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SNS「WeChat」がフードデリバリーのテスト運営中。新しい流入口を探るデリバリー企業

SNS「WeChat」が広州市と深圳市の一部にユーザーに向けて、フードデリバリー機能のテストを行なっている。多くの人が「なぜSNSからデリバリー?」と疑問に感じているが、デリバリー業界にとって新しい流入口の開拓が成長の鍵になっていると商業数据派が報じた。

 

TikTok、WeChatもフードデリバリーに対応

アプリやミニプログラムで飲食品を注文すると30分程度で届けてくれるフードデリバリー。中国では「ウーラマ」と「美団」(メイトワン)の2社がシェアを競い合っている。

ところが昨2022年8月に、ショートムービー「抖音」(ドウイン、中国版TikTok)がフードデリバリーに対応をした。すると今度はテンセントのSNS微信」(ウェイシン、WeChat)がフードデリバリーに対応する可能性が出てきた。

▲美団の配達スタッフ=騎手。フードデリバリーは流入口=注文を受ける場所を拡大することで利用者を増やし、成長をしてきた。現在でも、新しい流入口の開拓は続けられている。

 

WeChatがテストしている店舗エクスプレス

現在、WeChatのフードデリバリー機能は公開されていないが、広州市と深圳市の一部のユーザーに対してテスト運営を始めている。テストなので、このままサービスを開始するとは限らないが、対象ユーザーは実際に注文をし、商品を受け取ることができる。

WeChatにはミニプログラムのコーナーが用意されている。ミニプログラムとは、WeChatの中から起動できるミニアプリのことだ。これを利用するためには、WeChatの画面から「発見」タブをタップしてリストの中から「ミニプログラム」を選ぶ。

ミニプログラムの画面は、今まで3つの要素に分かれていた。「検索」「最近使用したミニプログラム」「私のミニプログラム」だ。よく使うミニプログラムは「私のミニプログラム」に登録をしておくことができ、最近使ったミニプログラムは一覧の中から選ぶことができる。それでも見当たらない場合は、検索をして探すことができる。

テスト対象のユーザーには、これに加えて「店舗エクスプレス」というコーナーが追加され、この中から店舗を選んで、飲食品を注文することができる。

これでフードデリバリーの入り口は、ウーラマ、美団のアプリまたはミニプログラムの他に、抖音、WeChatと4つになったわけだ。

ただし、抖音、WeChatは配送まで自分でやっているわけではない。抖音は、当初、自前で配送まで行おうとして一昨年の2021年7月に「心動外売」のテスト運営を始めた。しかし、結局、ウーラマと提携をすることになった。WeChatのデリバリーも美団、順豊(シュンフォン、SF Express)、達達(ダーダー)、京東(ジンドン)などが担当しているようだ。

▲WeChatのミニプログラムのコーナーに、一部のユーザーで「門店快送」(店舗エクスプレス)が表示されるようになった。ここからフードデリバリー注文ができるようになっている。現在はテスト運営で、正式運営の時期などは未定。

 

新しい流入口がフードデリバリー成長の鍵

WeChatがなぜ既存の配送企業を利用してまでデリバリーサービスをテストしているのか、そのねらいについてはテンセントは何も語っていない。メディアの問い合わせに対しても、テストをしていることを認めただけに留まっている。

しかし、これは、フードデリバリーが新しい流入口を求めているとみることができそうだ。なぜなら、フードデリバリーというビジネスは、新しい流入口を発見することで成長をしたきたからだ。

2008年に創業し、この分野のパイオニアと言える「ウーラマ」は、当時はスマートフォンが存在しなかったために、ウェブのメニューを閲覧して電子メールで注文をするという素朴なところから始まった。しかし、スマホの普及が始まるとすぐにアプリに対応、スマホから簡単に出前が頼めるという利便性で、一気に利用者を拡大した。

 

「お腹が空いた」→「デリバリー注文」の流れの欠陥

この状況を見た美団が2013年に遅れて参入した。美団も専用アプリからの注文形式を取ったが、それだけではなく、新しい流入口を作り出すことに成功した。

利用者がその商品やサービスを利用するまでのプロセスを描き出したカスタマージャーニーマップを考えると、ウーラマの場合、「お腹がすいた」→「デリバリーを頼もう」→「アプリを起動」というものになる。

美団はこのジャーニーマップには欠陥があるのではないかと考えた。なぜなら、なぜお腹が空いたと感じた人が、いきなりデリバリーを頼もうとなるのか。普通は、家に何か食べるものはないのかとか、近所の飲食店に行こうとか考え、その中の選択肢のひとつとしてデリバリーがあるのではないか。ウーラマのジャーニーマップはここに断絶があり、デリバリーを選択しない多くの客を取りこぼしてしまっている。

そこで、美団は2015年にグルメガイドアプリ「大衆点評」(ダージョンディエンピン)と提携をした。大衆点評は、近所の飲食点を検索し、口コミを見られるグルメガイドアプリだ。検索をすると飲食店が見つかるが、デリバリーに対応している店にはタグをつけ、そのタグをタップすることでデリバリー注文ができる。

美団のジャーニーマップはこうなる。「お腹がすいた」→「飲食店を探そう」→「行くのは面倒なのでデリバリーを注文しよう」になる。

つまり、ウーラマのお客さんは「デリバリーを頼みたい人」だが、美団のお客さんは「外食を利用したい人」となり、より広い流入口を持つことになり、後発ながらウーラマを圧倒し、トップシェアを獲得することになった。

▲美団は、グルメガイド「大衆点評」の飲食店ページに「予約」「待ち時間」「デリバリー」のボタンをつけた。これにより「外食をしたい」と考える人をデリバリーに誘導することが可能になった。

 

ムービーをトリガーにして欲求を生成する抖音

では、抖音はどのような流入口を追加したのか。食品系のショートムービーを見ていると、商品タグがついている。これをタップすると、ウィンドウがポップアップをして、デリバリー注文ができるという仕組みになっている。

これはショートムービーを食欲のトリガーとして利用している。美味しいそうな食べ物の映像を見ると、ご飯を食べたばかりでもお腹がすいて食べたくなってしまうことがある。普通は、そこから外出をして食べに行くのは面倒なので我慢をしてしまうが、ワンタップで家に持ってきてくれるのだとしたら、我慢できずに注文してしまう人は多いはずだ。

抖音とウーラマが提供したのも、抖音は新しい機能を追加してより利用率を上げることができ、ウーラマは新しい流入口を持つことができるという、お互いにメリットがある関係になっているからだ。

▲抖音のフードデリバリーの仕組み。飲食品のムービーを見ていると、自分も食べたくなる(左)。位置情報タグをタップすると、注文画面がポップアップされ、デリバリー注文ができる(右)。ムービーで食欲が刺激をされて、注文してしまうことになる。

 

WeChatは相乗り注文をねらっているのか?

では、WeChatはどのような流入口を広げようとしているのだろうか。テンセントは何も語っていないし、テスト運営からは何も窺い知れることはできない。しかし、SNSを利用した流入口をつくろうとしていることは想像できるし、間違いなくそのような機能を搭載してくることになるだろう。

その機能とは、まとめ買いサービスだ。例えば、会社で午後にコーヒーが飲みたい。同僚のグループに「コーヒーを飲むけどいる人!」というメッセージをWeChatで送る。すると、まとめ買い割引がされるというものだ。配達は1カ所ですむため、大幅割引が可能になる。

あるいは、新商品や推薦商品の拡散にも利用できる。新商品をまとめ買いすると優待をする仕組みを用意し、その優待に惹かれた利用者が友人知人を「いっしょに注文をしない?」と誘ってくれる。これにより、販売量が増え、同時に新商品の認知度を上げることができる。

もちろん、WeChatが実際にこのようなことをするかどうかはわからない。しかし、SNSでデリバリーをするのであれば、SNSの特性を利用したサービスを設計するのは当然のことだ。

 

中高年にはまだ浸透していないデリバリー

フードデリバリーは、しばしば頭打ちでありこれ以上の成長は難しいと言われることがある。しかし、それは既存の流入口での話であり、入り口が広がればまだまだ成長の余地がある。フードデリバリーは20代30代にはかなり浸透をしているものの中高年の利用率は決して高くない。わざわざアプリをインストールしたり、ミニプログラムを検索して見つけたりという能動的な行動をしないとフードデリバリーが利用できないことが障害になっている。

これが、ショートムービーを見ていたら、まとめ買いを誘うメッセージを友人からもらったらという受動的な行動でフードデリバリーが利用できるのであれば、利用をしてみる人は一定数出てくる。フードデリバリーは新しい流入口を探し求めることで、成長のチャンスをつかもうとしている。