を年代別に見ると、90后(90年代生まれ、20代)が63.7%となり、圧倒的に多い結果となった。なぜ、若者が騙されるのか。詐欺の手口がコロナ禍により大きく変わったからだと新浪科技が報じた。

 

ネット詐欺被害者の中心世代は20代

ネット詐欺と言えば、従来は中高年が被害の中心だった。架空の投資話を持ちかけられ、送金をした後に連絡が取れなくなるというのが典型的な手口だった。しかし、CAICTの2020年のネット詐欺に関する報告書では、ネット詐欺の被害者を年齢別に整理すると、90后が63.7%と突出して多いという結果になり、多くの人の関心を集めている。

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▲2020年の詐欺被害件数を年代別に整理すると、90后(20代)が圧倒的に多かった。コロナ禍で、詐欺のターゲットが明らかに変わった。

 

人気配信主が詐欺被害を告白

今年2021年7月、ビリビリで190万人のファンを獲得している人気配信主「波桑喫遍世界」が、ネット詐欺に会い、25万元(約450万円)を騙し取られたと、動画で告白をして大きな話題になった。

グルメと海外バックパック旅行に関する動画を配信している波桑のところに、女性からの電話がかかってきた。彼女は中国銀行監督管理委員会の職員だと名乗り、波桑の銀行口座が凍結をされる危険性があるので、凍結処置がされる前に資金を移動しておくことをお勧めするという内容のものだった。

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▲ビリビリの人気配信主「波桑」が、ネット詐欺に遭ったことを配信で告白した。ファンだと言われ、すっかり信じてしまったという。

 

「あなたのファンです」の一言で信じてしまった

波桑はすぐに「これは詐欺ではないか」と思ったという。ネット詐欺にありがちな典型的な手口だからだ。しかし、その職員は、波桑の本当の名前とビリビリ配信以外の本当の職業を知っていて、なおかつビリビリの配信主であることも知っていて「ファンだ」と言う。「最近、配信が少ないので寂しく思っていました」とまで言う。これで波桑は信じてしまった。

さらに、中国銀監督会の正式書類と称する画像をスマートフォンに送ってきて、そこに記載された口座にまず2万元(約36万円)を振り込んでほしいという。それでその口座が有効となり、全財産を送金すれば安全が確保できるという。波桑は言われるままに2万元を送金してしまった。

30分後に中年男性から電話があり、すっかり信じ込んでしまっている波桑は、言われるままに合計25万元を送金してしまった。しかし、最初の口座とは異なる口座へ送金しろという指示であったために、何かおかしいと感じ、派出所に行って相談すると、警官は典型的な手口だと説明したが、もはや犯人たちに連絡をする方法はなく、公安はその電話の発信地がミャンマーカンボジアのいずれかであるというとこまで突き止めたが、それ以上の特定をすることはできなかった。

波桑は、注意喚起のために、この恥ずかしい体験をビリビリで公開したという。

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▲詐欺犯が送ってきた銀監会の正式書類と称する画像。画像なのでいくらでも偽造はできるのだが、一度、信じ込んでしまった波桑はまったく疑いを持たなかった。

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▲派出所に被害相談をしにいったことを報告する波桑。詐欺犯が海外にいることまでは突き止めてくれたものの、お金が戻ってくることは期待できないと説明されたという。

 

中高年の投資詐欺がコロナ禍以前の手口

このように若い世代が騙されるようになったのは、コロナ禍による変化が大きい。コロナ化以前は、金融絡みの詐欺が多く、騙されるのはある程度お金を持っている中高年が多くなる。架空の投資話あるいは低金利の融資話を持ちかけられ、送金をすると連絡が取れなくなるというものだ。

実行犯たちは、とにかく広く電話をかけて、脈がある被害者を探し出すという方法をとっていた。そのために、AIロボットも活用されている。人ではなく、PCが電話をかけ、音声合成が融資話を持ちかける。相手の返答を音声認識自然言語解析して理解し、質問にも答えるAI音声チャットボットを使う。そして、脈がありそうだと判断されると、途中から人の詐欺師が代わり、仕上げにかかる。

 

コロナ以降は「シナリオ詐欺」「若者」が中心

これがコロナ後は、シナリオを主体とした方式に変わっていった。犯人たちは、やみくもに電話をかけて、被害者を探し出すのではなく、ECなどから流出をしている個人情報に基づいて電話をかけてくる。このような流出した個人情報は、統合をしているグループが存在し、その名簿はブラックマーケットで販売をされている。これには電話番号だけでなく、姓名、住所、職業、身分証番号、家族、ECなどの利用履歴などが統合されている。

このわかっている個人情報から、260種類以上もあると言われる詐欺シナリオのどれを適用するか考え、ピンポイントで詐欺を仕掛けてくる。本名や住所などの個人情報を知っているため、被害者は信じてしまうのだ。たとえば、「あなたが○月○日にEC○○でお買い求めになった○○という商品に問題が発覚したため、支払い代金をご返却します」などと顧客サポートセンターだと名乗る電話がかかってくれば多くの人が信じてしまう。

さらに、ここにもAIが活用されている。2021年2月に広州市で検挙された詐欺集団は、エンジニアが5人もいて、3人は大学院卒、2人は学部卒というものだった。判明している個人情報を入力すると、どの詐欺シナリオであれば最も騙されやすいかを示す機械学習モデルを開発し、活用していた。

 

コロナ禍で生活に困っている若者に副業詐欺を仕掛ける

もうひとつの変化が、コロナ禍により、若者の間に生活に困窮したり、経済的な不安を感じている人が急増したことだ。そのため、副業詐欺にひっかってしまう。有利な副業を紹介され、登録料などを騙し取られるというものだ。

しかも、まともな副業ではなく、違法とは言えないまでも怪しい副業に誘われ、騙されてしまう傾向がある。そもそもが怪しい副業なので、多少おかしなところがあっても不思議に思わない。さらに、騙されても公安に被害届を出しづらいため発覚する可能性が小さいということから被害が広がっている。

たとえば、EC「京東」の白条詐欺が横行をしている。白条というのは、京東が提供しているサービスで、後払いで商品が購入できるというものだ。この仕組みを使って、京東で商品を購入し、指定された住所に配送するように指定をすれば、購入額の8%を手数料として引いて、92%を送金してくれるというものだ。お金に困った被害者が、現金がすぐにでもほしいという心理を利用している。被害者は、すぐに現金を手に入れて、後で白条の分割払いで払っていけばいいと考え、手軽な消費者金融の感覚で利用してしまう。

もちろん、商品を発送しても現金は送られてこず、連絡は取れなくなり、白条の支払いだけが残るというもの。

 

女性を対象にした悪質な詐欺も登場

さらに女性を対象とした悪質な詐欺も横行している。男性とネットのビデオ通話をするだけで高給がもらえるという出会い系副業詐欺だ。専用のアプリなども用意されていて、まずは顔写真の登録が求められる。男性会員に公開される写真にはモザイクがかけられるので、顔バレをする心配はない。ただし、男性はそのビデオ通話サービスにお色気を求めているので、上半身は下着姿にするか、裸の状態で写真を撮るのが望ましいと説明される。撮影されるのは、顔が中心であり、肩のあたりまでしか写らないが、下着姿であることが想像できる写真の方が、男性が通話を申し込んでくる確率が高いのだと説明される。

指示に従って、専用アプリで撮影をすると、確かに顔から肩にかけてしか撮影されない。しかし、内部的には上半身がほぼそのまま撮影されている。

登録をして写真を公開しても、そもそもがダミーサービスなので、男性からの通話など入ってこない。文句を言ったり、退会をすると言うと、本人の上半身が露わになった写真が送られてきて、退会にあたってこの写真を抹消する高額な手数料がかかると言われる。本名や身分証番号なども登録時に入力をしているため、支払わない場合は、暗に職場やSNSにその写真が送りつけられることがほのめかされる。公安に相談することもためらわれ、借金をして支払ってしまうケースも多いのだという。

 

コロナ禍で経済的に困窮する若者たち

この2つの詐欺は、前者はECの規約違反であり、後者は違法すれすれのサービスであり、高額の抹消手続き手数料を請求をするのは明らかな犯罪行為だ。公安は、このような怪しい副業話のほとんどは何らかの詐欺であると考えるべきだと注意喚起をしている。しかし、現在のところ、防止する有効な手段は見つからないまま、新しい詐欺のシナリオが日々開発されている。

このような詐欺が横行するということは、統計に現れていないものの、20代のコロナ禍による経済的打撃が深刻であるということ示している。表面的には経済回復をした中国だが、内実はまだまだ問題を抱えている。