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交通渋滞を交通信号を制御することで解消。都市の頭脳となる城市大脳が進めるスマートシティー構想

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明日、vol. 101が発行になります。

 

今回は、城市大脳(チャンシーダーナオ、シティブレイン)についてご紹介します。

城市大脳は、ひとつのプロダクトではなく、アリババが運営するアリクラウド上で動く公共向けのSaaS群の総称です。2016年にアリババの本拠地である浙江省杭州市政府が導入をし、5年が経ち、現在30程度の都市が城市大脳を導入しています。

どのようなアプリケーションがあるのかは、都市によって異なります。その都市が抱えている課題を解決するためのアプリケーションが開発され、その都市に提供されるためです。とは言え、交通渋滞や治安など都市が抱える課題には共通した部分も多いため、ある都市向けに開発されたアプリケーションが横展開をされるため、共通の機能もあります。

また、少し混乱をしやすいのが、城市大脳はアリババのプロダクトの固有名詞ではなく(アリババは正式にはET城市大脳と呼んでいる。ETとはEmerging Technologyの略)、百度バイドゥ)や騰訊(タンシュン、テンセント)も同様のサービスを提供しています。百度の場合は「百度城市大脳」、テンセントの場合は「WeCity未来城市」と呼んでいます。今回は、アリババの城市大脳についてご紹介をします。

 

城市大脳の基本機能は、市中で把握できるさまざまなデータを収集して、クラウドコンピューティングにより処理をし、それを返すことにより、さまざまな制御を行うというものです。

最初に杭州市に導入された城市大脳の大きなテーマが交通渋滞の解消でした。杭州市というのは、以前は、中国の中でも有数の渋滞都市だったのです。杭州市は、風光明媚な西湖が中心にあって、東側に旧市街、北側に新市街が広がっています。南と西はほとんど山になってしまいます。そのため、旧市街と新市街を行き来して最短距離をとってしまうと、必ず西湖の周辺道路に出てしまう構造になっています。このため、西湖の周辺道路やそれに並行する道路が大渋滞をします。大渋滞というよりも、駐車場になってしまうという表現の方が適切なほど、ぴたりと動かなくなってしまうのです。

杭州市に地下鉄が開通するのは2012年のことで、それ以前はほんとうに移動に困る都市でした。移動手段がバスかタクシーしかないのですが、街中が渋滞で、中心市街では歩いた方が早いほどです。当時は、タクシーに乗ると「時間と距離とどちらを好むか?」と尋ねられることもよくありました。タクシーの運転手は、どこが渋滞をしているのかをよく知っていて、避ける道を知っているのですが、それが往々にして、西湖を逆回りに進むようなかなりの大回りになってしまうのです。タクシー料金も倍以上になりますが、渋滞の中に入るよりはよっぽどマシなのです。杭州市は車によって窒息しかかっているとまで言う人もいました。

 

それが2018年頃には、以前の渋滞都市ではなくなっていました。西湖の周辺道路ですら、車が流れるようになったのです。城市大脳のおかげでした。

杭州市では、渋滞が以前から大きな問題となっていたため、市内の主要箇所に交通監視カメラの設置が進んでいました。これを交通センターで監視をして、渋滞が起きている交差点に警察官を派遣して、手信号で交通の流れを改善していきます。しかし、それでは焼け石に水で、渋滞の解消にはほとんど役に立ちません。

そこで、城市大脳は交通監視カメラの映像を画像解析し、自動車を認識するAIモデルを組み込むことで、自動車の通行台数を把握できるようにしました。さらに、これを地図上にマッピングしていき、どの道路にどのくらいの車両が通行をしているのかを示すリアルタイムモデルを構築したのです。

これで市内の車両通行の現状が把握できるようになりました。さらに、各交通信号をネットワーク化し、リモートで明滅時間を変えられるようにしました。交通状況に合わせて、交差点の交通信号を制御することで、車の流れを最適化し、交通渋滞を解消しようというものです。

これにより、アリババの高徳地図が毎年発表している渋滞都市ランキングで、2014年は全国2位の渋滞都市だったものが、2019年には全国57位まで改善することに成功したのです。

 

このような交通渋滞問題は、多くの都市が抱えているため、城市大脳を導入している多くの都市で、同様の手法が横展開されています。しかし、城市大脳は冒頭ご説明したように、アリクラウド上のアプリケーションのうち公共向けのものを指すので、例えば、北京市では大気汚染の発生源をリアルタイムで把握をして、交通規制や工場の操業規制、あるいは風向きに応じた対策指示を出すようなシステムが開発されています。

また、上海市では水道供給に城市大脳が利用されています。水道の供給システムの要所に設置された流量センサーのデータを読み取り、それを機械学習で水量を自動調整することで、供給システムの水圧を一定範囲に抑えることで、貴重な水資源を節約することができ、配水管への負担も減るため、故障、事故が起こりづらくなります。

また、警察、救急、消防などの緊急車両が現場に向かうためのルートを自動検索し、同時にそのルート上を「緑の波」(緊急車両の前方の信号を次々と青信号にしていく)することにより、現場到着時間を短縮し、治安や防災に役立てようという試みもあります。

また、小さな機能ですが、意外に市民に好評だったのが「先離后付」方式の公共駐車場です。市の中心部にある駐車場の監視カメラ映像を画像解析することで、何台の空きがあるかを把握することができます。この駐車場の空き情報をアプリや、路上の電光掲示板に表示をします。駐車場の案内が空き台数情報とともに表示されるのです。そして、駐車をし、ナンバー読み取りが行われ、出る時はそのまま出ると、ナンバーに紐づけられたスマホ決済から駐車料金が自動的に引き落とされるというものです。

市の中心部では、駐車場を探すためにぐるぐると巡回する車がけっこういて、しかも止まったり、走ったり、急に右左折をしたりという挙動をし、これが渋滞や事故の原因にもなっています。このような車がいなくなり、スムースな流れをつくり出すことにもなり、利用者にとっては空いている駐車場がすぐに見つかるため、無駄な時間を使うこともなくなったと好評なのです。最初に始めたのは杭州市ですが、おそらく他の都市にも急速に普及をしていくことになるでしょう。

 

城市大脳は、このようにクラウドを大脳に見立て、市内に設置されたIoTセンサーを感覚神経、実行する命令系統を運動神経に見立てたシステムです。アリババ以外にも、百度やテンセントなども同様の仕組みを提供し、都市によっては独自開発を進めているところもあります。このような総称の「城市大脳」の導入を進めている/計画している都市は500以上にものぼるそうです。

そしてこのような城市大脳を導入した都市は「智慧城市」(スマートシティー)を称することになります。中国では、今、このスマートシティへ変貌していくプロセスが進行中です。

今回は、そのスマートシティーの根幹システムともなる城市大脳についてご紹介します。

 

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