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アリババに買収されたサービスはその後どうなるのか。買収で消えてしまうサービスの悲劇(上)

テックジャイアントは自身の事業が巨大であるだけなく、有望なサービスを次々と買収し、自社陣営に加えて、拡大をしていく。それは大国が周辺国を飲み込む姿にも例えられる。しかし、買収されたサービスの多くが、結果として消えてしまう例が多いとPMCAFF産品経理社区が報じた。

 

アリババの支援を拒否した美団

テックジャイアント「アリババ」に買収される企業は多い。しかし、買収された後はどうなるのだろうか。フードデリバリーなどの生活サービスを提供する美団(メイトワン)は、以前、アリババの支援を受けていたことがある。美団にとって、成長のきっかけとなった投資で、美団にとってアリババには恩義がある。しかし、美団創業者の王興(ワン・シン)は、「ジャック・マーは不誠実な人である」と発言してアリババに反旗を翻した。

王興の主張によると、美団が対応する決済方式をアリババのアリペイのみに絞ることを要求され、その要求を拒否すると、アリババが保有する美団株を意図的に安値で売却したという。そのため、美団の株価は下がり、経営が難しくなった。それ以来、美団はアリババのライバルである騰訊(タンシュン、テンセント)の支援を仰ぎ、現在では生活サービスの領域でアリババのライバルとなっている。

 

アリババの買収を受け入れたウーラマ

一方、フードデリバリーで美団のライバルであるウーラマは、アリババに買収される道を選んだ。しかし、買収をされるとともに、創業者の張旭豪(ジャン・シューハオ)は、ウーラマから離れることになった。フードデリバリーという新しいビジネスを生み出したイノベーター企業であるウーラマは、今ではアリババの新小売戦略のひとつのパーツになっている。

アリババに買収されるということは、大量の資金を得ることができ、事業を大きく拡大させるチャンスが生まれる。しかし、拡大方針は当然、アリババの戦略や思惑に従う必要も生まれる。アリババに買収されることは、スタートアップ企業にとって幸福なことなのだろうか、それとも不幸なことなのだろうか。

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▲フードデリバリーの美団とウーラマ。美団はアリババからの買収を回避したが、ウーラマを買収しようとした。ウーラマはアリババに買収される。

 

アリババ内部から生まれた口碑網

口碑網(コウベイ)は、飲食店や商店のクチコミ評価サイトで、アリババの中から生まれた。アリババの46人目の社員である李治国(リー・ジーグオ)のプライベートプロジェクトから始まった。

2004年に、李治国が友人と集まって飲食店で食事会を開いたところ、食事がまずくひどいものだった。腹が立ったので、飲食店の名前を挙げて批判する内容をネットの掲示板に書き込んだ。すると、同じ思いをしている人が多いらしく、多くの反応があった。そこで、李治国は飲食店の口コミを共有するネット掲示板を作ろうと考えた。1年後、登録アカウント数は10万人を突破した。

 

アリババの投資により急成長した口碑網

2006年10月、アリババは口碑網に正式に投資をし、口碑網の株式の53%を取得した。経営権がアリババに握られてしまうが、その代わりに、莫大な流量を持っている淘宝網タオバオ)と連携することができるようになり、口碑網の利用も急増した。飲食店だけでなく、商店や賃貸物件に関する口コミも始め、口碑網は大きく拡大した。

 

アリババの事業戦略に翻弄される口碑網

しかし、2008年6月になって、アリババは傘下の中国ヤフーと口碑網の合併を行い、「ヤフー口碑」が成立をした。口碑網に課せられたのは、あらゆる生活サービスの口コミ共有だった。しかし、ヤフー口碑は大混乱に陥った。組織構造の再編成がうまくいかず、そこに権力闘争などのさまざまな思惑が入り込み、事業を停止する事態にまで追い込まれた。口碑網にとって、まったくプラスになることはなかった。

2013年、アリババは再び口碑網を淘宝網とリンクさせ、淘点点というサービスを始めた。フードデリバリーと店舗での飲食店の口コミを共有するサービスだ。しかし、当時のアリババはフードデリバリーサービスを持っていないため、利用者は淘点点の口コミを見てから、美団やウーラマのフードデリバリーアプリを開いて注文をすることになる。ユーザー体験が悪く、淘点点の利用はほとんど伸びなかった。結局、淘点点のサービスは停止され、口碑網は消えることになる。

 

復活した口碑網。創業者は離脱

2015年6月、アリババと傘下のアントフィナンシャルは30億元ずつを出資し、口碑網を復活させることになった。美団が、フードデリバリーや生活サービスを口コミ共有機能と組み合わせることで、業績を拡大していることに対抗するためだ。しかし、復活した口碑網のCEOには、創業者の李治国ではなく、アントフィナンシャルのプロダクト運営部の責任者である范馳が就任した。

スマホ決済「アリペイ」から口碑網を利用できるようにし、消費者に口碑網で口コミを調べてもらって、アリペイ関連の生活サービスを利用してもらい、アリペイで決済してもらうというのがねらいだった。

口碑網を創業した李治国は、「飲食店の口コミを共有して、まずい飲食店を避けたい」という素直な発想からスタートしたが、アリババの戦略に振り回されることになり、結局、自分が作った口碑網からは離れることになってしまった。

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▲アリババは自社でサービスを開発するだけでなく、買収、提携によって、生活サービスの全方位をカバーしようとしている。

 

学生たちの手作り企業「ウーラマ」

フードデリバリー「ウーラマ」もアリババに翻弄されたスタートアップ企業だ。2008年、上海交通大学の学生だった張旭豪は、学生寮の学生たちが、近所の飲食店に行って料理のお持ち帰りをし学生寮で食べる習慣を見て、買い出しを代行するビジネスを思いついた。買い出し代行の手数料が稼げるだけでなく、飲食店のデータを収集することができる。手数料と飲食店へのコンサルを行うことで、大きなビジネスに化けるかもしれない。2009年4月、張旭豪は同級生たちとウーラマを創業した。

 

アリババの支援を仰ぎ、求心力が低下した創業者

半年後にはAラウンド投資、3年後にはCラウンド投資に漕ぎ着けた。

2013年7月、まだフードデリバリー事業を始めていなかった美団が接触をしてきた。ウーラマの買収交渉だ。しかし、張旭豪はその話を拒絶した。すると、その4ヶ月後、美団は独自にフードデリバリーサービスを始めた。美団は、ウーラマがサービスを提供していない都市で展開を始め、ウーラマがサービスを提供している都市では、大量の割引クーポンを配布して、徹底した焼銭大戦を仕掛けてきた。

ウーラマは対抗するために大量の資金が必要となり、そこに投資をしたのがアリババだった。その後、アリババはウーラマに連続して投資をし、気がついてみたら、創業者の張旭豪の株式割合は2%にまで低下していた。もはやウーラマは張旭豪の会社ではなく、アリババの会社になっていた。しかも、美団が成長をし、ウーラマのシェアは低下をしていった。さらに、まだ黒字化ができない。張旭豪の社内での影響力は急速に失われていった。

 

ウーラマを去らざるを得なかった創業者

2018年4月、アリババとアントフィナンシャルは、共同して、ウーラマを完全買収し、完全子会社化することを発表した。同時に、張旭豪はウーラマCEOを辞任して、会長となることが発表された。新しいCEOには、アリババの副総裁、王磊が就任をした。

さらに、完全買収後、アリババは新部署「本地生活服務」を成立させ、ウーラマと口碑網が吸収されることになった。これで、消費者は「口碑網で口コミを見る」「ウーラマでフードデリバリーを注文する」「アリペイで決済する」という一連の流れがワンストップでできるようになった。

創業者の張旭豪は、すべての役職から離れ、ウーラマとはわずかな株を保有している株主以外の関係がなくなっている。

 

明日に続きます。