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若者の流出を食い止めるドローン農業。ドローンの農薬散布が農村の過疎化を救う

ドローンによる耕地管理が広がり始めている。ドローンの農薬散布代行業が広がり、今まで機械が入れなかった狭小耕地でも自動化が進んでいる。ドローン農業は若者の流出の歯止めともなり、農村の過疎化を救う決め手になる可能性もあると創業最前線が報じた。

 

自動化に向かない耕地に導入される農業ドローン

ドローンが中国の農業を変えようとしている。中国には20億ムー(約1.3億ヘクタール、日本は約437万ヘクタール)の耕地があり、その70%は機械化がされている。しかし、小さな耕地や山地の果樹園など機械化が難しい地域があり、ドローンはこのような耕地の自動化に向いていることから積極的な導入が進み始めている。

「2020年中国ドローン業界市場現状競争分析」(前瞻産業研究院)によると、2020年のドローンの産業応用先は農業が最も多く、以下、電力、防犯、物流、建築と続いている。

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▲産業用ドローンの用途。最も多いのが農業になっている。「2020年中国ドローン業界市場現状競争分析」(前瞻産業研究院)より作成。

 

効率だけでなく、農民の健康をも守るドローン

中国農業大学ドローン研究院の何雄奎教授は、創業最前線の取材に応えた。「農業にとって、耕地管理が大きな難題になっています。農薬を撒く季節は春から夏で気温が高い時期です。さらに、中国の農業人口は高齢化が著しい。農薬の扱いは難しく、健康被害も起こる危険性があります。ドローンやロボットを導入して、自動化をし、人と機械の分離、人と薬の分離を行い、同時に作業効率を上げていくことが求められています」。


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▲中央電子台のドキュメンタリー「強国碁石」第5集。農業ドローンについては、12:35あたりから紹介されている。

 

農薬散布はもはや機械で自動化する作業

1960年生まれの王炳南は、新疆ウイグルで数年間農業に従事をし、農民がドローン導入に対して積極的であることを実感した。特に若い世代の農民で顕著だという。「若い農民はもはや自分で農薬散布をしようとは考えていません。急速にドローン散布に移行し、小さな耕地ですらドローンが使われるようになっています」。

王炳南は学校の教師として新疆ウイグルに赴任をしたことがきっかけとなり、2013年に現地で農業を始めた。しかし、農薬の扱いは難しく、健康被害にあった人を多く見てきた。それを見て、ドローンで農薬散布を代行するビジネスが成立するのではないかと考え、友人と起業し、農薬や種子を販売するビジネスと並行して、ドローンによる農薬散布代行ビジネスを始めた。

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▲農薬散布はすでにドローンが散布するものになっている。農薬散布代行業が、若者の流出を食い止める手立てになっている。

 

ドローンが若者の流出を止める

各地に同様のドローン農薬散布代行業が生まれている。若者は、農業のように体を酷使し、利益の少ない職業を嫌い、都市へと出ていく傾向にある。これが農業の後継者不足、高齢化を招いていた。しかし、このようなドローン農薬散布代行業をする若者が増え、農村人口の高齢化に歯止めをかける効果も生まれている。

中央電視台のドキュメンタリー「強国碁石」第5集では、1996年生まれの閻文炯が紹介されている。閻文炯は人民解放軍を退役後、故郷に戻り、ドローンによる耕地管理代行業を始めた。すでに全国に100以上の同様のスタートアップ企業があり、彼らは「新農民」と呼ばれるようになっている。

新農民たちは、農作業は機械による自動化を進め、農産品のブランド化を図り、ライブコマースやソーシャルEC「拼多多」などで直販をすることをねらっている。これにより、農業は重労働で儲からない仕事ではなくなり、魅力的な職業となる。ドローンが、農村の荒廃を食い止める大きな武器になりつつある。