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アリババに続き、フードデリバリー「美団」も独禁法違反で調査

アリババの独禁法違反処罰に続き、今度は美団が調査をされている。飲食店に対し、美団と専属契約を結ばないと検索順位やキャンペーンなどで冷遇をするという行為を行った疑いがもたれている。実態はどうなのか。燃財経は、美団と契約をしていたことがある4人の飲食店店主に取材をした。

 

アリババの独占禁止行為を批判していた美団創業者、王興

アリババは、2021年4月10日に、反壟断法(独禁法)違反により、中国国家市場監督管理総局により、2019年の営業収入の4%にあたる182.28億元(約3000億円)の罰金を課せられた。アリババが運営するEC「淘宝網」(タオバオ)に出品をする業者に対して、他のECプラットフォームに出品しないように求め、それに応じない販売業者にはさまざまな手段で冷遇をしたという「二選一」(二者択一)が問題にされた。

アリババのこのような市場での優越的地位の濫用を、最初に一般に知らしめたのは、美団(メイトワン)の創業者、王興(ワン・シン)だ。

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▲美団の創業者、王興。以前から、アリババの独禁法行為をSNSで批判をしていたが、今度は自分の美団が独禁法違反で調査が入ることになった。

 

美団とアリババの確執

2011年に美団は、米国のグルーポンに刺激を受けたグループ購入ECのビジネスをしていたが、5000社を超えるとまでいわれた激しい競走を勝ち抜くために、大型投資を必要としていた。そこに投資をしてくれたのがアリババだった。つまり、美団の今日があるのはアリババのおかげだといっても過言ではない。

しかし、2015年に美団が上場準備に入った頃から、王興はSNSでアリババ批判を始める。その大きな理由は、美団の決済方式をアリペイのみにするように要求されたことだった。王興は、SNSで「どのような決済方式を使うかは、消費者が選ぶことで、美団が決めることではない」と発言して、この提案を断った。

この対応は、(王興の主張によると)ジャック・マーを激怒させ、アリババは、保有している美団の株式を意図的に安く売却したため、美団の株価は大きく下落してしまったという。

以来、美団はテンセントの出資を受けるようになり、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)とともに、テンセント系列のサービスとなっている。

 

今度は美団が独禁法違反行為による調査を受ける

しかし、2021年4月26日に、市場監管総局は、その美団に二選一行為があった疑いがあるとして調査に入ることを公表した。美団は、調査に協力をする旨を公表したが、王興のSNSは沈黙をしてしまった。

いったい、美団はどのような違反行為をしていたのか。燃財経では、4人の美団と契約をしていた飲食店経営者に取材をした。

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▲中国では日常風景となった美団のデリバリー騎手。今ではフードデリバリーだけでなく、化粧品や電子部品、コンビニ商品、ケーキなどさまざまな商品を短時間配送するようになっている。

1:二選一を拒否し、デリバリー非対応に(劉芸さん、28歳、タニシビーフン店経営)

タニシビーフンとは、タニシから出汁を取ったビーフンのことで、独特の臭いがあるために、好きな人と嫌いな人がはっきりと分かれる広西チワン族自治区の郷土料理。食に関するドキュメンタリー番組で知られるようになり、カップ麺まで発売される人気料理となっている。

広西出身の劉芸さんは2019年に飲食業の道に入った。広東省の小さな地方で、タニシビーフンの飲食店を出した。小さな店だったが、繁盛をした。この地方都市では、美団とウーラマのフードデリバリーと契約をする店が増え始め、8割か9割の店は契約をしていた。劉芸さんの店も2019年の後半に美団と契約をし、デリバリーに対応をした。ウーラマと契約をしなかったのは、ウーラマに何か問題を感じていたわけではない。小さな飲食店で両方のデリバリーに対応するのは難しいと感じ、周りの飲食店の多くが美団を選んでいたので、劉芸さんも美団を選んだ。

 

ウーラマと契約した途端に手数料の値上げ通告

契約の際、美団側の手数料は18%から25%までの間で選べると説明された。飲食店にすれば、手数料は低い方がいい。18%を選ぼうとすると、担当者は「それは美団以外と契約しないことを意味している」と説明した。

劉芸さんは、ウーラマと契約するつもりはなかったし、このことがあまり重要だとは考えず、18%で美団と専属契約をした。劉芸さんの店は店舗売上が主体で、デリバリーは1日30件程度にすぎなかった。店が忙しい時には、デリバリー注文を一時止めることもあったほどだ。

しかし、2020年のコロナ禍ですべてが変わってしまった。店は営業休止をし、4月になって再開をしたものの、店舗の売上は限りなくゼロに近く、デリバリーに頼らざるを得なくなった。しかし、それまでデリバリーに力を入れてこなかったので、デリバリーも1日10件程度しか注文が入らない。

そこで、劉芸さんはウーラマにも登録をした。すると、すぐに美団の担当者から契約違反だという連絡が入り、ウーラマへの登録を削除するように求められた。劉芸さんは現状を話し、美団だけでは店がつぶれてしまうと訴え、ウーラマにも出店し続けた。すると、美団はさまざまな割引キャンペーンなどの対象外とし、少ないデリバリー注文がさらに少なくなってしまった。

美団の担当者と何回も話し合いをしたが、最初の独占契約を盾に譲歩する様子はなく、今の状態であれば、手数料は25%になると一方的に通告されるだけだった。

結局、劉芸さんは店を続けていくことができず、9月に美団との契約も解除した。劉芸さんは以前と同じように、デリバリーに対応しない小さな飲食店として、なんとか営業を続けている。しかし、先行きは不安しかない。

 

2:二選一を拒否し、TikTokで活路を開く(一堂さん、36歳、四川料理店経営)

一堂さんは飲食業を始めて10年、調理技術不要の火鍋店から、調理技術が決め手となる四川料理店まで経営をしてきた。その中で感じているのは、毎年毎年、運営コストが上昇し、利益が圧縮されているということだ。さらに、フードデリバリーが普及してからは、飲食店同士の競争が激しくなっていると感じている。

一堂さんは、2018年に合肥市のビジネス街に四川料理店を開店した。人の流れが多い場所で、ホワイトカラーが昼食を食べにやってきてくれ、それだけで利益が出るほどだった。

店が繁盛すると、すぐに美団とウーラマの担当者がやってきた。一堂さんは、両方のデリバリーと契約した。美団の担当者は、ウーラマとも契約していることについては、は何も言わなかった。しかし、後でわかったのだが、他の店は手数料が18%の契約だったのに、一堂さんの店は20%になっていた。

当時、美団はさまざまなキャンペーンを連続して行い、美団経由の注文が増えていき、店全体の売上の半分を占めるようになっていた。もはや美団なしでは商売が成り立たない状態になっていた。

 

クレームを入れたら冷遇された

この状態になって、美団の担当者は、ウーラマとの契約を解除することを提案してきた。美団との専属契約を結べば、さらに優待措置が取られるため、注文量はさらに増えるという。

一堂さんは、このような専属契約の強要はおかしいのではないかと、美団の本社に直接クレームを入れた。すると、なぜか美団の中での検索順位が下がり、注文量が減った。さらに、契約更改時には20%だった手数料を25%にあげると通告された。飲食店にとって20%でもほとんど利益はでない。25%になると、注文を受ければ受けるほど赤字になる。

一堂さんの店は、毎月20万元ほどの売上がある。原材料費は8万元、家賃、人件費、光熱費などのコストも8万元で、粗利は4万元になる計算だ。20万元の売上のうち、半分が美団からのものだとすると10万元、その20%にあたる2万元が美団の取り分となる。一堂さんの手元に残るのは2万元で、夫婦で働いているので、それぞれ1万元の給料で働いていることになる。

しかし、これが25%になると、美団の手数料は2.5万元となり、夫婦ふたりで1.5万元しか残らないことになる。これでは、飲食店を経営しているのではなく、美団で働いた方が収入が多くなる。

 

自力でTikTokを利用して活路を開く

一堂さんは、結局、美団との契約を解除して、ウーラマのみにした。しかし、一堂さんの店がある都市は、ウーラマの利用が多くない。ウーラマからの注文はきわめて少なかった。

そこで、一堂さんは、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)と「小紅書」(シャオホンシュー)の公式アカウントを作り、店舗の様子のショートムービーの配信を始めた。抖音はオンラインで店舗を予約し、決済もできる仕組みを提供していて、この抖音からの注文が好調だ。一堂さんは、美団から離れることによって、新たなチャネルを開拓できたことになる。

 

3:広告出稿の強要で不信感(阿偉さん、32歳、ファストフード店経営)

阿偉さんは、2020年後半に脱サラをして、小さなファストフード店を開いた。お金儲けをしようと思ったのではなく、自由に生きていきたいと考えたからだ。ファストフードを選んだのも運営コストが小さいからだ。店も小さくてよく、専門の調理師も不要。客は店の前を通る人たちであるので、オンラインプロモーションの煩わしさもない。場所選びさえ間違わなければうまくやっていけると思っていた。

開店すると、美団とウーラマの担当者がやってきた。美団は、阿偉さんの店を「推薦店舗」として契約したいという。検索順位があがり、デリバリー注文の量は大きくなるという。しかし、阿偉さんは、それが専属契約の意味であることがわかっていた。考えた末に、美団の「推薦店舗」として専属契約することにした。

 

広告出稿料を強要される

しかし、この推薦店舗には罠があった。阿偉さんの店の売上は1日数百元だったが、美団の担当者はこれを1000元の大台にのせる提案をしてきた。そのためには、毎日200元から300元の美団での広告を打つ必要があるという。

阿偉さんはそれでは意味がないと思った。500元の売上が1000元になっても、200元の広告費を支出したら、阿偉さんの利益はかえって小さくなってしまう。しかも、阿偉さんはお金儲けよりも、自由に暮らしたいからと飲食店を始めたのだ。

阿偉さんは、結局「推薦店舗」の取り消しをしてもらった。推薦店舗という美名の裏に、隠れた規則、慣習を隠しているやり方に不信感を抱いている。

 

4:専属契約にしたらデリバリー注文が減少(大毛さん、デリバリー店経営)

大毛さんは、ミニ弁当のデリバリーチェーンに加盟をし、デリバリー専門店を始めた。当初は美団とウーラマの両方と契約をしていた。チェーンへの加入は10万元ほどの資金が必要だったが、チェーンの担当者は2、3ヶ月で利益が出始めるという話だった。

実際、開店して2ヶ月間、売上は好調だった。すると、美団の担当者がやってきて、美団とウーラマのどちらかを選んでほしいという。もし、両方に出店し続けた場合は、検索順が大きく下がると、恫喝するように言われた。大毛さんはデリバリー業界への対応も初めてあったため、美団との専属契約を結んでしまった。

 

専属契約を断って倒産した飲食店も

しかし、ウーラマとの契約を解除すると、デリバリー注文が如実に減少した。2、3ヶ月で黒字になる予定が、5ヶ月目にようやく黒字になるほど遅れた。しかし、それでもまだましな方だと大毛さんは感じた。なぜなら、美団との専属契約を断って、倒産している飲食店の話をよく耳にするからだ。

その後、2年間経営して、ようやくビジネス街にもう1店舗を開くことができた。新店舗では、美団との専属契約は結ばず、美団とウーラマの両方に出店をしている。美団では検索順位も低く、手数料も高く設定されたが、その代わりにウーラマからの注文が入る。大毛さんは、最初からこうすればよかったと感じているという。

 

中国の成長時代は終わったのか?

どこの国でもよく聞く話だとも言える。しかし、美団への風当たりが強いのは、美団は美団の利益しか考えてなく、飲食店を育てていこうという意思が見られない点だ。飲食店から簒奪して、美団のみが成長をし、販売力のなくなった飲食店は使い捨てにしていく。そのような感覚が見え隠れするところが批判の対象となっている。

しかし、美団とウーラマの売上シェアは、ダブルスコアで美団がリードをしている。中国はもはや労働人口と消費者人口が減少のモードに入った。従来のようにサービスを改善していくだけで成長していける時代は終わった。それでも成長が求められるテック企業にさまざまな軋みが生じている。