中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

あらゆる商品を1時間以内にお届け。即時配送が拡大する理由とその難しさ

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明日、vol. 077が発行になります。

 

中国の都市部では、黄色いユニフォームの美団(メイトワン)、青いユニフォームのウーラマのライダー=騎手が電動バイクに乗って、忙しく配達をしています。日本の出前館やウーバーイーツと同じで、スマホで注文した飲食店の料理をデリバリーしてくれるものです。

しかし、今やデリバリーするのは料理だけではありません。一般商店の商品、コンビニ、スーパーの商品、医薬品、花束、ケーキなどあらゆるものをデリバリーします。

「飲食外売再開消費報告」(美団)によると、コロナ禍が起きる2020年春節以前は、料理以外のデリバリー数は全体の12.72%でしたが、コロナ禍が終息をして、店舗の営業が再開すると25.38%に伸びています。新型コロナの影響で、外を出歩きたくない、デリバリーを利用するという心理が働き、現在でも1/4が料理以外になっています。

 

また、最初から料理以外の即時配送を主要サービスとして創業したのが、上海を本拠地とする達達(ダーダー)です。全国2400の都市、地域をカバーし、京東、ウォルマート、永輝スーパー、サムズクラブ、7フレッシュ、ファーウェイショップなどの商品をスマホで注文すると、1時間程度で配達してくれるというものです。

さらに、EC「京東」(ジンドン)も、即時配送サービス「京東到家」を始めていました。全国1200の都市、地域で、10万軒以上の商店の商品を配送してくれます。

京東は、この即時配送に強い関心があり、達達に出資をし、京東到家と合併させ、半数以上の株式を保有するようになりました。つまり、達達は京東の子会社と言ってもいい存在になりました。

フードデリバリーと達達。この2つが中国の即時配送を支えています。

 

京東が、即時配送に関心を示しているのは、もともと京東は物流に力を入れてきた企業だからです。2020年の11月11日の独身の日セールでは、消費者がスマホで注文した6分後に商品を配達することに成功して話題となりました。もちろん、倉庫から出荷をしていたらそんなことは不可能なので、あらかじめ需要予測を立て、売れ筋の商品は配送ステーションに在庫を確保していたのです。それがうまく当たり、黒竜江省のある女性が口紅を注文したところ、そのわずか6分後に京東のスタッフから「今、お宅の前にいますので、ドアを開けてください」という電話が入りました。女性が驚いてドアを開けると、本当に京東のスタッフで、注文した口紅が配達されました。

京東は配送時間にこだわる企業で、現在、ほぼ全国の地域で「211限時達」(2つの11時が締め切りになる配達の意味)と呼ばれる半日配送を実現しています。午前11時までに注文をすれば当日中、それ以降、午後11時までに注文すれば、翌日午後3時までに配送するというものです。

 

この211限時達の実現は簡単ではありません。元々、京東は創業者の劉強東(リュウ・チャンドン)が、1998年に北京市の中関村に開いた「京東マルチメディア」という商店が原点です。CD-Rが主力商品で、次第にCDドライブなどの電子製品なども手がけるようになり、2001年には店舗数が12店舗となり、成功をしていました。

しかし、2003年にSARSが流行したことで、京東マルチメディアは大きな打撃を受けます。感染者数は新型コロナと比べれば2桁少ない程度ですが、致死率は高く、近代中国では初めてのアウトブレイクであったために、多くの人が外出を控えたからです。

その頃、お店に電子メールで注文を送って、自宅やオフィスなどに届けてもらうというECの前身のようなことが細々と行われていました。店舗営業が壊滅的なので、劉強東はこれしかないと思い、当時人気のネット掲示板に広告を出し、電子メールでの注文を受け始めました。

しかし、まったく注文が入りません。そこに掲示板にこういうコメントがつきました。「京東って知っている。中関村にある店で3年ぐらい光ディスクを買っていたけど、ここでは1回も偽物をつかまされたことがない」。その日のうちに6件の注文が入りました。これが京東の原点になっています。

当時、記録媒体のCD-Rは質の悪いものも流通していました。100枚単位で安く購入できるものの、10枚のうち、2、3枚は書き込みに失敗するということが珍しくなかったのです。しかし、京東はそのような劣悪商品は扱わずに、正規ブランド品だけを扱いました。また、CD-Rのような記録媒体は、用意周到な人は買い溜めをしておくかもしれませんが、多くの人は記録をしようと思ってCD-Rがないことに気がついて買いに行くということをします。ですから、すぐに届けなければなりません。

「本物を売る」「すぐに届ける」。この2つが京東の信頼の源泉になっています。ですから、当然、即時配送には強い関心を持つのです。

 

京東は即時配送をECの当然の進化と考えているようです。京東のメディア発表会などでは「遠距離EC時代」「近距離EC時代」「短距離EC時代」という言葉がよく使われます。

遠距離EC時代とは、広域大型倉庫に商品を集積し、そこから全国物流ネットワークを使って宅配をするというものです。一般的なECはこの遠距離ECです。配送距離は100kmを超え、配送時間は翌日、翌々日となります。

近距離EC時代とは、都市内に中型倉庫をもち、そこから100km以内の宅配をします。これが京東の211限時達で、当日または翌日配送になります。

短距離EC時代とは、前置倉(都市内に複数ある小型倉庫)や店頭在庫から近隣に宅配するというもので、配送距離は3km程度。配送時間は1時間ほどです。

京東が使う言葉では、「時代」という言葉が使われていることに注意をしてください。これは、京東が、遠距離EC→近距離EC→短距離ECと時代が変化していくと捉えているということです。つまり、京東は、即時配送は、次世代の京東のあるべき姿だと考えているということです。

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▲京東が考えているECの進化。現在の京東は近距離ECであり、短距離ECに進化すべきだと考えている。

 

日本にもアマゾンフレッシュという即時配送サービスがあります。また、コンビニやスーパーも短時間での宅配をしてくれるところが増えています。しかし、多くの人が、あまり強い関心は持っていないのではないでしょうか。いざという時には便利かもしれないけど、普段は必要ないと考えている人が大半でしょう。特にアマゾンフレッシュのサービス地域になっている都市部では、通常のお急ぎ便でも翌日には届くので、わざわざそこまで急ぐ必要性を感じないかもしれません。

しかし、それは、日本の宅配便が優秀で、何度でも不在による再配達をしてくれ、なおかつ宅配ボックスも普及をしたため、宅配便が受け取りやすいということがあります。中国で宅配便を受け取るのはなかなか大変です。再配達の時間指定などもできないことが多く、宅配便を待っていると、外出することもできませんし、シャワーを浴びることもできません。結局、自分から配送ステーションに取りにいくことも多いのです。行動範囲の広い若者などは、最初から配送ステーション止めを選択して、自分で取りにいくことを基本にしている人もいます。

しかし、即時配送は、注文してから1時間で届くので、待っていられます。すぐに商品を手にしたいというニーズの他、受け取りが楽というニーズもあるのです。

 

即時配送は、スマホ注文をすると店頭在庫から出荷をして宅配してくれるというもので、店舗ECと呼ばれ方をすることもあります。また、到家サービスと呼ばれることもあります。それぞれに異なる文脈で使われるので、ニュアンスなどの違いはありますが、いずれも本質的には同じサービスを指しています。

このような発想の起点になっているのは、アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)が2016年に提唱した新小売(ニューリテール)という考え方です。「オンライン小売とオフライン小売は深く融合していき、すべての小売業は新小売になる」というものです。これを実現したのがアリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)で、スマホ注文して30分配送してもらうことも、店頭で購入することもできるというスーパーです。

フーマフレッシュの成長ぶりに危機感を感じた既存スーパーは、即時配送企業と提携して到家サービスを続々と始めました。今、中国の飲食店、小売店で即時配送に対応していないというのは大手チェーンではほぼないと言っても過言ではありません。ジャック・マーの予言通りのことが起きています。

 

即時配送は、コロナ禍による外出自粛という追い風はあったものの、現在では完全に定着をしています。京東の考えるように、短距離EC時代に移っていくのかもしれません。

しかし、本当にそうなのか。短距離ECは、せっかちな人が使ったり、急ぎの場合に使うだけで、ECの主流にはならないのではないかという考え方もあると思います。ここを明らかにするために、達達の統計資料から、利用者の属性や利用動機などを紹介しながら考えていきます。また、即時配送を利用した店舗ECは簡単なようで、実は難しい面もあります。実際、香港初のおしゃれなドラッグストアとして人気のワトソンズが中国で対応を失敗して、問題を起こしています。このような即時配送、店舗ECの対応の難しさについてもご紹介します。

 

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vol076:無人カート配送が普及前夜。なぜ、テック企業は無人カートを自社開発するのか?

 

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