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深圳という大都市でドローン配送を可能にした美団の7つのテクノロジー

美団が深圳市でのドローンによるフードデリバリーを本格化させている。なぜ、美団体は深圳という大都市でドローン配送ができるのか。落下をした場合に被害は生じないのか。大都市でのドローン配送を可能にしたのは、7つのテクノロジー開発が必要だったとInfoQが報じた。

 

測位衛星信号を乱反射させる高層ビル

美団(メイトワン)の深圳市でのドローンによるフードデリバリーが本格化をしている。11の路線が設定され、11のオフィスビルやマンション、4つのモールを結び、2万人の需要に応えている。

現在は法整備が完了していないため、「常態化した試験営業」という建て付けだが、法整備が済み次第、正式営業に移行する予定だ。

しかし、深圳という大都市で、ドローン配送を確立するのは簡単なことではなかった。特に中国の都市部は、オフィスビルやマンションなど高層建築物が多く、ドローンの飛行区域としては理想的とは言い難く、難易度が高い。

例えば、都市中心部ではスマートフォンGPSなどの位置情報が乱れることはよくあるが、これは建築物のガラス面によって、衛星からの信号が乱反射をするためだ。その中で、ドローンが自分の位置を正確に知り、安全な飛行をするのは簡単なことではない。

美団が、ドローン配送を実現するには、7つのテクノロジー開発が必要だったという。

▲高層ビルのガラス窓は測位衛星の信号を乱反射させる。そのため、GPSや北斗の位置情報だけに頼っているのでは、都市部でドローンを安全に飛行させることはできない。

 

1:6ローターによる安全確保

美団がドローン配送を確立するにあたって、最大の課題となったのが安全だ。ドローンは機械であるがゆえに不具合が起きて、地上に墜落をする可能性が排除できない。建築物を損傷する程度ならまだしも、人や走行中の自動車に墜落をすれば、人命を失わせる事故も起こりかねない。この墜落による被害をいかにゼロに近づけるか、それが最大の課題となった。

そのため、美団は通常使われている4つのローター(プロペラ)ではなく、6つのローターを持つドローンを独自開発をした。ドローンのローターは、モーターが独立をして動作しているため、万が一、モーターが故障をしても、残りの5つのローターを使って、安全に不時着をすることができる。

▲一般的な4ローター方式のドローンでは、ローターが故障した場合に姿勢制御ができなくなり、安定した不時着ができない。美団では、6ローターのドローンを自社開発した。

 

2:三段構えのバッテリーシステム

美団のドローンには、主バッテリーの他に予備バッテリーが搭載されている。主バッテリーに問題が生じた場合は予備バッテリーで不時着を行う。また、予備バッテリーにも問題が生じた場合は緊急バッテリーを使ってパラシュートを開き、最悪の事態に備える。

 

3:人間の可聴域を避ける回転数を使う

また、6つのローターを採用したことで、1つのローターの負担が減り、ローターの回転数を下げることができるようになった。これにより、回転数を人間の可聴域から外れた回転数にすることにより、騒音を大きく軽減することができた。また、プロペラの材質、形状も新たに開発することで、騒音を大きく減らしている。

 

4:AI画像解析による不時着戦略

ドローンにはカメラが付いていて、地上の状況を常に撮影し、画像解析を行なっている。AIによる画像解析で、自動車と人を認識している。そして、自動車と人がいない平面を抽出する。これは建物の屋上や広い平地になる。つまり、不時着に適した場所ということになる。

ドローンは、常に、今、不具合が起きたらどこに不時着すべきかという不時着ルートを計算しながら飛行をしている。

▲ドローンは飛行中に人と車を認識し、そのような対象がいない平地部分(紫色部分)を不時着エリアとして常に認識している。万が一の場合は、不時着エリアへの誘導を試みる。

 

5:仮想空間の中でドローンの飛行実験

飛行ルートの計算、不時着戦略などをドローンに搭載したチップで計算をさせるのは荷が重い。そこで、美団はHIL(Hardware in the Loop)システムを開発した。これは簡単に言えば、デジタルツインで、仮想空間の中に飛行ルート周辺の建築物を再現し、その中に仮想のドローンを飛行させるというものだ。実際に飛行しているドローンからのデータを取得し、仮想空間内でさまざまな実験を行うことができる。

このHILの仮想空間の中で、ドローンが取るべき飛行戦略を確立し、実際のドローンに搭載する。これにより、横風や突風といったものに対する姿勢制御などの自律復帰戦略もドローンに搭載できるようになった。

▲ドローンは専用のステーションに着陸し、荷物は自動的にステーション内に収納される。

 

6:映像情報に基づいて正確な位置を判断

都市部でドローンを安全に飛行させるためには、GPSや北斗などの衛星位置情報サービスによる測位だけでは不十分だ。建築物により、衛星信号が妨げられたり、乱反射をさせられるため、測位精度が著しく落ちることがあるからだ。

そのため、美団のドローンではSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を採用している。これは、お掃除ロボットなどでも採用されている技術で、映像情報に基づいて、自分で環境地図を作成していく技術だ。これにより、正確な位置をドローンが把握をし、衛星測位による情報を補正している。

▲ステーションはそのまま宅配ボックスになっているため、利用者はスマホを使って自分の荷物を取り出す。

 

7:4次元セルで複数ドローンの航路を管理

1台のドローンだけを飛ばすのであれば問題はないが、美団のドローンのように配送に使う場合、同じ路線に複数のドローンが飛行をすることになる。このドローン自体が接触をしないようにしなければならない。一般的なやり方は、航路の行きと帰りで高度を変えるという手法だ。

しかし、ドローンの場合は、風などの天候の影響や鳥などの動物の影響で、より弾力的に航路を取る必要がある。そこで、美団は、4次元セル方式を採用した。3次元空間と時間の4つの軸で航路付近をセルに分割をし、航路はこのセルを接続することで表現される。すでに他のドローンにより占有されている4次元セルには入ることができないため、理論上はニアミスや接触が起きなくなる。

あるドローンに突発自体が起きて、他のドローンにより占有されているセルに入らざるを得ない場合は、他のドローンが空いているセルを探して、回避をする。このような仕組みを構築したことで、ドローン配送が密になっても対応ができることになる。

 

都市でのドローン配送に必須の安全テクノロジー

ドローン配送は、離島や山間部といった人口密度の低い場所での応用はしやすい。万が一墜落をしても、人的被害が起きる確率は低く、積載物をロストするだけで済むからだ。

しかし、配送の需要が高いのは都市部だ。その都市部では、人的被害の確率をゼロに近づけるさまざまな工夫が必要になる。美団のドローン開発が本格化をしたのは2017年だが、その時から、既存のドローンを購入して配送に使うという考えは放棄をされた。都市部での配送に活用をするためには、さまざまな技術開発が必要になることがわかっていたため、ゼロからオリジナルのドローンを開発することになったという。

すでに深圳市では、ドローン配送を都市低空輸送体系として位置づけ、法整備を急いでいる。年内にはドローン配送が正式営業を始めると見られている。