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テンセントが怒涛のゲームスタジオ投資。週に1社のペース。テンセントは何に焦りを感じているのか

テンセントが怒涛の勢いで、ゲームスタジオに投資をしている。週に1社のペースになる。その原因になっているのが、「原神」(miHoYo)の世界的ヒットだ。miHoYoはテンセントからの投資を断り、自力で収益を上げることに成功した。ゲーム業界の構造が大きく動き始めていると証券日報が報じた。

 

テンセントが怒涛の勢いでゲームスタジオに連続投資

騰訊(タンシュン、テンセント)が今年2021年の上半期、猛烈な勢いでゲームスタジオへの投資を行なっている。6ヶ月間で27のゲームスタジオに投資をし、平均すると毎週1社に投資をしていることになる。ある業界関係者によると、少しでも目立つことをしたゲームスタジオには、テンセントの人間が投資話を持ってやってくる状態になっているという。

テンセントの収入の半分はゲーム

ゲームはテンセントの大きな収入源になっている。テンセントの営業収入の54.8%が課金サービスになっている。ほとんどがゲームアプリの課金によるものだ。

テンセントの戦略は、有望なゲームスタジオに出資をし、完成をしたゲームをテンセントゲームから配信をするというもの。この戦略で、世界最大のゲーム配信企業になっている。

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▲テンセントの2020年の収入内訳。課金サービスの収益が半分以上で、そのほとんどがスマホゲームだ。

 

投資をしたスタジオから生まれた王者栄耀

テンセントが最初にゲームスタジオに積極投資をしたのは2014年。翌年の2015年にかけて32のゲームスタジオに投資をし、そこから、テンセントのドル箱となったMOBA「王者栄耀」(Honor of Kings)が生まれた。開発は、天美工作室群(TiMi Studios)で、元々はPC時代のテンセントのSNS「QQ」用のゲーム開発をしていたJade Studioが母体になっている。

この爆発的な成功で、テンセントは売上高で、「中国最大のゲーム配信企業」から「世界最大のゲーム配信企業」となった。

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▲テンセントの最大のヒットゲームMOBA「王者栄耀」。女性ユーザーも多く、小学生の間では社会問題になるほど人気になっている。リリース後6年経っても、収益ランキングの上位にいる。

 

王者栄耀の次のヒット作が見つからない

2020年8月から、再びテンセントの投資熱が高まり、特に11月と12月の2ヶ月間には13のゲームスタジオに投資をしている。5日に1社のペースだ。対象ジャンルは網羅的で、MOBA、FPS、MMO、RPGSLGといった人気ジャンルだけでなく、カードゲーム、カジュアルゲームにまで及んでいる。

しかし、大きな問題が王者栄耀以降、それに匹敵するヒットゲームが出てこないことだ。王者栄耀は、2015年11月にリリースされ、それから6年経つのに、未だにトップの人気を誇るゲームであり続けている。「次の王者栄耀を探せ」がテンセントの最大の課題になっている。

 

テンセントの投資を拒否するmiHoYo

2020年9月、独立ゲームスタジオ「米哈游」(miHoYo)が「原神」をリリースすると、業界に大きな衝撃が走った。miHoYoは前作「崩壊学園」などで、ゲーム内容、グラフィック、操作性などで定評を得ていたこともあり、原神は瞬く間にヒットし、リリース1ヶ月で2.5億ドル(約270億円)の収入をあげ、王者栄耀のリリース1ヶ月後売上を超えた。

テンセントが喉から手が出るほど欲しかった「王者栄耀の次」が、テンセント生態圏以外のところから出てきてしまったのだ。

原神のリリース直前、テンセントはmiHoYoにも接触をしている。投資条件は、「株を売ってくれるだけでいい」というmiHoYo側にとって最も有利なもので、一切の制約をつけないというものだったという。しかし、miHoYoはこの話を断った。miHoYoのような優れたゲームスタジオにとって、市場は世界になっている。市場が中国国内だけであれば、テンセントの投資を受けた方が有利だが、世界を市場とするのであれば、なにも投資を受けなくても、資金を調達する方法はいくらでもあるからだ。

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オープンワールドRPG「原神」。美しいグラフィック、戦略的なバトル、広大なフィールドとあらゆる点で従来のゲームを上回る人気作。中国だけでなく、韓国、日本、米国でも上位にランキングされるなど世界的なヒットになった。

 

若い世代の嗜好を読み切れない大手ゲーム企業

調査会社「艾媒咨詢」(iiMedia)の張毅CEOは、証券日報の取材に応えた。「Z世代(95年以降生まれ)は、それまでの世代と比べて、消費傾向と審美感覚が大きく変わりました。もはや、大きな配信会社が提供するゲームを遊ぶ時代は終わり、面白いゲームを自分で探すようになっています。また、中国の伝統的な三国志西遊記を下敷きにしたゲームには興味を持ちません。ゲーム企業は、この新しい潮流に対応することを迫られています。テンセントのような巨大企業は、変化に迅速に対応するという点で、小さなゲームスタジオよりも、むしろ不利になっています」。

単に、トップの座を「原神」に奪われたというだけでなく、テンセントはゲームの潮流が変化していることを感じ取り、それが大量にゲームスタジオに投資をするということになっているようだ。

 

バイトダンスもゲーム市場に参入

さらに、バイトダンスとアリババのゲームビジネスの参入も、テンセントにとって大きな脅威になっている。バイトダンスは2018年に、「今日頭条」、中国版TikTok「抖音」に、ゲーム公式アカウントを儲け、ゲーム情報の配信を始め、さらには、ゲームスタジオ「朝夕光年」(Nuverse)を完全買収し、「ワンピース熱血航線」などのヒットを生んでいる。バイトダンスはその後もゲームスタジオを買収、再編成をして1000名を越すゲームチームを構築している。

 

アリババもゲーム市場に参入

また、アリババは、2017年にゲームスタジオ「簡悦游劇」を買収し、「三国志戦略版」を2019年にリリースした。簡悦游劇についても、テンセントの方が先に接触をして投資話を持ちかけたが、うまくいかず、簡悦游劇はアリババに買収される道を選んだ。

テンセントは買収戦略だけではなく、自社でのゲーム開発も強化し、ゲーム関連の従業員数は1.4万人に達した。開発予算も2019年の80億元から、2020年は120億元(約2000億円)規模に膨らんでいる。

原神の成功により、中国のゲーム業界が大きく動き始めている。