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コロナ禍で避妊具の需要は増えるのか減るのか。増産に賭けた避妊具メーカーの末路

コロナ禍が始まり、外出が抑制されると、避妊具メーカーは需要が伸びると見て、増産体制をとった。しかし、実際の需要はむしろ減少をして、多くが医療用グローブの生産に転換をしたと南方週末が報じた。

 

コロナ禍で需要増が期待された避妊具

コロナ禍により、多くの商品、サービスの需要動向が突如として変わり、多くの企業が振り回されることになった。

2020年4月、避妊具の業界でも大きな変化が起きた。毎年55億個のゴム製避妊具を生産するマレーシアのkarex(https://www.karex.com.my)が、新型コロナの感染拡大により生産を停止した。世界最大の消費国である中国の避妊具メーカーは思わぬ幸運に湧いた。マスクや消毒薬だけでなく、避妊具の不足が起きることは明らかで、しかも世界最大の供給源が止まる。シェアを獲得するのに最高の商機が巡ってきた。

▲世界規模の避妊具メーカー「カレックス」。コロナ禍の影響で生産が停止されたことで、中国の避妊具メーカーは増産体制をとったが、その思惑は外れた。

 

実際は惨敗だった避妊具メーカー

しかし、2年が経ち、結果は皮算用とは真反対のものとなった。国内最大メーカーである桂林紫竹乳膠は、2022年6月、医療具メーカーである穏健に4.5億元で100%の買収をされた(http://www.g121.cn)。コロナ前であれば、10億元の企業価値があると見積もられていた企業だ。

しかも、紫竹乳膠の売上の55%は医療用手袋で、穏健の買収のねらいは医療用グローブの生産能力だった。

避妊具の主要メーカーは広西チワン自治区桂林市に集中している。ゴムの原産地である東南アジアからの物流拠点となっていたため、広西チワン自治区政府は避妊具の生産を支援し、1966年に桂林紫竹乳膠制品を設立。さらに2002年には桂林恒保グループが避妊具の生産を開始し、2008年には桂林愛超健康産業が起業した。

この3社は現在、いずれも医療用手袋の生産に転換、集中をせざるを得なくなっている。

▲大手避妊具メーカーは、コロナ禍により、医療用グローブの生産に次々と転換した。

 

2021年夏から需要が大幅に低下

なぜ、各社の思惑が外れたのか。愛超の管理職の一人、陳華が南方週末の取材に応えた。「新型コロナの感染拡大が始まり、カレックスの生産が止まると、大きな需要が生まれると判断し、増産体制を取りましたが、2021年7月から大きく思惑と外れ始めました。生産ラインを10から3に落としました。2021年3月の段階では、毎月15、6万個の出荷がありましたが、7月以降は5万個前後です」。

愛超は業績を大きく落とし、株主の意向もあり、医療用グローブの生産に転換せざるを得なくなった。桂林恒保グループも医療用手袋の生産にシフトをしている。

このような避妊具から医療用手袋などへの転換は、桂林だけでなく、全国で起きている。2019年には全国で約1100社の避妊具メーカーが存在したが、2020年になって425社に激減し、2021年は473社と微増したものの、2022年6月段階では203社に激減をしている。

 

リーマンショックでは需要増、コロナ禍では需要減

なぜ、コロナ禍で避妊具メーカーが打撃を受けてしまうのか。

2008年に米国でリーマンショックが起きた時、韓国はその影響が大きく、経済危機に直面をした。一方、避妊具メーカーは増収増益となった。失業者が増えると家にいる時間が長くなるが、経済的不安から避妊をする人が増えるのだ。

ところが、コロナ禍では、避妊具の需要が低下をした。

学会誌Sexologiesに掲載された論文「Effects of COVID-19 on sexual life - a meta-analysis」(C.Delcea他、https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S1158136020301134?token=90F3C76A724C3C52D70D8ED380D52C87F29FE77304BB3DA0DA39C2221C1E59802A29308D03F6493229CA1FA89143AC67&originRegion=us-east-1&originCreation=20220816233436)によると、2020年末の段階で、性行為の頻度がコロナ禍以前の1/4.4にまで減少していることが報告されている。

一般に、世界的危機の時は、子孫を残したいと思う人間の本能から性行為の頻度が高くなると考えられていたが、コロナ禍ではそれは単なる思い込みにすぎなかったことが判明した。

▲桂林市は、ゴムの原産地である東南アジアからの物流拠点となっていたため、ゴム製品の産業が盛んだった。その多くが、医療用グローブの生産にシフトをした。

 

避妊具の利用シーンのほとんどは「家庭外」

桂林恒保グループの広報は、南方週末の取材に応えた。「最も大きな変化は、避妊具の使用場所だったと分析しています。家庭外での利用が大きく減ったのです」。

中国の避妊具の使用場所は半分以上が家庭外だ。新型コロナの感染拡大が本格化をした2020年の春節時期には、国内のホテル空室率が80%を超えた。

さらに、物流の影響もあったという。コロナ禍により物流も人員や移動などの面で大きな制限を受けたが、経済を止めないため、企業向け物流が優先をされた。そのあおりで消費者向け物流が大きく停滞をした。特に、不要不急の商品に関する物流は後回しにされた。

つまり、コロナ禍では、消費者がそもそも避妊具を利用する場所に行かなくなり、さらに必要があっても、品薄で手に入らない。これにより需要が大きく低下をした。

コロナ禍が他の経済危機と異なるのは、感染に対する不安が大きいことだ。そのため、人との接触を避け、特に見知らぬ人との接触を避けるようになる。若者にとっては異性との出会いの場所も閉鎖をされ、出会う機会が減るだけでなく、そもそも見知らぬ人との交流を避けようという心理が働く。

このような最も避妊具が必要となる状況がなくなってしまったことが、避妊具メーカーの業績不振の原因となっている。

▲コロナ禍の初期には需要が拡大すると見られ、増産体制がとられたが、現実にはまったく需要が生まれなかった。

 

中国は低欲望社会になってしまうのか

ある避妊具メーカー関係者は言う。「コロナ禍が始まった時、人からは、みんな家にいることになるので業績が大きく伸びますね、羨ましいとまで言われましたが、まったく逆の結果となりました」。

問題は、中国がこのまま低欲望社会に入ってしまうのではないかということだ。中国の感染状況は落ち着いてはいるものの、移動制限も行われているため、旅行業の回復も当初の見込みより大幅に遅れている。一方、若者はACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)といった以前からのインドア趣味がさらに広がっている。このコロナ禍による低欲望状態が常態化をするのだとすると、避妊具だけでなく、デートに利用されるレストランやレジャーも変わらざるを得なくなる。

コロナ禍により、社会は別の形態に変わっていくのか、それとも、時間はかかってもコロナ禍以前の形態に戻っていくのか、見通しが立たない状況が続いている。