中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

従来の5倍の検査効率。高鉄、地下鉄などの安全検査で導入が進むテラヘルツ波利用のボディースキャナー

中国では至るところで安全検査が行われるが、人の渋滞が発生することや、コロナ禍ではスタッフが接近することが問題になっていた。そこで、従来の5倍の検査効率を持つテラヘルツ波利用のボディースキャナーの導入が進んでいると霹靂火科技が報じた。

 

地下鉄でも安全検査が行われる中国

中国ではいたるところで手荷物検査がある。バッグ類はベルトコンベア式のX線スキャナーに入れ、本人はボディースキャナーを通り抜ける。日本の空港で行われる保安検査とほぼ同じだ。これが中国版新幹線「高鉄」、長距離列車、公共施設はもちろん、地下鉄でも行われている。改札に行く前に安全検査を受けなければならない。

ルールであり、地下鉄内の安全を確保するために多くの人が受け入れているが、やはり面倒には感じているようだ。特に朝夕のラッシュ時には安全検査による渋滞が起きる。これがイヤで、安全検査のない路線バスを利用する人も多い。

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▲博微太赫兹信息が開発したテラヘルツ波を利用したボディースキャナー。人は通り抜けるだけで安全検査が完了する。従来の5倍の人数を検査できる。

 

安全検査はソーシャルディスタンスが保てない

2020年のコロナ禍でこの安全検査が議論となった。安全検査により、持ち込み不可の物体と疑われるものが発見された場合は、スタッフが荷物を開けさせたり、ハンディ検査器で体を検査することがある。この時、ソーシャルディスタンスより近い距離になり、さらに「腕を上げてください」「ポケットの中身を見せてください」という会話をするため、感染リスクがきわめて高い行為なのではないかというものだ。

 

注目されたテラヘルツ安全検査装置

この議論が機になって、テラヘルツ安全検査装置の導入が進んだ。テラヘルツ波は、電波と光の間の周波数帯(0.1から10テラヘルツ)の電磁波。光のように直進性があり、電波のように透過性がある。持ち物検査には非常に都合のいい性質を持っているが、適切なテラヘルツ波検出器の開発が難しく、工業製品の異物検査などの小規模な利用にとどまっていた。

中国では、国のセキュリティ施策もあり、早くからテラヘルツを公共安全検査に利用する研究開発が進み、2016年のG20杭州サミットで初のテラヘルツ安全検査装置が使用され、それ以来、商用化が進んでいた。

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▲管理画面。遺物を持っている場合は、赤く強調表示される。

 

従来型の5倍のボディースキャンが可能

最も大きなメリットは、人は安全圏装置の中で立ち止まる必要はなく、普通の速度で歩いて通り抜ければいいということだ。従来のゲート式では1人ずつ通り抜ける方式で、1時間に300人程度が検査できていた。一方、テラヘルツ検査装置では、連続して通り抜けることができるため、1時間に1500人が検査できる。これで安全検査による渋滞が大きく軽減されることになる。

また、同様に検査人数を上げるために、米国などではX線を照射するボディースキャナーが導入されているケースもあるが、人体への放射線の影響を懸念する人もいる。テラヘルツ波X線よりもはるかに光に近い領域の電磁波なので、このような不安もない。

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▲警備員が立っているところから入り、人が出てきているところから外へ出る。通り抜けるだけでよく、横並びにならなければ一緒に通ることができるため、検査効率が大幅に向上した。

 

主要都市の地下鉄、高鉄駅に導入が進むテラヘルツ

技術開発は、国営企業の中国電子科技集団(CETC)の第38研究所、第50研究所が中心となって行い、系列会社の博微太赫兹信息科技(ブレインウェア・テラヘルツ・インフォーメーション・テクノロジー)が製造を行なっている。

すでに西安昆明などの空港、北京、広州、上海などの地下鉄、高鉄駅、公共施設や大規模イベントなどに導入されている。

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安徽省合肥市地下鉄で実際に運用されている例。荷物をX線検査きのベルトコンベアに乗せ、自分はボディースキャナーを通り抜ける。