アリペイは、過去、定期的に新サービスを投入し、その多くがキラーサービスとなることで利用者を惹きつけ、中国のスマホ決済No.1の地位を守ってきた。しかし、最近のサービスは気の抜けたようなものが多く、ネット民からもその迷走ぶりが心配されるほどになっていると我是互聯網観察員が報じた。
スマホ決済シェアに異変が起きるか
スマホ決済の分野ではアリババ系の「支付宝」(ジーフーバオ、アリペイ)、テンセントの「微信支付」(ウェイシンジーフー、WeChatペイ)がこの10年、激しい競争をしながら、中国の生活系ITサービスを発展させる駆動力になってきた。
多くの調査で、両者のシェアはアリペイ55%、WeChatペイ40%弱というアリペイが優勢な状況が続いてきた。しかし、その関係が大きく変わるかもしれない。
キラーサービスを次々と生み出したアリペイ
多くの人が驚いているのが、ここのところのアリペイのサービスの迷走ぶりだ。これまではアリペイが新しいサービスを登場させると、それはすぐに大きな話題になり、多くの人が利用をするようになる。
例えば、2013年に始めた「余額宝」(ユーアーバオ)は、アリペイの中から簡単に投資ができる仕組みで、難しいことは考えずに、ただ資金を移せばいい。引き出すときは24時間いつでも0.01元単位で可能だ。これが一時は年の利回りが6%を突破したこともあり、以前は4%台を推移していた。サービス開始1年足らずで利用者1億人を突破し、一時は6億人に迫るキラーサービスとなった。
また、2018年に始めた「相互宝」(シャンフーバオ)は、1年半で加入者1億人を突破した。相互宝はネット互助の仕組みで、わりかん保険とも言えるものだ。月々の保険料は不要で、病気になって保険支払いが発生すると、それを加入者全体で頭わりするという後払い型の保険で、中国の保険制度に対する重要な挑戦とまで言われた。
▲アリペイ内のサービスは充実をしているが、今までのような多くの人を惹きつけるサービスが登場していない。
迷走するアリペイの新サービス
ところが、最近のアリペイの新サービスには、多くの人が首をひねっている。心配をしているネット民もいるもほどだ。
2021年3月21日に始まった新サービスは「アント森林おやすみ放送局」。アリペイアプリのトップページ下に入り口が表示されるという力を入れた新サービスだ。しかし、利用してみると、森林の美しい写真が表示され、川のせせらぎのような音が聞こえてくる。寝るときに利用すると安らかに眠れるというもの。
多くのネット民が、頭に疑問符が浮かんだ。なぜアリペイがこのようなサービスを提供しなければならないのか、意図はなんなのか。すでにこのようなものは、アプリでもネットラジオでも山ほど存在している。新しい瓶に古い酒を詰めただけ、いや、古い瓶に古い酒を詰めていると、逆の意味で話題になった。
さらに、4月1日には「地下室」という新サービスが始まった。これもトップページ下部に入口が表示される力の入ったサービスだ。しかし、内容は数年前のアリペイ利用履歴が表示されるというもの。その利用履歴を見ると、昔の行動が思い出すことができ、懐かしい感覚に慣れるというもの。利用者からはまったくといっていいほど話題にならなかった。
▲3月に始まった新サービス「アント森林おやすみ放送局」。安眠できる環境音が聞けるというもので、なぜアリペイがこんな使い古されたサービスを始めたのか、多くのネット民が首をひねっている。
決済から金融へ、そしてテクノロジーに変化をしてきたアリペイ
2003年にスタートしたアリペイは、もうすぐ20年になろうとしている。この20年、10年ごとに大きく転換をして、その姿を変えてきた。つまり、そろそろアリペイは次の姿に転換をしなければならないのだが、どう転換すべきかが見えなくなっているのかもしれない。
2003年からしばらくの間、アリペイはアリババのEC「淘宝網」(タオバオ)専用のオンライン決済サービスにすぎなかった。
2011年に、アリペイはタオバオから分離をされ、小微金融服務に移管される。2014年には、この企業が蚂蚁金融服务と改名される。蚂蚁は昆虫のアリのことで、服務とはサービスのことだ。つまり、アント・フィナンシャル・サービスのことで、この企業の英語名がアントフィナンシャルになる。つまり、アリペイは、決済から金融に転換をし、余額宝や相互宝などのサービスが登場してきた。
2020年7月、アントフィナンシャルはアントグループに改称をした。井賢棟CEOは、金融企業からテクノロジー企業になることを表したものだと説明している。しかし、テクノロジー企業という言い方は範囲が広すぎて、具体的にどの方向を目指すのか迷っている、あるいは模索をしているのだと思われる。
▲WeChatペイのサービスは数も少ないが、数百万のミニプログラムにアクセスができる。いわば、「WeChatペイにないサービスはない」状態になっているため、WeChatペイの利用回数シェアはすでにアリペイを抜いている。日常の少額決済が基本であるため、決済金額シェアではアリペイに負けているものの、肩を並べる、あるいは逆転の可能性も生まれてきている。
決済回数ではWeChatが優勢。低下するアリペイの存在感
その間にもライバルのWeChatペイが急速に追い上げてきている。決済金額シェアでは55:40と差をつけているが、決済回数シェアではWeChatペイがアリペイを上回っているという調査結果が相次いでいる。アリペイは、ECでの決済に多く使われるため、決済金額が大きめになる。一方、WeChatペイは、ミニプログラムなどでフードデリバリーなどの日常の決済が多くなるため決済金額は小さめになる。そのため、決済金額シェアではアリペイが上回っているものの、「中国人がいちばん多く使うスマホ決済」という点では、WeChatペイになるのだ。
アリペイの存在感が低下をしていることは確かだ。勢力図が安定していたスマホ決済の世界にも波乱が起きる可能性が出てきている。