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フードデリバリー最大手の「美団」が手数料を実質値下げ。デリバリー手数料競争が始まる

独禁法違反の調査が入っている美団が、フードデリバリーの手数料を値下げすることを発表し、飲食店から歓迎されている。すでに美団は、生活サービスを広く扱うようになっていて、デリバリー事業の比率は相対的に下がっている。しかし、デリバリーが美団の広告塔となっていることから、手数料を下げて、より利用を拡大し、その他のビジネスで収益を上げる戦略だと見られていると鹿鳴財経が報じた。

 

8割がデリバリーに対応する飲食店

現在、主要都市の8割の飲食店がフードデリバリーに対応をしている。フードデリバリー企業「美団」(メイトワン)、「ウーラマ」は消費者から配達料を取り、なおかつ飲食店から販売額の20%程度を手数料として徴収する。この20%という料率は飲食店にとってきわめて高く、デリバリーに関してはほとんど利益が出ない状態になっている。そのため、多くの飲食店が、料理の価格そのものを値上げせざるを得なくなっている。

特に、コロナ禍による影響は大きく、美団研究院の調査によると、契約している飲食店のうち、デリバリーの売上が店舗売上を上回っているのは53.6%にも及び、このうち、デリバリー売上が70%を超えている飲食店も42.9%となった。コロナ禍による外出自粛、デリバリー習慣の定着などで、多くの飲食店がデリバリーに依存をし始めている。

そこに、美団は、他のフードデリバリーに契約しないように飲食店に圧力をかけ、それに従わない飲食店の手数料の率を上げるなどして、4月に、中国国家市場監督管理総局が、独禁法違反で調査に入る事態になった。

 

美団が手数料値下げに方向転換

それに対応して、美団は手数料の改定を行った。多くの飲食店にとっては、実質の値下げとなり、歓迎をされている。飲食店に対して美団専属になるように圧力をかけて事業を拡大するのではなく、手数料を下げることで、競争力を高め、飲食店が美団を利用するように促すという当たり前の競争が進んでいくことになる。

ただし、美団は美団で、この手数料値下げは簡単なことではないようだ。2020年の美団の財務報告書によると、手数料収入は約586億元(約1兆円)だが、その83%は配達をする騎手の人件費に消える。その他にプラットフォームの運営費などもかかり、美団にとってフードデリバリーはもはや大きな利益の出る事業ではなくなっている。

美団は、フードデリバリー(外売)だけでなく、タクシー、列車、ホテル、旅行、シェアリング自転車、映画、イベントなどあらゆる生活関連のチケットが購入できるサービスを展開していて、デリバリーは全体の収入の12%でしかなくなっている。つまり、デリバリーで消費者の脳内シェアを高め、他のサービスで収益を得る構造になっている。毎日、街中を走る黄色いユニフォームのデリバリー機種は、サービススタッフであるとともに、美団の広告塔になっている。

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▲美団のミニプログラム。フードデリバリー(外売)だけでなく、グルメ、ホテル、レジャー、映画、タクシーなど、さまざまな生活サービスが利用できるプラットフォームになっている。

 

低価格、短距離の配送が値下げ

今回手数料が改定され、値下げになったのは、低価格で短距離の配送だ。従来は、料理の価格の一律20%(料率は契約により異なる)が標準だったが、技術サービス費6.4%+配送サービス費という内訳になった。技術サービス費は、プラットフォームの利用料。これに1件の配送ごとに距離に応じて配送サービス費がかかる。

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▲配送距離が3km圏内、料理の価格が30元のところが最も値下げ幅が大きい。

 

手数料値下げの競争が始まる

デリバリー注文の75%以上は配送距離が3km以内で、客単価が20元から50元の注文は53%になる。このため、70%の飲食店で、配送手数料が下がることになる。多くの飲食店からは歓迎をされている。

美団がこのような改訂を行なったのは、独禁法違反容疑の調査が入ったことと無関係ではない。独禁法をあまりに厳格に運用すると、市場の競争を萎縮させてしまうことになるが、今回の市場監督管理総局の行動や美団の対応は、関係者から評価されている。最大手の美団が手数料を値下げしたことで、ウーラマを始めとする他のデリバリープラットフォームも手数料を改定せざるを得なくなり、飲食店と消費者双方に利益がある競争が始まると見られている。

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▲美団によると、配達の69.15%で実質的な値下げになるとしている。