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抖音とウーラマが提携。ショートムービーで見た食べ物がその場で注文、宅配。デリバリーの新しい注文スタイル

抖音とウーラマが提携し、ショートムービーから直接フードデリバリーを注文できるようになった。ウーラマにとっては中高年の利用者にアプローチをするチャンスにもなる。しかし、最も大きいのはショートムービーで潜在的な欲求を喚起して利用に結びつけることができることだと電商在線が報じた。

 

抖音とウーラマが提携

今年2022年8月19日、ショートムービーの「抖音」(ドウイン)とフードデリバリーの「餓了么」(ウーラマ)が業務提携することを発表した。食事などのショートムービーを見ていて、お腹が空いたら、そのムービーの商品タグをタップすることで、食事が注文できる仕組みが実現されると見られている。

同様の提携は、2021年末に、ショートムービーの「快手」(クワイショウ)とフードデリバリー「美団」(メイトワン)が行っている。しかし、快手の中に美団ミニプログラムが実装されるだけという浅い提携になっている。快手の中から美団ミニプログラムを使ってフードデリバリーを注文できるというだけのことで、ショートムービーで需要を喚起して、そのままそこから飲食店の食事や飲料を注文できるというわけではない。消費者にとっては、わざわざ快手の中の美団ミニプログラムを使わなくても、美団アプリや頻繁に使う「微信」(ウェイシン、WeChat)の美団ミニプログラムを使えばいいのだ。

▲美団と快手も提携をしているが、提携があまり生かされていない。快手の中に「美団」ミニプログラムが実装され、起動すると、通常の美団アプリと同じように注文ができるというだけ。アプリを使った方が手順が少なく便利などほどだ。

 

近所の人に優先的に配信される抖音の独特なアルゴリズム

抖音は、ショートムービーの配信をAIで行なっている。ユーザーの視聴傾向などを見てマッチングを行い、ユーザーが好みそうなショートムービーを優先的に配信している。これにより、抖音は「見たい映像が次から次へと配信されてくる」状態をつくりだしている。

抖音はもうひとつの配信アルゴリズムを併用して適用している。それは、発信者の近くにいるユーザーに優先的に配信するというものだ。例えば、カフェがショートムービーを投稿すると、そのカフェの近くにいる人に配信されるため、その人たちがカフェにやってくることが期待できる。このようなショートムービーには、位置情報タグが表示されるため、その位置情報タグをタップするとカフェの位置や口コミなどが表示される。そこから、事前にモバイルオーダーをしておくことも可能になっている。

▲抖音ではショートムービーに位置タグを入れることができ、これをタップするだけでウーラマによるデリバリー注文ができるようになる。ショートムービーで需要を喚起して、そのまま直接購入に結びつけることができるようになる。

 

独自デリバリーを断念して、ウーラマと提携

しかし、店舗にきてもらうだけではなかなか成果があがらない。そこで、抖音は昨年2021年7月に「心動外売」というデリバリーサービスのテスト運営を始めた。近くにいる人に店舗にきてもらうだけではなく、デリバリーを注文してもらうことで飲食店の販売量を増やしてもらおうというものだ。

しかし、5ヶ月後に心動外売のテスト運営は終わり、正式運用も始まっていない。配送網の構築に課題があり、乗り越えるのが難しいと判断されたようだ。そこにウーラマとの提携であり、すでに配送網がしっかりしているウーラマのデリバリーを活用することにしたのだと見られている。

 

ウーラマにメリットの多い抖音との提携

この提携は、ウーラマにとっても大きなメリットがある。ウーラマとライバルの美団は、市場シェアがダブルスコアまで開き、差をつけられていた。しかし、2019年ごろから、じわじわとウーラマがシェアを拡大し、現在は美団の7割程度まで迫っている。業界トップの座が見えてきているのだ。

一方で、ウーラマの課題は、利用者が若年層が厚く、中年層にうまく浸透をできていないことがある。中年は、従来通り、店に行って食事をしたり、自分で買ってきて自宅で食べるのを好み、デリバリーをあまり利用しない。

一方、抖音は以前は若者中心だったが、現在では広い年齢層に広がり、ウーラマが弱い36歳以上も30%いる。この層に、食事や飲料のショートムービーからデリバリーを注文してもらうということが期待できる。

▲抖音の利用者は意外に中高年も多い。40歳以上が19%にもなる。若い利用者中心だったウーラマはこのような中年にもユーザーを広げるチャンスになっている。

 

DAUが伸び悩む抖音にもメリットは大きい

抖音も日間アクティブユーザー数(DAU)が6億人を超えたところで足踏みが始まり、7億人の壁を破ることができず苦しんでいる。このため、ECなどの物販を組み込んでいくことにより、収益化を図るようになっている。抖音にとっても、ウーラマとの提携は、DAUの上昇と収益増大を同時にねらえる好機になっている。

なにより大きいのが、飲食注文に至るプロセスが変わることだ。従来は「お腹が空く」→「グルメアプリで検索」→「来店またはデリバリー」という欲求が起点になったプロセスだった。

しかし、抖音とウーラマが提携をすると、「ショートムービー」→「お腹が空く」→「デリバリー注文」というプロセスができることになる。欲求がないところ、あるいは欲求が潜在化しているところを掘り起こし、購入に結びつけることが可能になる。